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2022年2月5日実技part1

2022年2月5日実技part1

part1 問題文

●設 例●
X株式会社(非上場会社・製造業)は、Aさん(80歳)が40年前に設立した会社である。長年にわたって複数の大手メーカーから受注し、余剰資金は7億円以上あって財務内容に問題はないが、直近では2期連続して売上高が減少し、先行きは不透明な情勢である。
Aさんは、2017年に社長職を長男Cさん(50歳)に譲り、現在は相談役としてX社に在籍している。Aさんが100%所有していたX社株式のうち、8万株は2018年に事業承継税制(特例措置・相続時精算課税制度を利用)を活用して長男Cさんに贈与(贈与時の価額は8億円)し、残りの4万株は現在もAさんが所有している。
先日、長男CさんのもとにM&A仲介業者が訪れ、「X社株式を譲渡する気はないか。買手企業の詳細はまだ明らかにできないが、全国展開している上場会社で、X社の事業に非常に魅力を感じている。よければ今度相手方と面談する場を設けたい」との提案を受けた。

【事業承継について】
Aさんは、以前から、長男Cさんの息子である孫Eさん(28歳)がゆくゆくは長男Cさんの後継者となるのだろうと漠然と思い描いていた。そこで、大学卒業後、大手メーカーに勤務している孫Eさんを時機を見てX社に入社させてはどうかと長男Cさんに聞いてみた。
しかし、長男Cさんは、「まずは子の意向を最大限尊重すべきであり、子が後継者となることを前提に将来のX社について考えたくはない。事業承継については、あらゆる可能性を検討し、X社株式の売却についても話を聞いてみたい」とのことである。
Aさんは、現状で自身の相続が発生した場合のX社株式の取扱いは理解しているつもりであるが、仮にX社株式を他社に譲渡した後に相続が発生した場合にはどのようになるのか知っておきたいと思っている。

【資産承継について】
Aさんは、長男Cさんと長女Dさん(45歳)はとても仲が良く、相続財産をめぐる争いが起きるはずはないと安心している。また、2018年にX社株式を長男Cさんに贈与した際には、念のために遺留分に関する民法特例による除外合意の対象としており、現状の所有財産で遺産分割をすることに問題はないと考えている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金:1億5,000万円
2.X社株式(4万株):3億6,000万円
3.自宅
 (1)土地(450u):9,000万円
 (2)建物(二世帯住宅、築20年):3,000万円
4.X社本社土地(500u):1億円(注)
5.賃貸アパート
 (1)土地(200u):4,000万円
 (2)建物(築20年、8室):1,000万円(年間収入約800万円)

合計: 7億8,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額(7億8,000万円に基づいて計算)は、約2億5,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

【X社の概要】
資本金 :6,000万円
会社規模:大会社
従業員数:100人
売上高 :30億円
経常利益:1億2,000万円
純資産 :14億円
株主構成(発行済株式総数12万株):Aさん4万株、長男Cさん8万株
株式の相続税評価額:類似業種比準価額9,000円/株、純資産価額12,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(ただし、Aさんは実態として完全な引退であることが必要)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(6) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の継続適用
(7) M&Aによる株式譲渡

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) M&Aを実施した場合における、遺留分に関する民法の特例の解除検討
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 配偶者居住権の設定

3. M&A実施後の相続発生時の自社株式の取扱い

(1)事業承継税制適用後にM&Aを実施した場合の取扱い
事業承継税制の特例を活用後、M&A等による納税猶予された株式の譲渡や合併による会社消滅、会社の解散が発生した場合、特例適用後5年以内は一部譲渡でも猶予打ち切り、5年経過後は譲渡分のみ猶予打ち切りとなり、猶予税額の全部または一部と利子税の納付が必要となる。ただし、経営環境が非常に悪化している場合には、譲渡・合併・解散時の相続税評価額で納付金額が再計算され、当初の納税猶予額との差額は猶予される。

本問では後継者である長男Cさんは、将来のX社売却を検討していることから、役員給与や役員退職金の増額を社内規定で定めることで、将来発生する猶予税額の納付に備えておくことが必要である。

(2)相続時精算課税を適用した株式の贈与税の課税関係
事業承継税制の特例を活用後に、M&A等により納税猶予が打ち切られた場合でも、相続時精算課税の適用を受けているときは、特別控除2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、2,500万円を超える部分については一律20%で課税される。
これに対し、相続時精算課税を受けていなかった場合、納税猶予打ち切り時には暦年贈与として最高55%の税率で課税されるため、贈与税負担に大きな違いが発生する。
本問の場合は事業承継税制の特例活用時に相続時精算課税の適用を受けているため、贈与税の税負担は大幅に抑えることが可能と思われる。

4. M&Aを実施した場合における、遺留分に関する民法の特例の解除検討

遺留分に関する民法の特例により、遺留分算定基礎財産価額に算入しない「除外合意」や算入額を固定する「固定合意」をした場合、自社株式に関わる遺留分侵害額請求を回避することができる。ただし、合意後に後継者が対象株式を譲渡したり、対象会社の代表者を退任した場合には、後継者以外の推定相続人は、他の推定相続人と共同して合意を解除したり、後継者に対して金銭の支払を請求する等の、あらかじめ合意時に定められた措置をとることが可能。

つまり、合意時は対象会社の安定的な存続を目的に、後継者以外の推定相続人は除外合意・固定合意をしているため、株式の譲渡や代表者の退任により、合意時と異なる状況となった場合には、合意の解除や金銭支払い等により後継者以外の推定相続人にも公平な遺産分割となるように、あらかじめ合意時に取り決めておくことが、経営承継円滑化法上に定められている。

本問の場合も、X社株式に関しては除外合意しているものの、M&Aにより株式が現金化された場合には、著しく長男に偏った生前贈与となってしまうため、合意の解除や金銭支払い等の、合意時の取り決めに従った対応が必要となると思われる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や事業承継方法等に関する顧客の理解度を確認する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、「他社とのM&Aを検討している」という非常に取扱いに注意を要する事柄であることから、顧客の秘密漏洩を防止する「守秘義務」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】Rohan FP1級実技面接体験記2022.2.5PART1

目次          2022年2月5日part2
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