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2023年6月10日実技part1

2023年6月10日実技part1

part1 問題文

●設 例●
大都市圏で電子部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)は、代表取締役社長であるAさん(75歳)が30年前に友人のEさん(75歳)と設立した会社である。X社の技術力は取引先から高く評価され、経営状態は良好であり、今後も取引のさらなる拡大が見込まれている。

【事業承継について】
Aさんは、3年後をめどに非常勤の相談役となり、長男Cさん(45歳)に経営を任せたいと考えている。長男Cさんは、5年前にX社の取締役に就任して以来、いっそう精力的に業務に邁進し、社内外の関係者から一目置かれた存在となっている。
Aさんは、将来の事業承継を見据えて、所有しているX社株式を数年前から暦年贈与により長男Cさんに移転しており、現在、Aさんが50%、長男Cさんが20%のX社株式を所有している。ただ、直近の税制改正によって相続税制・贈与税制が一部変更されたとの話を聞き、このまま暦年贈与を続けていて問題がないのかどうか不安に感じている。
また、X社の専務取締役であるEさんは、Aさんの退任とともに自身も身を引くつもりで、その際には、所有している30%のX社株式をX社か長男Cさんに買い取ってほしいとのことであり、Aさんはどのように対応すればよいのか思案している。

【資産承継、資産運用について】
Aさんは、自宅で妻Bさん(70歳)と2人で暮らしている。先月、他県に暮らす長女Dさん(42歳)が、久しぶりに3人の子(17歳、15歳、12歳)を連れて帰ってきた際、教育費の負担が大きくて大変だとこぼしているのを聞き、孫のために教育資金を援助してあげたいと思っている。
また、Aさんは、先日、NISA制度が来年から大幅に拡充されるとの雑誌記事を目にし、その仕組みや拡充内容について知りたいと思っている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 2億3,000万円(役員退職金は考慮していない)
2.X社株式 : 4,500万円
3.自宅
(1)土地(300u) : 9,000万円
(2)建物(築40年) : 2,000万円
4.X社本社土地(400u) : 1億2,500万円(注)

合計 : 5億1,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億3,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:40人 配当:毎期20円/株
売上高:5億円 経常利益:3,000万円 純資産 :1億8,000万円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん50%、長男Cさん20%、Eさん30%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額9,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

【Aさんの家族構成】
妻Bさん(70歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):X社の取締役。妻と子の3人で持家に住んでいる。
長女Dさん(42歳):パート従業員。会社員の夫と3人の子の5人で夫所有の持家に住んでいる。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の確保、相続税の軽減対策

(1) 生命保険の活用
(2) 金庫株の活用
(3) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(4) 小規模宅地の特例の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税措置やジュニアNISAの検討
(4) 金庫株を用いた長男から長女への代償分割

3. 相続税・贈与税の税制改正による影響

従来、相続や遺贈により財産を取得した場合、被相続人から相続開始前3年以内に贈与された財産は、相続税の課税価格に加算(加算される価額は、贈与時の価額)されていたが、税制改正により2024年以降の贈与から7年に延長される。これにより、相続税対策として生前贈与を進めていた場合でも、相続税の課税対象となる持ち戻しの期間が3年から7年に延びることでより相続税負担が大きくなる可能性が高まったといえる。
なお、相続開始前3年以内に贈与された財産は全額相続税の課税価格に加算されるが、相続開始前4〜7年前に贈与された分については、全体から100万円を控除した額が相続税の課税価格に加算される。

また、これまで相続時精算課税は特別控除2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、2,500万円を超える部分については一律20%で課税される制度であったものが、税制改正により2024年以降の贈与から年110万円の基礎控除が追加される。これにより、従来相続時精算課税を選択すると少額の贈与でも贈与税の申告が必要であったものが、基礎控除110万円の範囲内の贈与であれば申告不要で贈与税・相続税の負担無しとなり、相続時精算課税の特別控除2,500万円も利用可能となった。
税制改正後も相続時精算課税と暦年課税は併用できない点に変更はないが、相続時精算課税にも基礎控除110万円が追加され生前贈与加算の持ち戻しの対象外でもあるため、制度の利便性が向上したといえる。

4. 事業承継を考慮した株主構成

専務Eさん所有分の30%については、将来Eさんの相続発生により株式が散逸する可能性があるため、業績が堅調なX社が金庫株として買い取ることが望ましい。
なお、個人が非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、買い取ってもらった金額のうち資本金等の額を超える分については、「みなし配当」(配当所得)となり、総合課税として累進税率が適用される(相続や遺贈で取得した株式の場合は、譲渡所得とされる)。

ただし、相続や遺贈で非上場株式を取得した人が、相続税の申告期限の翌日以後3年以内(相続開始後3年10ヶ月以内)に発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税は行われず、譲渡価額と取得価額の差額全額が譲渡所得として20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の申告分離課税の対象となる。
本問の場合、将来的に専務Eさんの相続が発生した際には、相続で取得した遺族から買い取るときに、申告分離課税が適用される可能性がある。

5. 孫の教育資金の援助方法の検討

教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となるが、贈与者の死亡時期にかかわらず、贈与者が死亡した場合には、残額が相続税の課税価格に加算される。ただし、相続開始時に23歳未満の受贈者や、在学中・教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講中の受贈者は、生前贈与加算の対象外となる。

さらに、税制改正により2024年以降の贈与からは、贈与者の死亡時点で贈与者の相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても残額が相続税の課税価格に加算される。

Aさんの場合、現時点で所有財産が5億円を超えており、教育資金の非課税特例を利用しても、将来的な相続発生時に残額が生前贈与加算の対象となってしまう可能性が高い。よって、相続時精算課税に追加された基礎控除110万円の範囲内での生前贈与による教育資金の援助を提案する。
また、2023年まではジュニアNISAも活用可能であるため検討することを提案する。

6. 新NISAの仕組み・拡充内容の確認

これまでNISAには一般NISA・つみたてNISA・ジュニアNISAの3種類があったが、2024年1月からは新NISAとして制度改正される予定である。
新NISAの仕組み・拡充ポイント>
・一般NISA(成長投資枠)とつみたてNISA(つみたて投資枠)の一本化(併用可能)
年間投資上限額 :最大360万円(成長投資枠240万円、つみたて枠120万円)
生涯非課税限度額:最大1,800万円(成長投資枠は上限1,200万円)
非課税保有期間 :無期限

これまでは一般NISAとつみたてNISAの併用はできず、非課税期間も一般5年、つみたて20年という制限があったが、いずれも解消された。
また、年間投資上限額(一般120万円→成長240万円、つみたて40万円→120万円)や非課税限度額(一般600万円、つみたて800万円→最大1,800万円)も大幅に拡充されたため、長期にわたって多額の資産形成を目指すことが可能となった。

なお、ジュニアNISAについては2023年で廃止される予定である。

Aさんの場合、多額の現預金を保有していることから新NISAの非課税限度額1,800万円を5年にわたって利用することで、十分に余裕資金で長期投資が可能と思われる。
また、ジュニアNISAは2023年中であれば利用可能であるため、教育資金の援助として孫4名に80万円ずつ贈与することで、基礎控除110万円の範囲内で孫が18歳になるまで非課税で投資可能となる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】杉山香 FP1級実技試験体験記2023年6月10日part1

【note】うりぼう うりぼうのFP1級実技試験体験記(1)

目次          2023年6月10日part2
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