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2023年6月10日実技part2

2023年6月10日実技part2

part2 問題文

●設 例●
Aさん(65歳)は、同居していた母親が2年前に亡くなった際、自宅の建物(甲建物)を相続し、自宅の敷地(甲土地)は、Aさん、弟Bさん(63歳)、妹Cさん(55歳)の3人がそれぞれ各3分の1の共有持分で相続した。父親は10年前に他界している。Aさんは、現在も甲建物で妻(63歳)、長男(35歳)、長女(30歳)との4人で暮らしている。甲土地の固定資産税・都市計画税は持分割合に応じて3人が負担しているが、Aさんは弟Bさん、妹Cさんに対して地代は支払っていない。
Aさんは、先日、弟Bさんから、「税金を負担するだけで甲土地を利用できないのは不公平だ。土地を分割してそれぞれの持分相当に分けてほしい」との話があり、甲土地の分割案を提示された(右図参照)。また、この分割案ではAさんの取得面積が大きくなるため、面積の差分については現金で精算してほしいとの希望も伝えられた。妹Cさんも弟Bさんの分割案に賛同しているとのことである。
Aさんとしては、母親の介護は同居していた自分たち家族が行ってきたし、母親の相続時には、弟Bさん、妹Cさんに母親の預金から相続財産として各300万円を渡して納得してもらった経緯があることから、現状のままでがまんしてほしいという気持ちがある。
なお、弟Bさんには妻(65歳)と長男(37歳)がおり、妹Cさんには夫(60歳)と長女(25歳)がいる。Aさんが知り合いの不動産業者に相談したところ、現在の共有状態のままでは将来トラブルが起こる可能性があるため、共有関係の解消を考えたほうがよいとのことで、Aさんは頭を悩ませている。

【甲土地・甲建物の概要】
・甲土地:地積442u、最寄駅から徒歩10分、固定資産税評価額7,700万円
Aさん、弟Bさん、妹Cさんが共有(持分各3分の1)

・甲建物:木造2階建て、築30年、延べ面積140u、固定資産税評価額500万円
Aさんが単独所有

・甲土地上には、北側に甲建物が建ち、南側に駐車場、倉庫、庭がある。

(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.共有の甲土地上にAさん名義の甲建物がありますが、現在の権利関係はどのようになっていると考えられますか。また、現在の共有状態のままだと将来どのようなトラブルが発生する可能性が考えられますか。
3.甲土地の共有関係を解消するためには、どのような方法が考えられますか。
4.弟Bさんが作成した甲土地の分割案についてどのように思いますか。Aさんにどのようなアドバイスをしますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

【弟Bさんが提示した甲土地の分割案】

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part2 ポイント解説

1. アドバイスに当たって必要な情報

(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、同居している妻や子2人に対して、現在の土地の共有関係や弟Bさんの分割案についてどのように考えているかも確認しておきたい。なお、妹Cさんも弟Bさんの分割案に賛同しているということだが、各3分の1の共有持分で相続したにも関わらず分割案での妹Cさんの取得面積が最も小さくなるため、弟Bさんから聞いた話なのであれば妹Cさんに直接確認してもらうことが必要。

(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
特に本問の場合には共有状態の土地を分筆・分割する可能性があるが、上下水道やガス管等のインフラ設備が弟Bさんや妹Cさんの取得予定部分にある場合、分割後に新たな引き込み工事等が必要になる可能性があるため、現地確認が重要となる。
また、弟Bさんは分割後に取得した土地の利用を希望している一方、Aさんも現状の甲建物への居住を継続したいと思われるため、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。

2. 甲土地・建物の現在の権利状況と将来発生するトラブルの可能性

本問の土地の権利関係は、Aさん・弟Bさん・妹Cさんの共有であり、Aさんはその上にAさん名義となっている甲建物に居住しているが、Aさんは弟Bさんや妹Cさんに地代を払っていない。従って、Aさんは地代を取らない使用貸借で借り受けた土地に、自分名義の建物に居住していることになり、相続税評価額は、自用地となる。
使用貸借は地代を取らないため、土地の使用権は経済的価値が極めて低いと考えられ、相続税評価上はゼロと考えられるため(借地権の価値ゼロ)。

また、共有持分となっている不動産について、持分だけの売却や抵当権設定は可能。よって、弟Bさんや妹Cさんが自身の持分について売却したり、抵当権を設定することについて、Aさんは拒否することは出来ない。

なお、共有不動産の場合、その不動産全体の売却等には共有者全員の合意が必要となる。従って、甲土地全体の有効活用には、Aさん・弟Bさん・妹Cさんの全員の合意が必要。

従って現状の共有状態を継続した場合、共有持分の第三者への売却が発生したり、共有者全員の合意が得られずに土地の有効活用が進まないといったトラブルが発生する可能性がある。

また、民法改正により2024年4月以降は共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し使用の対価を支払う義務を負う(無償使用の合意がある場合の除く)ことが明文化された。よって、Aさんだけが甲土地を無償利用している点について、母親の相続時に遺産分割協議書等で書面による合意が無ければ、今後使用料を支払う必要が発生する可能性もある。

3.土地の共有関係を解消する方法

(1) マンション建設に伴う等価交換
デベロッパーとの等価交換事業により、マンションを建設し、底地・借地権に応じたマンションの一部を取得する。
○メリット :資金負担無しで建物を取得可能
建物の専有部分を複数取得することで、分割しやすい資産へ整理可能。
立体買換え特例により、譲渡所得の繰り延べ可能。
○デメリット:土地は実質共有

(2) 底地と借地権の共同売却
土地の底地と借地権を、共同で他者に売却し、土地から金融資産とする方法。
○メリット :分割しやすい金融資産へ整理可能。
○デメリット:賃貸収入の消滅譲渡所得税負担の発生。

(3) 現物分割
共有状態の一筆の土地について、法務局で分筆登記する。分筆された土地は各共有持分者による共有のままのため、それぞれ持分全部移転登記することで、それぞれ単独所有の土地とすることができる。
※つまり、文筆した後もそれぞれの土地にお互いの所有権(持分)が残ったままなので、持分全部移転登記でお互いの所有権(持分)を解消することが必要。
○メリット :共有持分に応じて現物分割すると、資産の譲渡や贈与に該当せず、課税されない(土地のように、効用を一にする一個の共有資産の場合)。
○デメリット:各筆の土地面積が小さくなり、評価額が下がる可能性がある。土地をまたいだ建物がある場合の取り決めが必要。

本問の場合は甲建物の所有者Aさんは甲土地の共有者でもあるため借地権は発生せず、賃貸収入も現状関係ないが、甲土地は第一種住居地域で最寄駅から徒歩10分と利便性がよい立地ではあるが、建ぺい率と容積率を考慮すると建築できるのは小規模なマンションとなり等価交換事業は成立しにくいと思われる。
Aさんに共有持分の買い取り資金があれば、弟Bさんと妹Cさんの持分の買い取りも検討できると思われるが、多額の資金が必要でありこれからの老後資金が目減りするのはAさんとしても望まないと思われる。

4. 弟Bさんが作成した甲土地の分割案への考え方とAさんへのアドバイス

弟Bさんの分割案では、Aさんが取得する土地は間口が2mと、接道義務は満たすものの狭小な路地状敷地(旗竿地)となってしまうため、公道からのアクセスが不便となってしまい、土地の有効活用がしにくく、売却する際の評価額も下がってしまう可能性がある。
また、各3分の1の共有持分で相続したにも関わらず分割案での妹Cさんの取得面積が最も小さく、妹Cさんが本当は弟Bさんの分割案に賛同しておらず、後からトラブルになる可能性もある。

弟Bさんの分割案に従った場合も、それぞれの取得面積は小さな土地となってしまい、売却や有効利用する際の評価額も下がってしまうと思われる。また、甲建物は木造築30年でそろそろ大規模な修繕も必要になってくる時期であり、居住しているAさん家族にとっても必ずしも生活しやすい生活設備となっていない可能性がある。
従って共有関係を解消するのであれば、甲土地全体を売却し、売却代金を3者で等分した方が、各人が得られる対価も大きいと思われることを提案する。

5. 関与すべき専門職業家

甲土地・建物の権利関係を整理する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、不動産取引上の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、権利整理後の不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。

◆この試験問題の公開体験談

【note】杉山香 FP1級実技試験体験記2023年6月10日part2

【note】うりぼう うりぼうのFP1級実技試験体験記(2)

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