TOP > 実技過去問ポイント解説 > 2023年2月1日実技 > 2023年6月17日実技part1

2023年6月17日実技part1

2023年6月17日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(68歳)は、妻Bさん(66歳)、長女Cさん(42歳)、二女Dさん(38歳)との4人家族で、個人で不動産賃貸業を営んでいる。Aさんは、将来の相続税の支払が現状の金融資産で足りるのかどうかが心配になり、所有する不動産を活用した相続対策を検討している。

【Aさんが所有する不動産の概要】
(1)別荘
20年前に避暑地に購入した別荘について、最近はほとんど利用していないため、貸家として活用することを検討している。ただ、ずっと貸し続けるつもりはなく、一定期間の期限付きで賃貸する方法がないか知りたいと思っている。

(2)テナントビル
テナントビルは、鉄骨造8階建て、延べ面積1,000u(各階の床面積は125uで同一)で、23年前に建設した。現在、1〜6階は賃貸し、7〜8階は妻Bさんと二女Dさんとの3人で暮らす自宅として使用している。立地が良好なことから空室はなく、年間4,500万円の家賃収入(不動産所得3,000万円)を得ている。

(3)月極駐車場
月極駐車場として一定の収入を得ているが、固定資産税・都市計画税の負担を考えると収益性は高くない。テナントビルの建設時に融資を受けた金融機関に相談したところ、「賃貸マンションの建設や事業用定期借地権による貸付を検討してみませんか」との提案を受けた。Aさんは、まだ残債があるため、新たな借入れには消極的であるが、これらの選択肢の効果を検討し、今後の利用形態を考えたいと思っている。

なお、Aさんは、自身の相続開始後、長女Cさん、二女Dさんの2人が賃料収入を得られるようにしたいと考えている。また、Aさんは、最近、減価償却費が少なくなり、所得税の負担が大きくなったと感じていた。先日、同業の知人から「法人を設立すれば税負担を軽減できる」との話を聞き、その仕組みを詳しく知りたいと思っている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金  : 1億円
2.有価証券 : 1億円
3.別荘
(1)土地(200u) : 2,000万円
(2)建物(築20年) : 1,000万円
4.テナントビル
(1)土地(400u) : 3億2,000万円
(2)建物(築23年) : 2億円
5.月極駐車場(1,000u) : 1億円
6.借入金 : △7,000万円

合計 : 7億8,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億5,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん(66歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(42歳):専業主婦。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
二女Dさん(38歳):会社員。Aさんと自宅で同居している。

【親族関係図】

ページトップへ戻る

part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足、相続税の軽減対策

(1)生命保険の活用(法人契約だとより軽減効果有り)
(2)小規模宅地の特例の活用
(3)贈与税の配偶者控除の活用
(4)法人の設立と法人への不動産の賃貸

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(4) 贈与税の配偶者控除の活用
(5) 配偶者居住権の設定

3. 不動産を活用した相続対策

(1)別荘
一定期間の期限付きで賃貸する方法を検討していることから、定期借家や民泊新法(住宅宿泊事業法)の活用を提案可能。
定期借家契約は、原則として更新がないため、契約期間満了後は、借主は退去することが必要。ただし、貸主と借主双方が合意すれば、再契約は可能
また、定期借家契約には存続期間の制限がないため、1年未満の短期の契約期間も認められ、20年超の長期の契約期間も認められる。
なお、民泊新法(住宅宿泊事業法)に従って運営する場合でも、今後地方自治体独自の条例で規制が上乗せられる可能性もあるため、別荘がある避暑地における民泊関連の情報を収集することが必要。

(2)テナントビル
土地の評価額が他の所有不動産よりも高いため、本物件に小規模宅地の特例を適用することで最も大きな相続税軽減効果が期待できる。小規模宅地の特例は配偶者には必ず適用されるため、自宅部分を配偶者が相続すれば特定居住用宅地として80%の評価減が適用される。また、被相続人の同居親族が取得した場合、申告期限まで継続居住・保有することで、特定居住用宅地として小規模宅地の特例を受けることが可能であるため、二女Dさんが相続した場合でも同様の評価減となる。
貸付事業用との併用は、特例を適用する敷地面積に応じて調整計算する必要があるため、賃貸部分については大きな評価減とはならないが、他の所有不動産に適用するよりも本物件に適用した方が軽減効果があると思われる。
なお、不動産事業を法人化するならば、本物件の建物部分のみ法人に譲渡することで、賃貸収入を法人に移行させて個人の資産蓄積を回避することも可能。

(3)月極駐車場
土地所有者が、所有する宅地を青空駐車場として賃貸している場合、借地権等は発生しない(土地利用を目的とした賃貸借ではなく自動車を保管する契約とされる)ため、自用地として評価されるが、自分が所有する土地に建築した家屋を他に貸し付けている場合、土地は貸家建付地として評価され、自用地評価よりも借地権や借家権の割合分が減額された相続税評価額となる(自分の土地にアパートを建てて賃貸している等)。
また、定期借地権が設定されている土地は、「貸宅地」として自用地価額から定期借地権価額を控除した金額で評価される。ただし、定期借地権価額は、定期借地権の残存期間に応じて減額割合が逓減するため、残存期間が短い場合は相続税負担の軽減は期待できない。

金融機関の提案のうち、融資を受けて賃貸マンションを建設した方が相続税の軽減効果は大きいが、Aさんが新たな借入に消極的であるため、事業用定期借地権を設定して貸宅地として他者に賃貸することで、月極駐車場の現況よりは収益性を向上しつつ評価額を下げて相続税の軽減を図ることができると思われる。

4.相続開始後に子2人が賃料収入を得られるようにする方法

不動産賃貸業を法人化せずに個人のまま継続した場合、Aさんの相続発生後に子2人が賃貸収入を得られるようにするには、別荘・テナントビル・月極駐車場をバランスよく相続させることが必要となる。ただし、現状ではテナントビルの収益性と評価額が突出して高く、別荘と月極駐車場を合わせてもテナントビルとは大きな差がある。
二女Dさんが独身で現在テナントビル内の自宅でAさん・妻Bさんと同居していることを考慮すると、テナントビルの賃貸部分については二女Dさん(もしくは妻Bさん)が相続する方が自然だと思われる。このため、長女Cさんが別荘と月極駐車場を相続することになるが、収益性や評価額の差を埋めるために現預金や有価証券についても多めに分配することが望ましい。もしくは現預金や有価証券、新たな借入金を原資として資産を収益性の高い不動産に組み換えることも検討に値する。

不動産賃貸業を法人化した場合には、同程度の株式を子2人に相続させることで、法人の賃貸収入を株式からの配当や役員報酬等により得られるようにすることが可能。株式数や役職が同程度であれば得られる配当額や役員報酬額に差は出ないため、バランスの良い相続が可能となる。

5. 所得税対策としての法人化

◆メリット
・賃貸収入は法人のものとなるため、法人税の比例税率と所得分散による所得税軽減効果有り。
⇒法人設立による所得税負担の軽減は、個人所得が900万円程度以上ないと十分なメリットを享受できないが、Aさんの場合不動産所得3,000万円であり、税負担のメリットを享受できると思われる。
・相続発生の際、不動産ではなく株式の相続となるため、純資産価額方式による評価となっても相続税負担の軽減効果有り。またより分割しやすい資産となるため、スムーズな遺産分割効果有り。

◆デメリット
・法人側には不動産取得による登録免許税・不動産取得税、オーナー側には保有不動産の法人への譲渡による譲渡所得税の負担有り。
株式の散逸により不動産の帰属が曖昧になる可能性有り。
・賃貸収入は法人のものとなるため、オーナーが自由に使えるお金に制限がかかるようになる(役員報酬の範囲内)。

また、不動産賃貸業を法人化する場合、土地の名義は個人のままとし、建物のみ法人に譲渡することで、賃貸収入のみ法人に移行する方法を提案する。
法人は個人の土地を借りる形となるため、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出することで、借地権の認定課税を避けることができる。さらに、土地は貸宅地となり、相続時には自用地価額の80%相当額として評価されるため、相続税対策にもなる。
法人からは個人に地代を支払うが、家賃収入に比べれば低額であり、多くの所得を法人に移行することが可能。
建物のみであれば法人の資金負担も少なく、簿価が時価と大きな乖離がなければ、簿価で譲渡することで個人側にも譲渡所得が発生しない

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

ページトップへ戻る

FP対策講座

<FP対策通信講座>

●LECのFP講座(キーワード検索欄で「1級」と検索) ⇒ FP(ファイナンシャル・プランナー)サイトはこちら

●1級FP技能士(学科試験対策)のWEB講座 ⇒ 1級FP技能士資格対策講座(資格対策ドットコム)

●通勤中に音声学習するなら ⇒ FP 通勤講座

●社労士・宅建・中小企業診断士等も受けるなら ⇒ 月額定額サービス【ウケホーダイ】

ページトップへ戻る

Sponsored Link

実施サービス

Sponsored Link

メインメニュー

Sponsored Link

サイト内検索

Sponsored Link

Copyright(C) 1級FP過去問解説 All Rights Reserved.