2015年2月7日実技part1
2015年2月7日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(72歳)は、機械器具製造業を営む非上場企業X社の社長である。X社の業績は無難に推移しており、年商20億円、経常利益5,000万円を計上している状況である。Aさんはこれまで約40年間、社長として頑張ってきたが、2020年に東京オリンピックの開催が決定し、これから受注向上が予想されることから、X社を後継者に承継する機会ではないかと考えている。
Aさんは、先般、家族が集まったときに、現在専務として社業についている長男Cさん(43歳)を後継者とし、そろそろ社長職を引退しようと考えている旨の話をした。その際、大手商社に勤めている二男Dさん(41歳)も、いずれX社の経営に参画したいようなことを話していた。Aさんとしては、兄弟が仲良く会社を盛り立ててくれれば、これほどうれしいことはないと思っている。
Aさんは、数年前に実弟が所有していたX社株式20%を買取り、長男Cさんと二男Dさんにそれぞれ10%ずつ贈与している。現在、AさんがX社株式の80%を保有しているが、今後、誰にどのように移転させればよいか迷っている。
長女Eさん(38歳)は、地方公務員と結婚して2人の子がおり、安定した生活を送っているが、住宅ローン等もあり、生活はけっして楽ではないようである。ついては子供の教育資金について援助してほしい旨の相談があり、Aさんは何とかしてやりたいと考えている。
また、Aさんは、自分の亡き後に妻Bさん(70歳)が生活に困らないよう、自宅と生活に必要な資金は準備しておきたいと思っている。
Aさんは現預金1億円を保有しており、資金運用について、最近、銀行から外貨預金を勧められているが、その概要について知りたいと思っている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 : 1億円
X社株式 : 4億円
退職金 : 2億円(支給予定額)
自宅土地(400u) : 2億円
自宅建物 : 5,000万円
X社本社敷地(600u) : 3億円
賃貸不動産(土地・建物): 2億円(年間家賃1,500万円)
合計 :14億5,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は5億4,500万円(配偶者の税額軽減適用前)を超えると見積もられている。
【Aさんの家族構成
妻Bさん(同居)
長男Cさん(妻、子2人)
二男Dさん(妻、子2人)
長女Eさん(夫、子2人)
(C,D,EはAと別生計)
【X社の概要】
資本金:2,500万円 会社規模:大会社
株主構成:Aさん80%、長男Cさん10%、二男Dさん10%
株式の相続税評価額 :1万円/株
発行済株式総数:5万株
従業員数:55人
part1 ポイント解説
顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1)生命保険・金庫株の活用
(2)役員退職金の支給
(3)自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4)非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用
2.遺産分割対策・事業承継対策
(1)遺言の作成
(2)遺留分に関する民法の特例の活用
(3)相続時精算課税制度による生前贈与の活用
(4)孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
3.X社株式の移転配分・方法
Aさん所有の株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用により、税負担を抑えながら移転することが可能。
ただし、適用対象は発行済議決権株式の3分の2までのため、Aさん所有分(全体の80%)のうち、適用外の株式は、後継者への譲渡や金庫株とする必要がある。
また、兄弟に同等の株式配分で相続させた場合、経営方針に関して両者の意見が相違した場合に企業としての意思決定に支障をきたす恐れがあるため、可能であれば全ての株式を長男に集中させることが望ましい。
兄弟による会社経営は親族間の争いにつながる可能性もあるため、生前に会社分割し、それぞれの会社を相続させる方法も検討に値する(相続発生後の分割では納税猶予の対象外となるため)。
なお、二男所有分の10%についても、将来弟の相続発生により株式が散逸する可能性があるため、経常利益が順調なX社が金庫株として買い取ることが望ましい。
4.長女の子供2人の教育資金
教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となる(学校等に直接支払われる入学金や授業料等ついては1,500万円まで、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)。
教育資金として、信託銀行等の取扱い金融機関に預け入れ、教育資金管理契約を締結することが必要なほか、受贈者が30歳になると教育資金管理契約が終了し、終了時に非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額がある場合(非課税口座にお金が残っている場合)には、その残額はその年の贈与税の課税価格に算入(贈与税が課税)される。
資金の使用使途が限定されており、自由度は低くなるが、贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合でも、相続税の課税財産に加算されないため、確実に教育資金として贈与することが可能。
5.妻に遺す自宅と生活資金の確保
平成27年1月1日以降の相続・遺贈から、小規模宅地の特例により、特定居住用宅地は330uを上限に、80%減額。また、小規模宅地の特例は、配偶者には被相続人との同居や相続後の居住継続といった特定居住用宅地に対しての適用要件に制限がなく、必ず適用される。
また、安定的な生活資金の確保として、遺言で賃貸不動産を妻に相続させることで、年金以外に毎年安定的な家賃収入を遺す事が可能(なお、小規模宅地の特例は自宅に優先適用するため、賃貸不動産には適用できない)。
上記の相続に関して、「配偶者に対する相続税額の軽減(相続税の配偶者控除)」により、被相続人の配偶者が財産を取得した場合に、法定相続分相当額、または1億6,000万円のいずれか高い方までは、相続税がゼロになるため、一時相続時においては相続税負担を抑えながら妻に財産を遺すことが可能。
6.外貨預金に関する説明
外貨預金は、円貨を外貨に換えて金融機関に預け入れる金融商品で、相対的に金利水準の高い外貨で運用するため、一般に円預金よりも高金利である。ただし、外貨預金は預金保険制度の保護の対象外であるため、預け入れた金融機関が破綻した場合には保護されないことに注意が必要。
また、外貨預金や外国債券等の外貨建て金融商品には、為替変動リスクがあるため、基本的に円高外貨安になると、円ベースで評価損が膨らむことになる。急激な円高が進んだ場合には、高利回りをうたっている金融商品であっても、為替変動による損益が最終的な運用実績を左右しやすい。
Aさんの現在の金融資産は、将来のリタイヤ資金かつ相続税の納税資金ともなるものであることから、外貨建て金融商品に投資するとしても、全体の一部に留めておくことを提案する。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、外貨預金に関しても金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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