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2016年6月4日実技part1

2016年6月4日実技part1

part1 問題文

●設 例●
【Aさん(71歳)】
食料品製造業を営む非上場企業X社の創業社長である。X社は、Aさんが40年前に設立して以来、ロングセラー商品を中心に業容を拡大させてきた。しかし、近年はロングセラー商品の売上額が減少し、ヒット商品にも恵まれず、前期は赤字に転落した。今期も赤字決算が予想され、2期連続での赤字決算となる見込みである。過去の内部留保が多く、また赤字額が少ないため、今のところ経営に対する影響は出ていない。
Aさんは、新商品の発売を機に社長職を辞し、X社を去る決意をした。新商品は、Aさんの長年の経験上、ヒット商品になる手ごたえを感じている。今後は、希望退職者を募り、人員の削減を図るなど会社の体質を強化したうえで、専務取締役の長男Cさん(44歳)に事業を承継し、長男Cさんを含む若手社員にX社を託すつもりである。Aさんは、X社が黒字に転ずるまでは、毎年行っていた配当をゼロにしたいと思っているが、自社株式の評価のうえで何が問題となるか、わからない。また、今後の事業承継や遺産分割については、長男Cさんと相談して実行する予定である。Aさんの所有財産の概要(相続税評価額、小規模宅地等の評価減適用前)は、以下のとおりであり、Aさんの相続に係る相続税額は、約1億9,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

現預金 :1億円
X社株式:2億円
自宅土地(360u)  :1億5,000万円
自宅建物(二世帯住宅):5,000万円
X社本社土地(400u):1億円
X社本社建物:5,000万円(年間家賃800万円)
合計 6億5,000万円

【妻Bさん(68歳)】
専業主婦。Aさんおよび長男Cさん家族と自宅(二世帯住宅)で同居している。

【長男Cさん(44歳)】
大手食品メーカー勤務を経て、30歳のときにX社に入社。10年前に専務取締役に就任し、Aさんを補佐してきた。妻と子2人(12歳・9歳)の4人家族である。

【二男Dさん(39歳)】
上場企業に勤務している。妻と子1人(7歳)の3人家族で、賃貸マンションに暮らしている。二男Dさんは長男Cさんとは関係が悪く、以前から、Aさんの相続が発生したら、相当額を相続しなければ納得できないと言っている。Aさんの相続について、申告期限までに分割ができないおそれがある。

【X社の概要】
資本金:5,000万円
年商 :21億円(損失金額:前期1,000万円)
今期の損失金額は約300万円と、赤字幅の縮小を見込んでいる。
株主構成:Aさん100% 会社規模:大会社 従業員数:120名
株式の相続税評価額:類似業種比準価額2,000円/株、純資産価額5,000円/株
発行済株式総数:10万株(配当は過去10年間、1株当たり25円)

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用(X社は過去の内部留保が多い)
(2) 役員退職金の支給
(3) 小規模宅地の特例の活用(二世帯住宅は内部が独立していても適用可能)
(4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用

2. 遺産分割対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 金庫株を用いた長男Cから二男Dへの代償分割
(4) 二男Dへの相続時精算課税制度による生前贈与・住宅資金贈与、孫への教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与の非課税措置の検討

3. 配当ゼロによる自社株式の相続税評価への影響

類似業種比準方式では、配当・利益・純資産の3比準要素で評価するが、直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである場合(比準要素数1の会社)、特定の評価会社の株式として純資産価額方式で評価することになる。
よって、数年にわたって業績が悪く利益が出ていないと、配当をゼロにすることで純資産価額方式での評価額(類似業種比準価額の2.5倍)となり、相続税負担が増してしまう。
赤字段階では配当を維持して納税資金や遺産分割対策資金を蓄積しつつ、黒字継続の見通しが立ってから配当をゼロとすることを提案する。

4. 二男Dが納得する遺産分割対策

円滑な事業承継と今後の確実な事業運営のためには、後継者である長男Cが全ての株式を相続することが望ましいが、相続税評価額が2億円と高額であるため、二男Dとの均等な相続は難しい。
従って、分割しやすい預貯金や役員退職金を二男Dに相続させるほか、長男Cが相続した株式を、X社が買い取り、買い取り額を二男Dへの代償分割に充てることも検討。
将来的には二次相続時に妻が相続していた二世帯住宅の分割問題も想定されるため、二男Dへの相続時精算課税制度による生前贈与・住宅取得や孫の教育・結婚・子育て資金贈与の特例を活用してできるだけ生前に充分な贈与を行っておくことが望ましい。

5. 遺産分割協議がまとまらない場合の納税額への影響

相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内が期限だが、遺産分割協議がまとまらない場合には、一旦法定相続分を相続したものとして申告し、各相続人が申告期限内に相続税を納付することが必要。
また、配偶者の相続税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されるため、相続税の申告期限までに配偶者に分割されていない財産は税額軽減の対象外(小規模宅地の特例も同様)

ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告期限から3年以内に分割した場合や、やむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けて、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割された場合には、税額軽減の対象(小規模宅地の特例も同様)

相続税は現金一括納付が原則であるが、困難な場合は延納や物納を検討することになるが、遺産分割協議がまとまっていないとそれも難しいことが多い。

本問の場合、仮に遺産分割協議が申告期限までにまとまらない場合、相続人それぞれに多額の納税資金が必要となるため、遺産分割協議に当たってはできるだけ長期化しないようにすることを助言する。

FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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