2019年2月9日実技part1
2019年2月9日実技part1
part1 問題文
●設 例●
株式会社X社(非上場会社・ビジネスホテル経営)は、代表取締役社長Aさん(60歳)が発行済株式総数の52%を所有し、叔母Bさん(85歳)が40%、その娘(60歳)が8%を所有している。AさんとBさんは、それぞれの家族で同数の役員を出しており、役員報酬の額はAさんグループ・Bさんグループで、ほぼ同額となっている。
【Bさんグループが所有するX社株式の買取り】
先日、BさんからX社の経営から退きたいとの申出があった。Aさんは、以前からBさんグループの持株比率は50%未満であり、Bさんは高齢でその娘にも経営能力がないことから、彼女らが所有する株式を買い取らざるを得ないと思っていた。X社の役員については、亡くなるまで年間1,000万円程度(税務上適正)の報酬を支払い、その代わりに退職金は支給しない合意となっている。Aさんは、BさんグループからX社株式を買い取ることができれば、経営の自由度が増し、将来自分が退職する際に、会社を売却するか、清算するということも自由になると考えている。Aさんは、BさんグループのX社株式の買取価額を約1億5,000万円程度と見込んでいる。Aさんは、新会社を設立し、その会社が金融機関から融資を受けて、X社株式を買い取るスキームを検討している。なお、Aさんの長男および長女はX社を承継する意思はなく、Aさんも承継させるつもりはない。
【Bさんが所有するX社本社土地の持分の買取り】
X社本社土地800uのうち、2分の1を会社が所有し、AさんとBさんがそれぞれ4分の1を所有している。X社は、土地の無償返還に関する届出書をAさん・Bさんと連名で税務署に提出し、Aさん・Bさんに通常の地代を支払っている。Aさんは、Bさんグループの株式を買い取る際には、Bさんの土地の持分をX社あるいはAさん個人で買い取らなければならないと考えている。取引先の金融機関からは、会社でもAさん個人でも融資してもよいと言われている。
【Aさんの家族構成】
妻(56歳) :X社取締役(経理担当)。Aさんと自宅で暮らしている。
長男(28歳):地方公務員。妻と子1人で官舎に暮らしている。
長女(25歳):高校教諭。賃貸アパートで暮らしており、近く結婚の予定がある。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 :5,000万円
上場株式:2,000万円
X社株式:1億5,600万円(X社株式の52%部分)
X社本社土地:1億2,000万円(800uのうち、200u)
自宅土地:7,000万円(300u)
自宅建物:3,200万円
合計:4億4,800万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金 :3,000万円
会社規模:中会社の中
従業員数:15名
年商 :3億円
経常利益:4,000万円
内部留保:6億円(現預金1億円、土地・建物・設備5億円)
株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額5,000円/株
発行済株式総数:6万株(配当は過去10年間、無配当)
【X社の役員】
Aさん(代表取締役)、Aさんの妻(取締役)、Bさん(取締役)、Bさんの娘(取締役)
【親族関係図】
part1 ポイント解説
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1)生命保険・金庫株の活用
(2)自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(3)小規模宅地の特例の活用
2. 遺産分割対策・事業承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税特例の活用
(4) 結婚・子育て資金贈与の非課税特例の活用
3. 新会社設立による自社株式の集約
Aさんが100%出資する資産管理会社を新設し、金融機関の融資を受けて自社株式を買い取ることで、自社の資金繰りや財務内容に影響を与えずに、自社株式を集約させることが可能。
なお、このままでは新設する資産管理会社には借入金の返済原資がないため、Bさんが所有しているX社本社土地持分の譲渡を受け、その持分に対してX社から支払われる通常の地代を借入金の返済に充当することが考えられる(この場合、金融機関からは、X社株式1.5億円分に加えて、X社本社土地持分1.2億円分の融資を受けることが必要となる)。
ただし、買取資金全てを金融機関からの借り入れとすると、外部への資金流出が大きくなるため、一部X社からの借り入れを受けることも検討すべきである。
また、X社は業績は好調なものの過去10年間無配当であり、内部留保もある程度積みあがっていることから、Bさんグループから自社株式を買い取ってから、配当を行うことで、資産管理会社における借入金の返済原資とすることも検討できると思われる。
なお、将来的に新設した資産管理会社とX社の合併により、X社の株式を100%集約させることも可能。
また、Bさんグループにおいても、X社株式の譲渡は発行会社であるX社ではなく、新設した資産管理会社に対して行うため、総合課税となるみなし配当課税(金庫株)ではなく、分離課税となる株式等の譲渡所得として20.315%課税となるメリットがある。
4.自社の本社土地持分の買い取り
X社の株式集約用に新設した資産管理会社が、株式買取資金とともに、本社土地持分の買取資金の融資を受けることで、株式と本社土地持分の集約が可能となる。
X社からは通常の地代が支払われるため、借入金の返済利率を2%程度としても、恐らく利息のみの支払いで返済を継続可能と思われる。
※通常の地代=更地価格×(1−借地権割合)×6%だが、本問では「土地の無償返還に関する届出書」が提出されており、土地の借地権の評価額は0円となるため、支払われる通常の地代は借入金の利息返済に十分な余裕があると思われる。
5. 子・孫への生前贈与による遺産分割対策・資金援助
Aさんの長男・長女はX社を承継する意思はなく、Aさんも承継させるつもりはないことから、X社の売却や清算による現預金の増加により、将来の相続発生時に多額の相続税負担が発生する可能性が高い。そのため、各種生前贈与の非課税特例や相続時精算課税制度の活用により、積極的な長男・長女への生前贈与を行うことで、将来の相続税負担の抑制が可能。
長男・長女いずれも自宅を所有していないため、直系尊属からの住宅取得資金の贈与の非課税特例の活用を検討し、長男については孫への教育資金贈与の非課税特例、長女については結婚・子育て資金贈与の非課税特例を検討することが可能である。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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