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2020年9月26日実技part1

2020年9月26日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさんは、株式会社X社(非上場会社・建設業)の代表取締役社長であったが、先月病気により、71歳で急逝した。地方都市に所在するX社は、Aさんが40年前に設立した会社である。バブル崩壊後は経営状況の厳しい時期が続いたが、2000年以降、業績は堅調に推移している。X社の余剰資金は3億円以上あり、経営は安定している。

【X社の事業承継に関して】
長男Cさん(42歳)は、1年前に取締役に就任し、実質的に経営を担ってきた。その経営能力は非常に高く、後継者としての資質に問題はない。妻Bさん(68歳)は、長年、取締役として人事・総務の管理部門を担当し、Aさんを補佐してきた。引き続き、取締役として次期社長に就任する長男Cさんをサポートしていきたいと考えている。
Aさんの相続開始が突然であったため、X社株式の移転が進んでおらず、自社株式の各種対策を行っていなかった。妻Bさんおよび長男Cさんは、X社株式をどのように承継(遺産分割)するべきか、悩んでいる。

【Aさん自身の資産承継に関して】
Aさんは、遺言書を準備していなかった。妻Bさんが東京都内に暮らす公務員の二男Dさん(38歳)に意向を聞いたところ、二男Dさんから「親父が急死して、母さんや兄貴が大変なことは理解している。俺はX社の経営に参画することはないし、不動産を欲しいとも思わないが、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」と言われた。長男Cさんと二男Dさんの関係は良好であるものの、妻Bさんは、兄弟間で相続財産の偏りが生じることに一抹の不安を感じている。
また、妻Bさんは、以前、銀行の担当者から配偶者居住権が新設される話を聞いたことを記憶しており、その概要を確認したいと思っている。

【Aさんの家族構成(法定相続人)】
妻Bさん :X社取締役。長男Cさん家族と同居している。
長男Cさん:X社取締役。妻と2人の子がおり、妻Bさんと同居している。
二男Dさん:公務員。妻と子の3人で東京都内の官舎に居住している。

【Aさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金   :9,000万円
死亡退職金 :5,000万円(妻Bさんに支給)
X社株式  :3億2,000万円
自宅土地  :5,000万円(300u)
自宅建物  :2,000万円
X社本社土地:8,000万円(500u、無償返還方式・通常の地代にて賃貸)
月極駐車場 :6,000万円(400u)

合計    :6億7,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【X社の概要】
資本金  :1,000万円
会社規模 :大会社
従業員数 :80人
完成工事高:22億円
経常利益 :5,000万円
純資産  :10億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん80%、妻Bさん10%、長男Cさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額7,000円/株

【親族関係図】

※Aさんは、妻Bさん・長男Cさん家族と自宅で同居していた。
Aさんの相続開始後、引き続き、妻Bさんと長男Cさん家族は同居している。

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 金庫株の活用
(2) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(3) 直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・事業承継対策

(1) 二次相続を想定した遺言の作成
(2) 二次相続を想定した相続時精算課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(4) 金庫株を用いた長男Cから二男Dへの代償分割
(5) 配偶者居住権の設定

3. 事業承継税制の特例の活用

X社株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)
事業承継税制の特例措置を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2018年4月1日から2023年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要。
なお、2023年3月31日までの相続については、相続後に承継計画を提出することも可能であるため、本問のように先代の経営者が急逝した場合でも、その他要件を満たすことで、適用可能となる。

4.配偶者居住権の概要

配偶者居住権には短期と長期があり、配偶者短期居住権は遺産分割で他の相続人が自宅を相続した場合にも、配偶者は最低6ヶ月間無償で居住を継続可能となる権利であるのに対し、配偶者居住権は遺産分割や遺贈で定めることにより、配偶者自身が亡くなるまで有効な居住権である。自宅の所有権と居住権を分けて評価することで、自宅の所有権は他の相続人が取得しても、配偶者は居住権を取得することで居住を継続可能とし、同時に居住権は所有権よりも評価額が低くなると想定されることから、金融資産の相続もしやすくなる

5. 相続人間の平等な相続方法

(1) 妻Bさんの相続分(自宅の配偶者居住権、預貯金の一部)
自宅に配偶者居住権を設定して相続させることで居住継続を可能とし、預貯金の一部を相続させることで、相続税負担と今後の生活不安を軽減する。

(2) 長男Cの相続分(自宅と、X社株式・本社土地の相続)
X社株式を後継者であるCさんに集中させるだけでなく、X社本社土地についてもCさんに相続させることが、円滑な事業承継上重要である。
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。
本問の場合、自宅のうち300uまで特定居住用宅地を適用し、X社本社土地は特定同族会社事業用宅地等として、400uまで小規模宅地の特例の併用が可能。

(3) 二男Dさんの相続分(金融資産と月極駐車場)
金融資産と月極駐車場を中心に相続させるが、それだけでは割合が少ないため、妻Bからの相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度を活用し、贈与税負担を軽減しながら生前贈与を行うことも検討できる。

以上の分割では、長男Cさんの相続分が多くなる可能性が高いため、金庫株やX社本社建物の賃料を原資とした代償分割(相続後に分割払い)により、ある程度均等な相続が可能と思われる。
また、妻Bの相続発生時(二次相続時)に、二男Dにより多くの遺産を相続させることも検討可能(遺産分割協議の中でこれらを記した公正証書遺言や贈与契約書の内容を検討することが望ましい)。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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