TOP > 実技過去問ポイント解説 > 2020年10月実技 > 2020年10月4日実技part2

2020年10月4日実技part2

2020年10月4日実技part2

part2 問題文

●設 例●
Aさん(65歳)は、首都圏に所在するK市内の自宅で妻Bさん(65歳)と2人で暮らしている。Aさん夫妻には、一人息子の長男Cさん(35歳)がいる。大手企業に勤務する長男Cさんは、妻と子1人の3人で隣県の持家に住んでいる。

【Aさんの資産および収入の状況】
Aさんは、自宅のほかに、K市内の幅員12mの県道に面した甲土地を所有し、地元の建設会社に資材置場として賃貸しているが、解約の申出がある。このため、甲土地の新たな有効活用が課題となっている。Aさんの資産の概要は、以下のとおりである。
・自宅の敷地(地積150u、相続税評価額3,000万円)
・自宅の建物(築30年、木造、固定資産税評価額300万円)
・甲土地(地積1,000u、現況:資材置場として賃貸中)
・預貯金2,000万円、Aさん夫妻の年金収入年間300万円
・甲土地の地代収入年間450万円(うち、固定資産税・都市計画税は年間150万円)

【甲土地の取得経緯とAさんの意向】
甲土地は、Aさんの祖父が昭和30年代に購入し、その後は父親が相続し、続いて母親が相続してきた。4年前に母親の相続によりAさんが取得し、3年前から資材置場として賃貸している。Aさんの意向は、以下のとおりである。
・新たな有効活用により、少なくとも現在の地代収入相当額(手取額)を確保したい。
・母親の相続時に相応の税額を納付したため、現預金が心許ない。老人ホームへの入居等を考えれば、現預金を5,000万円程度に増やしておきたい。
・甲土地の有効活用は、長男Cさんとも相談する。将来は、長男Cさんに承継する予定であるため、売却・買換えという選択肢はない。

【X社の提案内容】
先日、X社(東証一部上場の住宅設備メーカー)から以下のような提案があった。
・甲土地に地域の拠点となるショールーム兼事務所を開設したい。建物は、鉄骨造2階建て、延床面積700u、建設費は1億円、建物の固定資産税・都市計画税は年間120万円を見込んでいる。
・契約形態は、建設協力金方式または事業用定期借地権方式のどちらでも構わない。賃借期間は30年とする。
・建設協力金方式の場合、敷金2,000万円、建設協力金1億円、1年目から20年目までの年間賃料1,250万円(建設協力金の年間均等返済500万円を含む)、21年目から30年目までの年間賃料750万円である。
・事業用定期借地権方式の場合、(1)もしくは(2)の方法から選択できる。(1)賃貸開始時に保証金2,000万円を差し入れ、1年目から30年目までの年間地代を600万円とする、(2)賃貸開始時に保証金2,000万円を差し入れ、年間地代とは別に30年間の前払地代3,000万円を支払う。その場合、1年目から30年目までの年間地代は500万円となる。

AさんはX社の提案を前向きに検討したいと考えているが、いずれの提案が望ましいか、判断できないでいる。

(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.建設協力金方式と事業用定期借地権方式の特徴を簡潔に教えてください。契約内容についてどのようなことを確認し、X社との交渉を助言しますか。
3.Aさんに対して、建設協力金方式と事業用定期借地権方式の(1)・(2)のいずれを勧めますか。
4.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

【甲土地の概要】

ページトップへ戻る

part2 ポイント解説

1. アドバイスに当たって必要な情報

(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
今回の不動産投資でAさんが希望する利回りや、引き受け可能なリスクについて、確認することが必要。
また、甲土地の有効活用は長男Cさんとも相談するという意向であり、将来は長男Cさんに承継する予定でもあることから、Cさん側の意向も確認しておくことが必要。

(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地の物理的状況を、実際に確認することが必要。
特に、本問では甲土地は祖父の代から続いているものであり、Aさんが相続後に資材置き場として賃貸しているため名義変更は済ませている可能性が高いが、今後のX社とのスムーズな契約締結のためには必ず登記簿上の名義の確認が必要。
また、甲土地を利用してX社が今後安定して収益を発生させられるか、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である(住宅設備メーカーであるX社が地域拠点としてのショールームを建設するということは、近隣での需要も見込んでいると思われるため)。

2. 建設協力金方式と事業用定期借地権方式の特徴と、契約における確認・助言事項

◆建設協力金方式の特徴
建物は土地所有者が建設し、その建物に入居予定のテナント等から貸与された保証金や建設協力金を、建設資金の全部または一部に充当して建物を建設する事業方式(建設協力金方式)。
建設協力金方式の場合、建物は土地所有者が建設・所有することから、土地は貸家建付地、建物は貸家、建設協力金・保証金は債務となるため、相続税負担の軽減が期待できる。
ただし、建設協力金・保証金の返済と所得税・住民税負担により、キャッシュフローがマイナスになる場合もあるため、事前の詳細な検討が必要。

◆事業用借地権方式の特徴
事業用定期借地権等(事業用定期借地権、事業用借地権) は、存続期間10年以上50年未満で用途は事業用限定、期間満了で借地関係は終了するため、原則として借地人は建物を取り壊し、更地にして返還する。
10〜30年:事業用借地権、30〜50年:事業用定期借地権

メリットとしては、大きな設備投資を必要とせず、長期間安定的な収入が確保でき、契約満了時には更地で返還されること。
デメリットとしては、利用用途が「事業用」に限られるため、汎用性が少ないことと、一般に地代収入は他の方式による収益よりも低いという点がある。

◆契約における確認・助言事項
建設協力金方式では、建設協力金としてテナント側から受け取った建設資金が、入居後は保証金となり、テナント側に毎月の賃貸収入から返済していくことが必要となる。従って、契約期間途中でテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残るといったデメリットに加え、残された建物と保証金の処理が複雑になるデメリットがある。
通常、建設協力金方式の契約では、中途解約の場合にテナント側は建設協力金の返済の権利を放棄し、オーナー側は解約後の建設協力金返還が不要となる条項を入れてあるはずであるが、今回の契約でも同様の条項が盛り込まれているか、確認が必要。
また、借地借家法では、借主に不利な特約は、無効とされているため、「家賃を減額しない」という特約があった場合でも、普通借家契約の場合はテナント側からの減額請求が可能となる。
定期借家契約の場合は、建物の賃料の増減に関する特約は、借主に有利・不利に関わらず、有効となるため、テナント側には定期借家契約とし、契約期間中の家賃を減額しない旨の特約を入れることを交渉すべきである。

事業用定期借地権は、登記をすることで第三者に対抗できるため、仮に借主が借地上の借地権付きの建物を無断で譲渡した場合でも、登記しておけば借地期間満了後に土地が返還されるメリットがあることから、借地権設定後の登記を助言する。

3. 建設協力金方式と事業用定期借地権方式の(1)・(2)のいずれを勧めるか

Aさんの運用目的である老人ホームの入居費用等を考慮すると、提案内容の中では事業用定期借地権方式(2)の前払地代方式を勧める。
前払地代方式の場合、一括で受け取った前受地代は、税務上期間に応じて均等に収益計上することになるため、権利金のような一時金としての多額の所得税負担を回避することができる。
借地期間中に中途解約があった場合には、未経過地代の返還が必要となるが、必要とする費用を契約時点で収受し、必要となるときまで国内債券等の安全度の高い資産で運用することで、確実に将来の老人ホームの入居費用を用意できる。

提案内容のうち他の方式でも運用目的は達成できると思われるが、より低リスクで早期に必要資金を確保するならば、前払地代方式が良いと思われる。

4. 関与すべき専門職業家

事業用借地権や建設協力金方式の利用における、測量結果に基づく適正な不動産価格・地代、賃料の算定は、不動産鑑定士が適当。
また、甲土地の相続税評価額や不動産収入に関する課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士事業用定期借地権の登記や建設協力金方式採用時の建物の所有権保存登記については司法書士が適当。

2020年10月4日part1          目次
ページトップへ戻る

FP対策講座

<FP対策通信講座>

●LECのFP講座(キーワード検索欄で「1級」と検索) ⇒ FP(ファイナンシャル・プランナー)サイトはこちら

●1級FP技能士(学科試験対策)のWEB講座 ⇒ 1級FP技能士資格対策講座(資格対策ドットコム)

●通勤中に音声学習するなら ⇒ FP 通勤講座

●社労士・宅建・中小企業診断士等も受けるなら ⇒ 月額定額サービス【ウケホーダイ】

ページトップへ戻る

Sponsored Link

実施サービス

Sponsored Link

メインメニュー

Sponsored Link

サイト内検索

Sponsored Link

Copyright(C) 1級FP過去問解説 All Rights Reserved.