2022年2月6日実技part1
2022年2月6日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(70歳)は、昨年、40年前に創業したX株式会社(非上場会社・製造業)をM&A仲介業者を通じて第三者に売却し、退職金とX社株式の譲渡代金を合わせて約2億円を受け取った。Aさんは、経営者としての慌ただしい日々から解放され、妻Bさん(70歳)と穏やかな日々を過ごしている。
【不動産賃貸業の法人化】
Aさんは、個人で不動産賃貸業を営んでいる。入居状況は良好で、年間約2,000万円の不動産所得を得ている。先日、金融機関の担当者から「法人を設立して所得の分散を図ってはいかがですか。その際には、ご融資を前向きに検討させていただきます」との話があり、法人の設立を検討している。
また、Aさんは、長年、株式投資を行っており、毎年相応の利益を得ている。仮に法人を設立した場合、これまで個人で行ってきた株式投資を法人に切り替えると税務面で有利になるのかどうか知りたいと思っている。
【二世帯住宅の検討】
Aさんは、自宅で妻Bさん、長男Cさん(44歳)家族と同居している。Aさんが父親の相続により取得した自宅は、築60年を超えて老朽化が目立ち、また長男Cさんの子も大きくなってきたことから、二世帯住宅に建て替えようと考えており、長男Cさん家族も賛同している。Aさんは、二世帯住宅の建築資金の全額(5,000万円)を負担するつもりでいるが、将来の相続を踏まえ、建替え後の建物名義の一部を長男Cさん名義にするためにはどのようにすればよいのか知りたいと思っている。
長女Dさん(42歳)は、会社員の夫と3人の子の5人で夫所有の持家で暮らしており、実家に戻る予定はなく、実家を二世帯住宅に建て替えることに異論はない。ただ、今年4月に子の大学進学と高校進学が重なり、教育費の負担が大きくなることに不安を感じており、Aさんに支援を求めている。
Aさんは、長男Cさん、長女Dさんのそれぞれの名義の預金口座に家賃収入から毎月一定額を積み立てており、その残高は各2,000万円程度となっているが、通帳と印鑑はAさんが保管し、子どもたちに贈与を受けた認識はない。それらは、子どもたちにまとまった資金が必要となった場合にいつでも渡そうと思っている。
また、Aさんは、子どもたちに生前贈与をすることで将来の相続税を軽減することができるとの話を聞き、子どもたちが望むなら積極的に支援してあげたいと思っている。
【Aさん(名義)の所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 3億2,000万円
2.上場株式 : 5,500万円
3.自宅
(1)土地(330u) : 1億円
(2)建物 : 500万円
4.賃貸マンション
(1)土地(500u) : 1億円
(2)建物 : 5,000万円
合計 : 6億3,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額(6億3,000万円に基づいて計算)は、約1億9,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【親族関係図】
part1 ポイント解説
1. 所得税・相続税の軽減対策
(1) 法人の設立(法人税の比例税率と所得分散による所得税低減効果有り)
(2) 法人の設立後の役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 生命保険の活用(法人契約だとより軽減効果有り)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 設立した法人への不動産の売却
2. 遺産分割対策・資産承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度の活用
(3) 直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
3. 不動産賃貸業の法人化
所有する不動産を、設立した法人が銀行融資を受けた上で購入することで、賃貸収入を個人と法人に分散させることが可能。
◆メリット
・賃貸収入は法人のものとなるため、法人税の比例税率と所得分散による所得税軽減効果有り。
◆デメリット
・法人側には不動産取得による登録免許税・不動産取得税、オーナー側には保有不動産の法人への譲渡による譲渡所得税の負担有り。
・賃貸収入は法人のものとなるため、オーナーが自由に使えるお金に制限がかかるようになる(役員報酬の範囲内)。
◆他の方策の提案
土地の名義は個人のままとし、建物のみ法人に譲渡することで、不動産収入の所得分散を図りつつ、将来の相続時に土地を法人に譲渡することで、納税資金を確保する方法も提案可能。
法人は個人の土地を借りる形となるため、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出することで、借地権の認定課税を避けることができる。さらに、土地は貸宅地となり、相続時には自用地価額の80%相当額として評価されるため、相続税対策にもなる。
※土地の20%減額評価分は法人の株式評価に加算されるが、後継者への株式の生前贈与等により、相続税評価には反映されないよう対策することが可能。
4.株式投資の法人への切り替え
個人の場合、上場株式の譲渡所得は申告分離課税の対象であるため、同一年の株式の譲渡所得や申告分離課税を選択した配当所得と損益通算可能だが、他の種類の所得とは損益通算の対象外となる。これに対し、法人の場合、法人として実施した事業に関しては、全て法人の事業として扱われるため、不動産事業や株式投資による損失も、他の事業による収益との損益通算が可能となる。
また、個人では、上場株式の譲渡損失は確定申告することで翌年以降3年間繰越可能だが、法人では、青色申告であれば資本金の額に関わらず、欠損金の繰越控除の期間は10年間となる。
さらに、法人の方が経費の算入可能な範囲が広く、税率も個人では20.315%であるのに対し、法人は資本金1億円以下であれば所得800万円までは15%(800万円超の部分は23.4%)であるため、損失・利益のいずれが発生した場合でも、税務上法人の方が有利となる。
5. 二世帯住宅の建物名義の一部を長男名義とする方法
将来的な相続を考慮した場合、小規模宅地の特例は、二世帯住宅については内部が独立していても適用可能であり、また単独所有の建物(子の単独所有も含む)の場合やそれぞれの持分を共有登記した場合には、敷地全てに適用される。ただし、それぞれの居住部分を区分建物所有登記し、親子が別生計の場合には、敷地全てについて特例が適用されない。
本問の場合、建物名義の一部を長男名義にするためには、建物の名義については出資比率に応じた共有名義にしておくことが必要と思われる(親世帯・子世帯の両方が出資して二世帯住宅を建築した場合、いずれかの単独登記とすると贈与税の課税対象となるため)。
長男Cさんに出資する資力が不足する場合には、金融機関からの融資で対応することになるが、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用により、Aさんが建築資金を支援することで、一定額まで贈与税を非課税にして長男Cさん夫妻の負担を軽減することも可能。
6.名義預金と生前贈与の取扱い
家族名義の預金は、贈与契約書を作成しておらず、預金名義人に贈与を受けた認識がない場合、贈与者の相続発生の際に相続財産とみなされ、相続税負担が発生する可能性がある。
長男の名義預金については、今後二世帯住宅の建築予定があることから、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度を活用することで贈与税負担を軽減可能と思われる。また、残額についても今後贈与契約書を作成し、暦年贈与の非課税枠を活用しながら名義預金を適切に贈与財産としていくことを提案する。
長女の名義預金については、孫への教育資金贈与の非課税措置、相続時精算課税の活用により、相続税・贈与税負担を軽減可能と思われる。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な所得税・相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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