2022年2月6日実技part2
2022年2月6日実技part2
part2 問題文
●設 例●
大都市圏近郊のK市に住むAさん(54歳)は、K市役所に勤務する公務員である。5年前にAさん家族と同居していた父親が亡くなった。母親は8年前に他界しており、相続人となったAさんと弟Bさん(48歳)は、K駅から徒歩10分にある自宅の敷地(甲土地、地積360u、地目:宅地)および家屋(木造2階建て)と、甲土地に隣接している月極駐車場の敷地(乙土地、地積360u、地目:雑種地)を相続により取得し、それぞれ各2分の1の共有持分で相続登記した。
相続した家屋は10年前に父親が建築したもので、まだ新しく、Aさんは今後も家族とともに住み続けるつもりでいる。ただ、これまで弟Bさんと地代や家賃のやりとりはしておらず、このまま共有状態を続けていてよいのかどうか弟Bさんに相談しようと思っていた矢先、弟Bさんから土地を売却したいとの相談を受けた。
【弟Bさんからの相談内容】
弟Bさんは、東京都内の持家で家族と暮らし、会社を経営している。弟Bさんは、「会社関連で資金需要が生じたため、甲土地と乙土地の持分を処分して換金させてほしい。甲土地と乙土地の合計720uを右図のT案 またはU案 のように等分し、兄さんと自分がそれぞれ360uずつ所有したうえで、自分が所有する部分を売却することを認めてもらえないか」とのことで、知り合いの不動産鑑定士におおよその時価を算定してもらったとのことである。
乙土地が接する幅員12mの県道は、バス通りであり、沿道には中層の共同住宅や店舗が建ち並んでいる。空地の引き合いは多く、買手はすぐに見つかりそうである。
Aさんは、できる限り弟Bさんの力になってあげたいと考えているため、土地を売却することに異論はなく、T案、U案のどちらでもかまわないと思っている。ただ、共有している土地をAさんと弟Bさんの単独所有地にする方法や、T案とU案で課税関係に違いがあるのかなど、わからないことも多く、FPであるあなたに相談することにした。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.I案のメリット・デメリットや、課税関係について教えてください。
3.II案のメリット・デメリットや、課税関係について教えてください。
4.あなたはAさんにI案とII案のどちらを勧めますか。その理由とともに教えてください。また、自宅建物の共有状態の解消について、どのようなアドバイスをしますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地・乙土地の現況】
【弟Bさんから提案された内容(I案・II案)】
【不動産鑑定士による評価額】
<I案>
Aさん単独所有地 :9,000万円
自宅建物 :1,800万円
弟Bさん単独所有地:9,450万円
<II案>
Aさん単独所有地 :6,500万円
自宅建物 :1,800万円
弟Bさん単独所有地:9,400万円
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物と乙土地は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、5年前の相続開始時から、共有者の弟Bさんとは地代や家賃のやり取りをしていないため、土地分割時の地積や評価額の割合に関する交渉に影響を及ぼす可能性もあることから、駐車場の不動産収入がどの程度であるかや、土地分割後に引き続き駐車場収入を必要とするかを確認することが必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、弟Bさんが分割後の土地を売却した場合、その後の開発によりAさんの住環境が大きく影響を受ける可能性があるため、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することや、分割後の土地の有効活用先として候補に上がりそうな事業者について、周辺の不動産業者に確認が必要。
2. I案のメリット・デメリット・課税関係
Aさんにとっては、幅員12mの広い県道に接する単独所有地となり、建物と合わせた評価額はやや弟Bさんの単独所有地の評価額よりも高くなるメリットがある。また、駐車場用地も半分残るため、駐車場として継続活用するのであれば、賃貸収入も半減するものの引き続き得られるメリットがあると思われる。
ただし、自宅南側の土地は弟Bさんが他者に売却することになるため、売却後の活用方法によっては、自宅への日当たりに影響が出る可能性があるデメリットがある。また、甲土地・乙土地を2分の1ずつ分筆することになるため、測量や分筆登記の手続きと費用が発生するデメリットがある。
なお、I案の場合は共有持分に応じた分割であり、資産の譲渡や贈与に該当せず、課税されない(土地のように、効用を一にする一個の共有資産の場合)。
共有持分に応じた分割として、土地であれば面積を基準にした分割だけでなく、価額に応じて分割面積を定めても、面積算定が合理的なものであれば、認められる。
3. II案のメリット・デメリット・課税関係
自宅南側の土地は引き続きAさんが所有し、弟Bさんが売却する部分も駐車場であった部分であるため、自宅への日当たりに影響が無く、売却後の活用方法によっても自宅の住環境にそれほど大きな影響を与えにくいというメリットがある。また、甲土地・乙土地を現況で分割することになるため、測量や分筆登記の手続きと費用が発生しないメリットがある。
ただし、Aさんにとっては、幅員6mの狭い市道に接する単独所有地となり、建物と合わせた評価額は弟Bさんの単独所有地の評価額よりも大幅に低くくなるデメリットがある。また、駐車場用地も残らないため、駐車場として継続活用するのであれば、整備費用が発生するデメリットがあると思われる。
なお、II案の場合は甲土地・乙土地に関するAさんとBさんのそれぞれの持分を交換することになるため、固定資産の交換の特例が適用できれば、譲渡がなかったものとすることで、課税されない。ただし、固定資産の交換の特例は、交換する譲渡資産と取得資産の差額が、高い方の資産の時価の20%以内であることが必要。
本問の場合、交換資産の差額は、Bさん単独所有地9,400万円−Aさん単独所有地6,500万円=2,900万円であるのに対し、高い方の資産9,400万円×20%=1,880万円であるため、要件を満たさない。
さらに、交換取得した土地を取得後すぐに売却や取り壊しをすると、交換取得した資産を同一の用途に供したことにはならず、固定資産の交換特例の適用を受けることができないため、土地を売却予定である弟Bさんは特例適用されない可能性が高い。
親族間の取引等の、特殊関係者間での等価でない交換取引は、純粋な経済取引ではなく、交換対象資産の時価の差額の贈与とされる。従って本問の場合、高い方の資産を得る弟Bさんは、Aさんから差額分の贈与を受けたとみなされるため、贈与税負担が発生する。
4. Aさんへの提案と自宅建物の共有状態の解消に関するアドバイス
日照への影響の懸念はあるものの、I案では高い評価額の土地の単独所有となる点と、駐車場の半分は継続活用可能である点を考慮すると、II案よりもメリットが大きいと思われるため、AさんにはI案の採用を提案する。
なお、共有持分となっている不動産について、持分だけの売却や抵当権設定は可能だが、共有物も含めた売却等については、共有者全員の同意が必要となるため、現実的には共有不動産の有効活用・処分は非常に困難であることが多い。
また、流動性の低さや権利関係の複雑化による担保価値の低下等も、問題点として挙げられる。
したがって、甲・乙土地の共有状態の解消だけでなく、自宅建物の共有状態についても、この機会に解消しておくことが望ましい。その場合、AさんによるBさんの建物持分の買い取り(一括もしくは駐車場収入により分割払い)や、AさんからBさんに対する、I案における自宅建物も含めた差額分の支払い等の方法が提案できると思われる。
5. 関与すべき専門職業家
甲・乙土地の分割における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権保存登記等については司法書士、不動産所得の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、賃貸中の駐車場の取り扱い等の不動産賃貸の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
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