TOP > 実技過去問ポイント解説 > 2022年6月1日実技 > 2022年6月4日実技part1

2022年6月4日実技part1

2022年6月4日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(68歳)は、東京郊外で医療法人Xクリニック(歯科、経過措置型医療法人)を営む2代目の歯科医である。父親から引き継いだ歯科医業を2002年4月に法人化し、理事長として勤務している。長男Cさん(36歳)は、歯科医師として大学病院の口腔外科で勤務した後、4年前から理事としてXクリニックに勤務している。
Aさんは、そろそろ引退して長男Cさんに後を譲るつもりで、出資持分の相続税対策や持分のない医療法人への移行などについて長男Cさんと一緒に考えたいと思っていた。しかし、先日、長男Cさんから、「申し訳ないけど、しばらくの間、大学に戻って高度な治療について研究したい。Xクリニックを継ぐのは先に延ばしてほしい」と相談された。
Aさんは、いずれは長男Cさんが事業を承継してくれると思っているが、念のために第三者への承継やM&Aによる持分の譲渡なども検討しておきたいと考えて、FPであるあなたにアドバイスを求めている。

【Aさんの家族構成】
長男Cさん(36歳):Xクリニックの社員・理事。出資持分はない。妻と2人の子の4人でAさん所有のYビルに住んでいる。家賃は支払っていない。
長女Dさん(32歳):会社員。妻Bさんの他界後、Xクリニックの社員。隣県にある企業に勤めており、賃貸マンションに1人で暮らしている。
※Aさんの妻Bさんは3年前に他界している。

【Xクリニックの概要】
貸借対照表

資本金(出資金):4,000万円(40,000口)
出資持分:Aさん100%
会社規模:中会社の小
出資持分の相続税評価額:類似業種比準価額1,000円/口、純資産価額2,500円/口

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金        : 1億円
2.有価証券       : 5,000万円
3.Xクリニック出資持分 : 6,400万円
4.Yビル(使用状況は下記参照)
 (1)土地(400u)    : 1億円
 (2)建物(築25年)   : 1億8,000万円(年間家賃収入1,920万円)

合計 : 4億9,400万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億5,000万円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【Aさんが所有しているYビルの概要】
・鉄骨造8階建て、延べ面積1,320u(各階の床面積は165uで同一)
・1〜2階をXクリニックが使用し、3〜6階を賃貸マンション、7階をAさんの自宅、8階を長男Cさん家族の自宅として使用している。
・Aさんは、Yビルの土地および建物を長男Cさんに相続させたいと思っている。

【親族関係図】

ページトップへ戻る

part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 生命保険の活用
(2) 金庫株の活用(ただし、医療法人の場合はみなし配当課税となり所得税負担増)
(3) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例の活用
(6) 第三者への事業譲渡やM&Aによる持分譲渡

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討

3. 出資持分の相続税対策や持分のない医療法人への移行の検討

医療法人は、医療法により剰余金の配当が禁止されているため内部留保が貯まりやすく、持分の相続税評価が多額となることから、出資者の死亡時には大きな相続税負担が発生する可能性がある。
本問における経過措置型医療法人とは、平成19年4月1日以前に設立された持分のある医療法人で、財産の払戻請求権や残余財産の請求権といった持分を、出資者が所有している医療法人である(現在は設立できないため、「経過措置型」とされる)。
出資者の死亡による相続税負担に伴い、法人に対し高額の払戻請求が発生し、病院経営が不安定化する恐れがあるが、医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例により、出資者が持分を放棄した認定医療法人では、相続が発生しても持分に係る相続税の納税猶予が可能。

医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例は、認定移行計画に記載された、出資持分なしの医療法人への移行期限まで納税を猶予する制度で、移行計画の認定日から3年以内に出資持分を放棄すれば、猶予税額は免除される。
よって、医療法人を長男Cに承継することを前提に特例適用することにより、相続税負担を軽減しつつ、病院経営を安定させながら長男に承継することが可能。

また、X医療法人やAさんが入居中のYビルを後継者である長男Cが相続することで、小規模宅地の特例による評価減が適用できる(小規模宅地の特例は、特定事業用400uと特定居住用330uを併用する際は、それぞれ適用可能であり、また特定同族会社事業用宅地等の限度面積は、特定事業用宅地等と併せて400u)。また、3〜6階部分は貸付事業用として50%減額の対象となるが、特例を適用する敷地面積に応じて調整計算する必要がある。

4. 第三者への承継やM&Aによる持分の譲渡

◆第三者への事業承継
医療法人の第三者への事業承継の際、原則として医療法人の社員・理事・理事長の交代が必要となる。
医療法人の社員は、株式会社の株主に相当し、社員総会での議決権を有する。また、医療法人の理事は、株式会社の取締役に相当し、3名以上の設置が必要となる。さらに、医療法人の理事長は、株式会社の代表取締役に相当し、医師または歯科医師であることが必要となる。
特に、社員の交代には本人の同意が必要なため、第三者への承継の際には丁寧な説明と早めの退社手続きが必要となる。
本問の場合、子2人はXクリニックの社員であるため、第三者への承継を決定する際は、事前の説明が重要となる。

◆M&Aによる持分の譲渡
持分ありの医療法人の場合、持分の譲渡価額については、出資持分の対価と退職金の2つの区分(もしくはいずれか一方)で受け取ることが多い。
出資持分の対価として受け取る部分は、譲渡益が譲渡所得とされ、総合課税として所得税・復興特別所得税・住民税の対象となる。
これに対し、退職金として受け取る部分は、退職所得とされ退職所得控除と2分の1課税の対象となり、分離課税として所得税・復興特別所得税・住民税の対象となる。
よって、譲渡益と退職金としての税制優遇を勘案しながら、持分の譲渡価額を検討していくことが必要となる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や事業承継方法等に関する顧客の理解度を確認する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、「第三者への承継やM&Aによる持分の譲渡を検討している」という非常に取扱いに注意を要する事柄であることから、顧客の秘密漏洩を防止する「守秘義務」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】まゆ造 2022年6月4日FP1級実技面接part1体験記

【note】鹿島 FP1級実技試験 体験記【面接編】2022年6月4日 PartI

目次          2022年6月4日part2
ページトップへ戻る

FP対策講座

<FP対策通信講座>

●LECのFP講座(キーワード検索欄で「1級」と検索) ⇒ FP(ファイナンシャル・プランナー)サイトはこちら

●1級FP技能士(学科試験対策)のWEB講座 ⇒ 1級FP技能士資格対策講座(資格対策ドットコム)

●通勤中に音声学習するなら ⇒ FP 通勤講座

●社労士・宅建・中小企業診断士等も受けるなら ⇒ 月額定額サービス【ウケホーダイ】

ページトップへ戻る

Sponsored Link

実施サービス

Sponsored Link

メインメニュー

Sponsored Link

サイト内検索

Sponsored Link

Copyright(C) 1級FP過去問解説 All Rights Reserved.