2022年9月24日実技part1
2022年9月24日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(50歳)は、大都市圏に所在する大手企業に勤務する会社員であり、郊外のX市内の分譲マンションで妻子とともに暮らしている。Aさんの弟Dさん(46歳)は、郊外のY市内で妻とともに飲食店を営んでおり、Y市内の賃貸マンションで暮らしている。
2022年6月、Aさんの故郷である地方都市S市の実家で母親Cさんと2人で暮らしていた父親Bさんが病気により亡くなった。父親Bさんの法定相続人は、Aさん、母親Cさん、弟Dさんの3人である。Aさんが、四十九日法要を無事に終え、そろそろ父親Bさんの相続手続等に着手しなければならないと思っていたところ、病気を患っていた母親Cさんが、長年連れ添った配偶者を亡くしたことによる心労も重なり、2022年8月、後を追うように亡くなってしまった。
【相続手続について】
Aさんは、立て続けに相続が発生し、いつまでにどのような手続をすればよいのかよくわからない。ただ、母親Cさん名義の財産は1,000万円の普通預金のみであったため、母親Cさんの相続に係る相続税の申告は必要ないと思っている。先日、両親が取引していた金融機関を訪れた際、担当者から、「法定相続情報証明制度」を利用すると名義変更の手続を簡略化することができるとアドバイスされた。
なお、先日、Aさんが実家を整理していたところ、「私が所有するすべての財産を妻Cに相続させる」と書かれた父親Bさんの自筆証書遺言を発見した。母親Cさんは遺言書を残していなかった。
【遺産分割について】
遺産分割については、兄弟で話し合い、等分で相続することで合意した。ただし、父親の相続財産について、残されていた自筆証書遺言の内容と異なる分割をしても問題がないのか心配している。また、実家については、築45年が経過し、老朽化も激しく、兄弟いずれも今後S市に戻る予定はないことから、敷地とともに売却し、売却資金も等分することにした。S市の不動産業者に相談したところ、「実家の敷地は、ちょうどS市内で2023年3月までに土地を購入したいと言っている人が希望している立地や広さに合致している」とのことで、6,500万円程度で売却できる見込みとのことである。
【父親Bさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 8,000万円
2.有価証券: 4,000万円
3.自宅(Aさんの実家)
(1)土地(300u) : 6,000万円
(2)建物(1977年築) : 200万円
合計 : 1億8,200万円
※父親Bさんの相続に係る相続税額は、約2,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と試算されている。
【親族関係図】
part1 ポイント解説
1. 相続税・所得税の軽減対策
(1) 小規模宅地の特例の活用
(2) 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の活用
2. 遺産分割対策・資産承継対策
(1) 遺産分割協議書の作成
(2) 不動産の相続登記
3. 法定相続情報証明制度と数次相続時の相続税申告
法定相続情報証明制度は、相続発生時に相続人が法定相続情報一覧図を作成して必要書類とともに法務局に提出することで、登記官がその内容を確認し、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しの交付を受けることができる制度。交付された法定相続情報一覧図の写しは、相続人の範囲に関する公的な証明書として、相続登記や預金払戻等の手続で利用可能であるため、相続財産の名義変更手続きの際、その都度戸籍謄本等の相続証明書類一式を用意することなく、相続登記や預金払戻等を申請可能。
また、相続税の申告書の添付書類として、被相続人の全相続人を明らかにする戸籍謄本の代わりに、法定相続情報一覧図の写しも利用可能(子の続柄が実子・養子と明記されたもの)。
また、被相続人の死亡後、遺産分割協議前に相続人が死亡してしまう数次相続が発生した場合でも、相続税の基礎控除はそれぞれの相続発生時の法定相続人の数で計算するため、基礎控除額に影響は発生しない。
相続税の申告は、課税価格の合計が基礎控除以下であれば不要であるため、父親Bさんの遺産分割協議における母親Cさんの取得分をゼロもしくは少額とすることで、母親Cさんの遺産額が普通預金1,000万円も含めて相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×2名)以下であれば、Aさんが想定している通り申告不要となる。
なお、相続発生後10年以内に新たな相続が発生した場合、前回の相続税の納付が完了しているときは、新たに納付すべき相続税額から、前回相続における相続税の一部を相次相続控除として控除可能。
ただし本問の場合、父親Bさんの相続税の申告・納付が完了していないため、相似相続控除の対象外となる。
また、相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に行うことが必要であるが、数次相続の場合、第一次相続の相続税の申告期限は第二次相続の期限まで延長される。
よって本問の場合、父親Bさんの相続税の申告期限は、母親Cさんの申告期限である2023年6月まで延長されることになる。
4. 自筆証書遺言の内容と異なる分割にすることの問題の有無
相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割をすることが可能(ただし、遺言執行者がいる場合や遺産分割が禁止されている等の場合は除く)。
なお、自筆証書遺言や秘密証書遺言は、相続開始後に、家庭裁判所での検認が必要だが、検認せずに開封してもその遺言が無効とはならない(ただし、検認せずに遺言執行したり遺言書を開封すると、過料の対象となる場合がある)。
本問の場合、兄弟間で遺産分割には同意しているため、遺言書と異なる遺産分割をすることは可能。なお、父親Bさんの遺言書は最初から封がされていなかった可能性もあるが、検認前であれば、家庭裁判所での検認手続きを進めることが必要。
5. 実家の処分と税務上の問題
小規模宅地の特例では、配偶者以外が取得する場合には、取得する別居親族は、相続開始前3年以内に自宅を所有していないことと、相続開始からの申告期限まで継続保有すること等が必要であるため、相続税負担の軽減を図るには、賃貸マンション住まいである弟Dさんが取得することが必要となる。
また、実家の処分に際しては、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用を検討すべきである。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、相続や遺贈で取得した被相続人の居住用住宅を、相続開始日から3年後(その年の12月31日)までに、売却額1億円以下で譲渡すると適用される。
また、特別控除の対象となる住宅は、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された一戸建てで、被相続人が1人暮らししていた物件である。また、相続発生から譲渡まで事業・貸付・居住用に使われておらず、譲渡時に更地にするか、建物が現在の耐震基準に適合していることが必要。
従って本問の場合、弟が自宅を取得後、更地にして譲渡することで、特別控除の適用条件を満たす可能性がある。
ただし、購入希望者は2023年3月までに購入したい意向であり、その時期に売却すると、数次相続により延長された相続税の申告期限である2023年6月前の売却となり、小規模宅地の特例の対象外となる。
従って、売却時期の延長について、不動産業者と交渉することを提案する。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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