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2023年2月4日実技part1

2023年2月4日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(68歳)は、大都市圏郊外で社団医療法人Xクリニック(内科、経過措置型医療法人)を営む2代目の内科医である。父親から引き継いだ内科医業を2002年4月に法人化し、理事長として勤務している。また、法人化したときから、弟Eさん(65歳)も理事・事務長としてXクリニックに勤務している。現在、Xクリニックの社員は、Aさん、妻Bさん(63歳)、弟Eさんの3名であり、Aさんと弟Eさんは出資持分を有している。
Aさんは、そろそろ引退して長男Cさん(35歳)に後を譲るつもりで、長男Cさんも承諾している。また、弟Eさんから、Aさんの引退と同時に社員を退社し、出資持分の払戻しを
受けたいと打診されている。
Aさんは、先日、地元医師会主催のセミナーに参加し、出資持分の払戻しのリスクや税金対策、認定医療法人への移行などの話を聞き、まずは定款の出資持分の規定を確認するようにとのことであったが、その意味がよくわからない。特に出資持分の払戻しのリスクについて気になっており、FPであるあなたに説明を求めている。
なお、Aさんは、長男CさんにXクリニック関連資産を承継させる一方で、長女Dさん(33
歳)にも相応の資産を承継させたいと考えているが、米国在住で非居住者である長女Dさんの相続税の負担がどのようになるのかわからない。また、老朽化が進んだ自宅を長男Cさん家族との二世帯住宅に建て替えたいと考えており、長男Cさんも賛同している。

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん(63歳) :Xクリニックの理事・社員。出資持分はない。
長男Cさん(35歳):内科医。母校の附属病院に勤務後、Xクリニックに勤務している。妻と2人の子の4人で賃貸マンションに住んでいる。
長女Dさん(33歳):10年前から米国在住。国籍は日本。

【Xクリニックの概要】
年 商 :1億円
資本金(出資金):4,000万円(40,000口) 利益剰余金:2億円
出資持分:Aさん80%(32,000口)、弟Eさん20%(8,000口)
会社規模:中会社の小
出資持分の相続税評価額:類似業種比準価額2,000円/口、純資産価額5,000円/口

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億円
2.有価証券 : 5,000万円
3.自宅
 (1)土地(300u) : 8,000万円
 (2)建物(築40年): 2,000万円
4.Xクリニック出資持分 : 1億240万円
5.Xクリニック
 (1)土地(400u) : 1億円
 (2)建物(築25年): 8,000万円

合計 : 5億3,240万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億4,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の確保、相続税の軽減対策

(1) 生命保険の活用
(2) 金庫株の活用(ただし、医療法人の場合はみなし配当課税となり所得税負担増)
(3) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討

3. 出資持分の相続税対策や持分のない医療法人への移行の検討

医療法人は、医療法により剰余金の配当が禁止されているため内部留保が貯まりやすく、持分の相続税評価が多額となることから、出資者の死亡時には大きな相続税負担が発生する可能性がある。
本問における経過措置型医療法人とは、平成19年4月1日以前に設立された持分のある医療法人で、財産の払戻請求権や残余財産の請求権といった持分を、出資者が所有している医療法人である(現在は設立できないため、「経過措置型」とされる)。
出資者の死亡による相続税負担に伴い、法人に対し高額の払戻請求が発生し、病院経営が不安定化する恐れがあるが、医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例により、出資者が持分を放棄した認定医療法人では、相続が発生しても持分に係る相続税の納税猶予が可能。

医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例は、認定移行計画に記載された、出資持分なしの医療法人への移行期限まで納税を猶予する制度で、移行計画の認定日から3年以内に出資持分を放棄すれば、猶予税額は免除される。(ただし、税制改正により2023年5月下旬からは5年以内に緩和されている。)
よって、医療法人を長男Cに承継することを前提に特例適用することにより、相続税負担を軽減しつつ、病院経営を安定させながら長男に承継することが可能。

また、X医療法人の土地・建物を後継者である長男Cが相続し、自宅土地・建物については妻Bが相続することで、小規模宅地の特例による評価減が適用できる(小規模宅地の特例は、特定事業用400uと特定居住用330uを併用する際は、それぞれ適用可能であり、また特定同族会社事業用宅地等の限度面積は、特定事業用宅地等と併せて400u)。

4. 出資持分の払戻しのリスク

医療法人の持分に基づき出資額に応じた払戻しを受けると、当初の拠出額と現在の評価額の差額についてはみなし配当所得として総合課税で最高45%の税負担となる。また、払戻しの際に医療法人側では20.42%の源泉徴収が必要となる。
従って、医療法人側では高額の払戻請求に伴う資金流出によって病院経営が不安定化する恐れがあり、また出資者側には高額の納税負担の恐れがある。

また、他の出資者が出資持分を放棄した場合、残存出資者の評価額は上昇するため贈与税負担が発生するが、医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例の適用により、出資者全員が持分放棄した場合には猶予税額は免除される。さらに、持分放棄により医療法人を個人とみなして行われる贈与税課税も免除される。

従って、弟Eさんには医療法人持分の相続税の納税猶予・免除特例の適用による持分の放棄を勧め、持分の払戻の代替として、相応の役員退職金を支給することで、税負担を軽減させることが可能と思われる。
退職所得は分離課税であり、退職所得控除と2分の1課税により、総合課税のみなし配当所得と比較して大幅な税負担の軽減が可能。)

5. 相続税の納税義務者と課税財産

相続開始時までに日本国内に10年以内に住所がある人から、相続・遺贈によって財産を取得した場合は、相続人の国籍・住所や、相続した財産の国内外を問わず、取得した財産はすべて相続税の課税対象となり、納税義務が発生する(財産取得時において相続人に日本国内の住所があれば居住無制限納税義務者、住所がなければ非居住無制限納税義務者)。

米国在住で非居住者である長女Dさんが、国内在住のAさんから相続で財産を取得した場合、非居住無制限納税義務者として全て相続税の課税対象となる。

また、国内居住者が有価証券等を時価1億円以上保有していた場合、海外に転出する際や海外在住者に相続させた際に、国外転出時課税制度により対象資産の含み益に対して所得税が課税される(1億円の有価証券等には、上場株式のほか、国債等の債券や非上場株式、同族会社の株式、医療法人の出資者持分も含まれる。)。

本問の場合、有価証券と医療法人の持分を合わせると1億円以上となるため、持分放棄をしないまま相続が発生した場合には、国外転出時課税制度による課税リスクも発生することも考慮しておくことが必要である。

6. 自宅の二世帯住宅への建替え

小規模宅地の特例は、二世帯住宅については内部が独立していても適用可能であり、またそれぞれの持分を共有登記した場合には、敷地全てに適用されるが、それぞれの居住部分を区分建物所有登記し、親子が別生計の場合には、敷地全てについて特例が適用されないため、二世帯住宅建築後の登記時には注意が必要。

また、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度により、建築資金を長男に贈与することで相続税負担の軽減も可能だが、建築資金を全額負担して建築した後に、二世帯住宅の持分を贈与した場合には、特例適用の対象外であることに注意が必要である。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】ぜくしあ FP1級実技試験体験記2023年2月4日試験

【note】サロンパス 2023.2.4 FP1級実技面接試験APart1面接

目次          2023年2月4日part2
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