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2023年9月30日実技part2

2023年9月30日実技part2

part2 問題文

●設 例●
Aさん(79歳)は、三大都市圏近郊のS市内に所在する甲土地を所有し、甲土地の北側3分の1部分にある甲建物で妻Bさん(76歳)と暮らしている。甲土地の南側3分の2部分は、アスファルト敷きの月極駐車場として利用している。甲土地と甲建物は、20年前、Aさんが相続により取得した。1人息子の長男Cさん(52歳)は、隣県のT市内にある分譲マンションで妻子と暮らしており、S市に戻る予定はない。
Aさん夫妻は、長男Cさんの勧めもあり、T市内で分譲予定のシニア向けマンションを購入し、老朽化した甲建物から転居したいと思っているが、手元の資金にはできるだけ手を付けたくないと考えている。また、転居後、生活費として年間400万円程度必要になる見込みである。

【Aさんの所有財産の概要】
・現預金:4,000万円
・甲土地:地積1,800u、北側3分の1(600u)を甲建物の敷地として利用し、南側3分の2(1,200u)を月極駐車場として利用している。
・甲建物:木造2階建て、延べ面積165u、築50年
※現在の収入(税引前):年間520万円(年金収入200万円、駐車場からの賃貸収入320万円)

【Aさんが購入予定のシニア向け分譲マンションの概要】
・販売価格6,000万円(諸経費込み)
・専有面積70u、2LDK、相続税評価額2,000万円

月極駐車場からの収入は、固定資産税・都市計画税を支払うと年額120万円で、収益性は高くない。そこで、シニア向け分譲マンションの購入資金の準備と将来の相続を見据えた甲土地の取扱いを思案していたところ、ドラッグストアを展開するX社から、甲土地に新規店舗を出店したいと申出があり、Aさん側の事情を踏まえて、3つの提案(右頁の<資料>参照)があった。Aさんは、3つの提案のいずれがより望ましいのか判断がつかず、FPであるあなたにアドバイスを求めている。

(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.II案の場合、一括支払を受ける前払地代の課税関係はどうなりますか。
3.あなたはAさんにI案、II案、III案のいずれを勧めますか。その理由を将来の相続税、収益性(年間収入)、将来の資産価値などの観点から教えてください。
4.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

【甲土地の概要】

※第一種住居地域、指定建蔽率60%、指定容積率200%、普通商業・併用住宅地区

<資料>X社からの提案内容
・甲土地全体を店舗敷地とする。現在の月極駐車場部分に鉄骨造平屋建て、延べ面積700uの新規店舗を建設し、甲建物敷地部分は顧客用駐車場とする。
・測量費や分筆が必要な場合の費用等はX社が負担する。
・I案、II案、III案のいずれでもかまわない。

I案:甲建物とその敷地部分(600u)を6,000万円で購入し、月極駐車場部分(1,200u)を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。
・月額地代65万円(年額780万円)、敷金300万円

II案:甲土地全体を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。甲建物の解体費はX社が負担する。
・月額地代83.3万円(年額1,000万円)、地代総額の30%相当(6,000万円)を前払地代として一括支払、敷金450万円

III案:甲建物とその敷地部分(600u)を6,000万円で購入する。また、新規店舗を建設協力金方式により建設(建設費1億2,000万円)してX社が20年間賃借する。
・月額賃料125万円(年額900万円・建設協力金返済後)、敷金750万円

※店舗建設後の固定資産税・都市計画税について、甲土地全体では年額270万円、月極駐車場部分のみでは年額200万円と見込まれ、店舗(建物)は年額100万円と見込まれる。

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part2 ポイント解説

1. アドバイスに当たって必要な情報

(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、シニア向けマンションの購入費用という大きな支出予定があるため、今後のライフプランやその資金計画等についても確認が必要。

(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本問の場合、特に土地活用によりシニア向けマンションの購入費用をまかなう予定であることから、土地活用方法やシニア向けマンションの実情等についてあらかじめ地元の不動産業者や介護事業者と接触して周辺事情を把握しておくことが必要。

2. II案における、一括支払を受ける前払地代の課税関係

前払地代方式の場合、一括で受け取った前受地代は、税務上期間に応じて均等に不動産所得における収益計上することになるため、権利金のような一時金としての多額の所得税負担を回避することができる。ただし、借地期間中に中途解約があった場合には、未経過地代の返還が必要となる。
また、前払地代のうち、相続発生時の未経過地代については、定期借地権を設定した宅地として評価上減額されるため、債務控除の対象外であり、相続税の課税対象となる。

3. 顧客に対して将来の相続税、収益性(年間収入)、将来の資産価値などの観点からどの案を勧めるか

◆将来の相続税からの観点
I案:自身の土地を他者へ賃貸するため、月極駐車場部分の土地は貸宅地として、定期借地権価額分の減額評価となる(定期借地権の残存期間に応じて減額割合が逓減)。
さらに、小規模宅地の特例については、貸付事業用として200uまで50%減額評価となる。
II案:I案同様に貸宅地評価であり小規模宅地の特例の適用対象となるが、甲土地全体が相続税評価対象のため、評価額はI案よりも高くなる。
III案:建設協力金方式の場合、建物は土地所有者が建設・所有することから、土地は貸家建付地、建物は貸家、建設協力金・保証金は債務となるため、相続税負担の軽減が期待できる。
また、小規模宅地の特例については他の案と同様に適用対象となる。
相続税の観点からは、貸宅地は建物は借地権者の所有物であるため減額割合が多く、貸家建付地よりも低い評価額となることが多い。ただし、定期借地権価額は残存期間に応じて減額割合が逓減するため、相続の発生時点によってどの案が有利となるかは現時点では判断が難しいと思われる。

◆収益性(年間収入)からの観点
I案:地代年額780万円−固定資産税等年額200万円=580万円
II案:地代年額1,000万円−前払地代年額相当額(6,000万円÷20年)−固定資産税等年額270万円=430万円
III案:賃料年額900万円−(固定資産税等土地年額200万円+店舗年額100万円)=600万円
収益性の観点からは、転居後の年間生活費400万円に対してII案はやや不安が残るが、I案とIII案は十分な額と思われる。

◆将来の資産価値からの観点
I案:シニア向け分譲マンションと月極駐車場部分の土地が資産として残る。
II案:シニア向け分譲マンションと甲土地全体が資産として残る。
III案:シニア向け分譲マンションと月極駐車場部分の土地と店舗が資産として残る。
将来の資産価値の観点からは、II案が最も高い資産価値が残り、III案とI案では店舗が残る分III案の方がより多くの資産価値が残ることになる。

各観点を総合的に評価すると、手元の資金にはできるだけ手を付けたくないという顧客の要望を考慮して、まず収益性が劣るII案は対象外となる。
次に、III案の建設協力金方式では、建設協力金としてテナント側から受け取った建設資金が、入居後は保証金となり、テナント側に毎月の賃貸収入から返済していくことが必要となる。従って、契約期間途中でテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残るといったデメリットに加え、残された建物と保証金の処理が複雑になるデメリットがある。
Aさんは現在79歳と高齢であり、長男CさんもS市に戻る予定がないことを考慮すると、中途解約や期間満了後の建物の取り扱いのリスクを考慮すれば、それらの心配が少ないI案を顧客に勧めるべきと思われる。

4. 関与すべき専門職業家

甲土地・建物の売却や建設協力金方式の利用における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士測量結果に基づく適正な不動産価格・地代、賃料の算定は、不動産鑑定士土地・建物の所有権移転登記等については司法書士課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。

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