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2024年2月11日実技part1

2024年2月11日実技part1

part1 問題文

●設 例●
地方中核都市に所在するX株式会社(非上場会社・電子部品製造業)は、代表取締役社長であるAさん(70歳)が40年前に専務取締役である弟Eさん(68歳)と設立した会社である。X社の技術力は取引先から高く評価され、業績は順調に推移し、弟Eさんと2人で始めたX社も今では従業員70人超の規模に成長した。

【事業承継について】
数年前から弟Eさんの体調が思わしくなく、Aさんは、弟Eさんとともに近々会社経営から身を引くことを考えている。後継者は、弟Eさんの長男Fさん(45歳、Aさんの甥)とし、本人も承諾している。
Aさんには、長女Cさん(37歳)と二女Dさん(34歳)の2人の子がいるが、いずれもX社の経営にはまったく関心がない。甥Fさんは、10年前、大手メーカー勤務を経てX社に入社し、現在は技術部長としてX社の技術部門の中核を担っている。
Aさんは、自身が所有するX社株式を移転する方法として、事業承継税制の活用を考え、先月、後継者を甥Fさんとする特例承継計画を県知事に提出し、その確認を受けた。
なお、Aさんは、弟Eさんが所有するX社株式についても甥Fさんにどのように引き継ぐのがよいのか気になっている。

【資産承継について】
Aさんは、所有するX社株式のうち、事業承継税制を活用することができる最低贈与株数を甥Fさんに贈与し、残りは将来金庫株により換金して2人の子に遺す財産にしたいと考えている。また、遺留分に関する民法特例を活用すると、将来の紛争防止に効果があると聞き、その仕組みと手続について知りたいと思っている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億800万円
2.上場株式: 2,400万円
3.X社株式: 1億6,800万円
4.自宅
(1)土地(500u) : 7,000万円
(2)建物 : 3,000万円
5.X社本社・工場土地(1,000u) : 1億2,000万円(注)
合計 : 5億2,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億4,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

【X社の概要】
資本金 :1,500万円
会社規模:大会社
従業員数:75人
売上高 :20億円
経常利益:5,000万円
純資産 :5億円
株主構成(発行済株式総数3万株):Aさん80%、弟Eさん20%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額10,000円/株

【Aさんの家族構成】
妻Bさん(68歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(37歳):専業主婦。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
二女Dさん(34歳):地方公務員。賃貸マンションに住んでいる。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足、相続税・所得税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討

3. 事業承継税制の特例の活用の留意点

X社株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)

ただし、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2026年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要(株式の贈与は2027年12月31日までに実施)。
なお、後継者は贈与時には役員就任期間が3年以上、相続発生時に役員であることが必要。

また、雇用の8割以上を5年間平均で維持することが必要(下回ると理由を記載した報告書の提出が必要)であり、税務署への特例適用の継続届出書の未提出等により納税猶予取消となった場合、猶予されている税額と利子税を納付する必要がある。

本問の場合、既に特例承継計画を県知事に提出し確認を受けているため、今後は猶予取消条件に該当しないように留意することが必要となる。

なお、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除では、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も適用対象であるため、本問のように、先代経営者であるAだけでなく、専務取締役である弟Bから、後継者である甥(代表権を有し、議決権割合の10%以上かつ上位3位までの同族関係者)に贈与する場合も適用可能となっている。

4. 金庫株の取り扱い

事業承継税制でAさんから甥Fさんに株式を移転した場合、相続税負担は発生しないものの、財産価値のある株式を無償で移転させてしまうことから、Aさんの配偶者や子どもたちに不満が発生する可能性がある。
そのため、Aさんが検討している金庫株については、遺族に適切に資産承継できる方法を検討する必要がある。

●Aさんが所有するX社株式のX社による買い取り(金庫株)
業績が堅調で純資産も潤沢なX社が、Aさん保有株式を数年にわたって金庫株として買い取ることが提案できる。
これは、一度に全ての保有株式を買い取ると、X社の経営リソースに影響を与える可能性があり、税務面ではみなし配当所得として総合課税となることから、所得税負担も多大なものとなることを避けるためである。
つまり、数年にわたって少しずつ金庫株として買い取ることで、Aさんの株式保有を割合を段階的に下げて過半数以下として実質的に甥に事業承継し、毎年の所得税負担もほどほどに抑えられるメリットがある。

また、Aさんの株式保有割合が過半数未満となった後で相続が発生すれば、株式を取得する遺族は相続税の申告期限の翌日以後3年以内(相続開始後3年10ヶ月以内)に発行会社に譲渡することで、みなし配当課税を回避可能となる。

5. 遺留分に関する民法特例の仕組みと手続き

甥FさんがX社を承継することにより、妻Bさん・長女Cさん・二女Dさんの遺留分を侵害してしまう可能性が高いため、まずは遺留分に関する民法の特例を活用し、後継者に生前贈与された自社株式について、遺留分算定基礎財産価額に算入する価格を固定する固定合意や、後継者に生前贈与された自社株式を遺留分算定基礎財産価額に算入しない除外合意を行うことを勧める。

ただし、合意後に後継者が対象株式を譲渡したり、対象会社の代表者を退任した場合には、後継者以外の推定相続人は、他の推定相続人と共同して合意を解除したり、後継者に対して金銭の支払を請求する等の、あらかじめ合意時に定められた措置をとることが可能。

つまり、合意時は対象会社の安定的な存続を目的に、後継者以外の推定相続人は除外合意・固定合意をしているため、株式の譲渡や代表者の退任により、合意時と異なる状況となった場合には、合意の解除や金銭支払い等により後継者以外の推定相続人にも公平な遺産分割となるように、あらかじめ合意時に取り決めておくことが、経営承継円滑化法上に定められている。

本問の場合、甥は事業承継後もX社の経営を継続して担っていく可能性が高いが、合意後にM&A等が発生した場合には、著しく甥に偏った生前贈与となってしまうため、合意の解除や金銭支払い等、合意時にあらかじめ取り決めておくことが必要である。

なお、遺留分に関する民法の特例を受けるには、推定相続人全員の合意を得た上で、書面により一定の内容を定め、後継者が合意日から1ヶ月以内に経済産業大臣の確認と、その確認日から1ヶ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、許可を受ける必要がある。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税・所得税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】はちみつクッキー FP1級実技試験 PartT 2024年2月11日

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