TOP > 実技過去問ポイント解説 > 2023年2月1日実技 > 2023年6月18日実技part1

2023年6月18日実技part1

2023年6月18日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(70歳)は、大都市圏近郊で自動車部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)の3代目社長である。得意先の海外進出に呼応して、東南アジアへ製造子会社を積極的に展開してきた戦略が奏功し、業績は大きく拡大した。その後、東南アジアの地場需要も取り込み、今では海外子会社の業容が国内を大きく上回るに至っている。
一方、100年に一度といわれる自動車業界の大変革期に入り、Aさんは、X社の先行きに強い危機感を抱いている。事実、X社の業績には既に大きなブレーキがかかっている。
なお、Aさんは株式投資を唯一の趣味としており、個人で頻繁に売買を手掛けているが、X社でも余裕資金の一部を株式運用に回している。

【事業承継について】
X社がEV化に対応するためには10年単位の長期的取組みが必要であるため、Aさんは、3年前に完成車メーカーから中途採用したEさん(45歳)を経営企画室長に据えて事業戦略を策定させている。その検討過程を見るにつけ、Aさんは、いよいよ若い世代へバトンタッチする時期であると自覚するようになった。また、正直なところ、個人的には、好きな金融資産運用をしながら、ゆっくりしたいという気持ちも芽生えている。
Aさんには子が2人いる。長男Cさん(43歳)は、幼少のころからモノ作りが大好きで、私立大学工学部卒業後にX社に入社して以来、製造部門一筋でX社に貢献してきた。Aさんとしては、後継者の第一候補と考えているが、会計・総務といった管理業務や完成車メーカーを含む得意先との付き合いが苦手な長男Cさんを見ると、今のままが性に合っているのではないかとも感じている。
長女Dさん(40歳)は、芸能界で独自の生き方を貫いており、X社にまったく関心がない。
先日、メイン銀行との決算説明会の席上、支店長から「弊行にて貴社の自社株評価額を算出しましたが、貴社が株式等保有特定会社に該当しているため、非常に高い株価になっています」と指摘があり、「貴社の事業承継について一緒に考えていきませんか」と提案を受けた。Aさんは、株式等保有特定会社というものが何なのかよくわからなかったが、X社の将来を真剣に考え始めたタイミングであったため、支店長の話に乗ることにした。
また、テレビや雑誌でよく目にするM&A仲介会社から電話やメールで「事業承継の件で」と頻繁に面談の申込みを受けており、気になっているところである。

【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:100人
売上高:25億円 経常利益:2億円 純資産 :15億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額15,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

【親族関係図】

ページトップへ戻る

part1 ポイント解説

1. 納税資金の確保・相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 贈与税の配偶者控除の活用
(6) 配偶者居住権の設定

3. 株式保有特定会社としての評価見直し詳細(子会社の資産移転)

会社の総資産価額に占める株式保有割合(相続税評価額ベース)が50%以上の場合、株式保有特定会社とされ、純資産価額方式またはS1+S2方式により評価される(納税者が選択可能)。
※S1+S2方式:株式の要素を除外した金額と株式を純資産価額で計算した金額との合計
純資産価額方式の場合、類似業種比準方式よりも評価額が高くなりがちなため、相続税負担も大きくなる。
株式以外の資産保有額を増やすことや、子会社との合併・子会社からの事業譲受・子会社からの配当受取等により、株式保有割合が低下すれば、株式保有特定会社としての評価から外れることが出来る。
通常海外子会社の株価は時価純資産で評価されるため、海外子会社の業績が好調な場合には簿価計上額よりも高額評価されるケースがある。
本問の場合、海外子会社の業容が国内を大きく上回っているため、株式の保有割合が総資産の50%を超えて株式保有特定会社として評価されると思われる。

海外子会社の資産を親会社であるX社に移転することで、株式保有特定会社としての評価から外れればX社株式の評価額の減額に効果があると思われるが、グループ法人間での資産(帳簿価格1,000万円以上)譲渡の損益が税務上繰延べられるグループ法人税制は100%の資本関係にある内国法人間で適用されるため、本問の場合は資産譲渡による税負担が発生してしまうと思われる。

AさんはX社でも余裕資金の一部を株式運用に回しており、保有上場株の売却で株式保有特定会社の基準以下となるか確認が必要。

4. 親族内承継とM&A(株式譲渡)の選択

親族内承継では、その親族が後継者として目されてきた場合には、後継者として備えるべき心構えや覚悟が醸成されやすい。また親族が後継者であれば従業員や取引先も受け入れやすく、引き継ぎは比較的スムーズに運べるメリットがある。
ただし、後継者としての資質や能力が十分に備わっているかは承継のタイミングにも左右されるものであり、後継者として育成するための十分な時間的余裕があることが望ましい。

株式譲渡によるM&Aの場合、親族内承継と異なり、株式譲渡する理由や買い手の資質等について、従業員や取引先に理解を得ることが必要となる。
オーナー経営者(個人)にとっては、株式売却による創業者利益を享受できるメリットが大きいが、買い手は決算書上では認識できない簿外債務も含めたすべての財産を承継するため、専門家による現時点での会社や事業の価値の精査(デューデリジェンス)や適切な売却先の選定など、必要な事務負担・費用負担も多くなる。

長男Cさんには管理業務や取引先との付き合いが苦手であり、E経営企画室長は資質はあると思われるが株式取得資金が不足している可能性が高い。またM&A仲介会社の利用は売却先企業を効率的に探すことが可能だが、M&A成立による成功報酬を目的に不適切な売却先でも取引を進められやすい可能性がある。現時点ではメイン銀行の意見も交えながら、各人の意思確認を進めていくことが必要と思われる。
なお、E経営企画室長を後継者とする場合、後継者が新会社を設立し、不足する株式取得資金を金融機関からの融資等で調達して対象会社の株式を取得することで事業承継後、対象会社のキャッシュフローで返済する方法も考えられる(Management Buyout=MBO)。

5. 事業承継後の株主構成と資産承継

安定した企業経営の継続のためには、贈与税の納税猶予特例・金庫株・後継者の役員給与の増額等による株式譲渡といった対策を組み合わせ、できるだけ後継者に株式を集約させることが望ましい。

本問の場合、会社規模は大会社であるため、株式を集約させる際の評価額は類似業種比準方式となる(株式保有特定会社から外れた場合)。
X社は役員退職金の支給や記念配当の実施等により、評価額の引き下げを進めておくことが提案できる。

X社の経営は順調であることから、Aさんの株式の一部については、今後の事業承継を考慮しながらX社が金庫株として買い取っていくことが望ましいと思われる。
なお、個人が非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、買い取ってもらった金額のうち資本金等の額を超える分については、「みなし配当」(配当所得)として総合課税の対象となる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、「後継者を誰にするのか、もしくは他社とのM&Aにするのか」といった非常に取扱いに注意を要する顧客の秘密漏洩を防止する「守秘義務」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】たやみー fp1級実技試験2023/6/18 Part 1

ページトップへ戻る

FP対策講座

<FP対策通信講座>

●LECのFP講座(キーワード検索欄で「1級」と検索) ⇒ FP(ファイナンシャル・プランナー)サイトはこちら

●1級FP技能士(学科試験対策)のWEB講座 ⇒ 1級FP技能士資格対策講座(資格対策ドットコム)

●通勤中に音声学習するなら ⇒ FP 通勤講座

●社労士・宅建・中小企業診断士等も受けるなら ⇒ 月額定額サービス【ウケホーダイ】

ページトップへ戻る

Sponsored Link

実施サービス

Sponsored Link

メインメニュー

Sponsored Link

サイト内検索

Sponsored Link

Copyright(C) 1級FP過去問解説 All Rights Reserved.