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2011年5月29日実技part1

2011年5月29日実技part1

part1 問題文

●設 例●
 Aさん(66歳)は、自動車関連の精密部品製造業を営むX社のオ−ナ−社長である。X社は大手自動車メ−カ−の下請けであるが技術的に優れており、創業以来順調に業績を伸ばしてきたが、近年の世界的不況の影響で、前々期、前期と2期連続で赤字を計上した。当期にようやく黒字に転換したところであるが、税理士によると、株式評価額(類似業種比準価額)は一時の3分の1程度に下落しているとのことである。ただし、徐々に景気も回復してきたので、2、3年後にはX社の業績は不況前の水準まで回復することが予想されている。
 Aさんは、これまで事業承継には関心がなかったが、昨年、妻を亡くしていることもあり、そろそろ長男を後継者として、X社の事業を承継したいと考えている。
 長男は、現在、半導体関連のY社を経営しているが、Aさんの後継者としてX社も経営することを承諾している。二男は官庁に勤務する国家公務員で、X社の経営には関心はない。長女はすでに結婚し、夫の両親が資産家であり生活に不安はない。ただし、二男、長女とも、Aさんの相続時には遺留分程度の財産は取得したいとの意向をもっている。
 Aさんは、X社株式およびX社に関する事業用資産を長男に承継し、それ以外の資産を二男と長女に相続させたいと考えているが、どのようにX社株式を移転したらよいかわからず、また、この財産分割方針で二男と長女が納得するか不安である。経営者仲間からは、「X社は赤字を計上し株価も下がっているのだから、X社株式を生前に移転したらどうか」との助言を得ている。
 さらにAさんは、平成22年に改正された小規模宅地等の評価減の特例の内容についても知りたいと思っている。
 現状でのAさんの相続財産は約700百万円で、昨年、相続税額の試算をしたところ、総額は約197百万円であった。

〈Aさんの家族構成〉
  Aさん(66歳):X社社長
  長男(38歳) :Y社(半導体関連、中会社)の社長、既婚、昨年に自宅を新築
  二男(35歳) :公務員、既婚、官舎に居住
  長女(33歳) :専業主婦、夫の自宅に居住

〈X社の概要〉
  株主構成:Aさん(100%)
  資本金 :70百万円      発行済株式総数    :140万株
  従業員数:60人        株式評価上の会社規模:「大会社」
  類似業種比準価額は350円、純資産価額は1,071円である

〈Aさんの財産の概要〉
  金融資産       50百万円
  自宅(土地、建物) 100百万円(小規模宅地等の評価減適用前)
  倉庫(土地、建物  60百万円(X社に賃貸)
  X社株式       490百万円
         合計  700百万円

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part1 ポイント解説

● 顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
 (1) 株式の公開(上場)
 (2) 生命保険・金庫株の活用
 (3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
 (4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用

2. 遺産分割・事業承継対策
 (1) 遺言の作成
 (2) 遺留分に関する民法の特例の活用
 (3) 代償分割
 (4) 長男へのX社株式の譲渡

3. 非上場株式の贈与税の納税猶予制度の活用提案
 非上場株式の贈与税の納税猶予制度を活用することで、後継者である長男が先代経営者であるAさんから株式を生前贈与された場合、課税価格の100%に対応する贈与税について、Aさんが死亡するまで納税の猶予を受けることが出来る。
 ただし、経営承継円滑化法に基づき、承継会社が事業承継の計画的な取り組みを行っているかについて、経済産業大臣の確認を受ける必要があり、その他にも適用を受けてから5年間は毎年経済産業大臣への報告書提出義務がある等の厳しい要件がある。
 また、後継者は役員等に就任して3年以上経過していることが必要なため、現時点では長男を後継者に指名しても本特例は適用できないことから、3年以上の期間をかけて事業承継を進めていくこととなる。
 贈与者であるAさんが死亡した場合、贈与税は免除され相続税の課税対象となり、節税効果が期待できる上に、株式の評価額は贈与時点での評価額となるため、数年後の業績回復による株式評価額よりも割安な評価額となり、相続税負担の低減が期待できる。

4. 小規模宅地の特例に関する説明
 小規模宅地の特例では、特定居住用宅地は240uを上限に、80%減額となる。
 ただし、配偶者以外が取得する場合には、取得する別居親族は、相続開始前3年以内に自宅を所有していないことと、相続開始からの申告期限まで継続保有すること等が必要。
 本問では、長男・二男・長女は全て別居親族ですが、長男は自宅を所有し、長女も夫が所有する自宅に居住しており対象外となる(配偶者が所有する自宅に居住する場合も対象外)ため、このため、二男が相続する場合のみ、小規模宅地の特例が適用される。

5. 遺産分割方法の提案
 二男・長女は遺留分程度の財産を取得したいと考えているが、遺留分は法定相続分の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)である。
 Aさんの相続財産は約7億円であり、相続人は長男・二男・長女の3人(法定相続分は各1/3)であることから、二男・長女の遺留分=700百万円×1/3×1/2=1.1666≒120百万円 となる。
 二男については小規模宅地の特例の適用により、相続税負担を抑えながら相続させることできるため、自宅(土地・建物)100百万円を相続させる。
 また、長女については金融資産50百万円と倉庫(土地・建物)60百万円を相続させることで、二男・長女ともにほぼ遺留分程度の相続財産を取得できる。
 ただし、倉庫は現在X社が賃貸しており、今後も賃貸収入が見込めることを勘案し、一定程度の金融資産は二男に相続させるということも考えられる。

6. FPと職業倫理
 FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ
 本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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