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2011年6月4日実技part1

2011年6月4日実技part1

part1 問題文

●設 例●
 Aさん(80歳)は、中小企業X社のオーナー社長である。
 X社は毎期2億円程度の利益を計上する、自他ともに認める優良中小企業である。
 Aさんは、以前から顧問税理士よりX社株式の評価(大会社・類似業種比準方式適用)が高く相続が発生したら大変になると指摘されている。X社株式はAさんと妻で100%保有されている。
 X社は、今や長男(取締役)が経営全般を取り仕切っており、Aさんがほとんど口を出さずとも経営に心配はない。しかし、長男にはまだ会社の代表権が与えられていない。
 Aさんは、商工会議所の会合で「経営承継円滑化法」の存在を聞き興味を持ったものの、それが自分の会社にどうかかわるかはよくわからない。
 また、Aさんは、友人から「配偶者の税額軽減があるから、奥さんには相続税がかからないよ」と言われ、「すべての財産を法定相続分どおりに共有で相続させる」という内容の自筆証書遺言を平成18年に作成している。しかし、最近参加した相続相談会で、小規模宅地等の評価減の特例が改正されたことや、二次相続まで考えた対策が必要であるとの話を聞き、すでに書いた遺言の内容で本当によかったのか、不安に思うようになった。
 長女は、サラリーマンと結婚し安定した生活を送っていたが、昨年、その夫が急逝したため、これからの生活への不安を抱えている。
 X社は、平成20年4月に本社土地建物を都心の一等地に500百万円で購入した。なお、リーマンショックと呼ばれる金融危機が平成20年9月に発生した。

〈Aさんおよび妻の財産の概要〉(不動産については小規模宅地等の評価減適用前)
 (1)Aさん                 (2)妻
  X社株式    :600百万円      X社株式  :400百万円
  金融資産    :300百万円      金融資産 :200百万円
  自宅土地・建物:100百万円
  賃貸不動産  :200百万円

〈Aさんの親族関係図〉

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part1 ポイント解説

● 顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
 (1) 株式の公開(上場)
 (2) 生命保険・金庫株の活用
 (3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
 (4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用

2. 遺産分割・事業承継対策
 (1) 自筆証書遺言の撤回(遺言の再作成)
 (2) 遺留分に関する民法の特例の活用
 (3) 代償分割
 (4) 長男へのX社株式の譲渡

3. 「経営承継円滑化法」の説明と、非上場株式の贈与税の納税猶予制度の活用提案
 中小企業の場合、民法上の遺留分・資金調達・相続税負担等で経営承継が難しくなるケースが多いため、中小企業経営承継円滑化法として、「遺留分に関する民法の特例」・「金融支援」・「事業承継税制」が規定された。
 特に「事業承継税制」では、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度があり、後継者が贈与・相続で取得した株式について、課税の猶予を受けることができる。
 本件の場合、非上場株式の贈与税の納税猶予制度を活用することで、後継者である長男が先代経営者であるAさんから株式を生前贈与された場合、課税価格の100%に対応する贈与税について、Aさんが死亡するまで納税の猶予を受けることが出来る。
 贈与者であるAさんが死亡した場合、贈与税は免除され相続税の課税対象となり、節税効果が期待できる。また、株式の評価額は贈与時点での評価額となるため、相続発生時に評価額が現在よりも上昇していれば、相続税負担の軽減が期待できる。
 X社は株式評価上は大会社のため、株式の評価は純資産価額方式も選択できることから、リーマンショック前に購入した本社土地建物が帳簿価格よりも割安な評価額となっていれば、簿価の純資産額で評価する類似業種比準方式よりも割安となる可能性もあり、本特例の効果が期待できる。
 ただし、本特例を受けるには、先代経営者は贈与時までに会社の役員を退任し、後継者が贈与時以降に承継会社の代表者であることが必要であるため、現在代表権の無い長男に代表権を与える必要がある。

4. 小規模宅地の特例の改正に関する説明
 小規模宅地の特例では、特定居住用宅地は240uを上限に、80%減額となる。
ただし、改正前は取得した者のうちに一人でも要件を満たす者がいれば、その宅地等全体について80%評価減の適用ができたが、改正後は、取得者ごとに適用要件を判定することになった。
 従って本問の場合、「すべての財産を法定相続分どおりに共有で相続させる」という自筆証書遺言に従うと、小規模宅地の特例による80%評価減が適用されるのは、自宅土地は配偶者の持分に対応する部分のみとなる可能性がある。

5. 二次相続まで考えた対策に関する説明
 二次相続とは、例えば夫死亡後に妻と子ども2人が遺産相続し、その後妻死亡時に発生する相続のこと。
 一次相続では、配偶者の税額軽減により相続税負担が軽くても、二次相続では配偶者の税額軽減がなく、また法定相続人も1人少なくなっていることから、二次相続の方が相続税負担が増加する場合がある。
 また、小規模宅地の特例も、別居親族が取得する場合は適用されないケースがあるため、二次相続の際は全く適用されずに相続税負担が増加する可能性がある。

6. 遺産分割方法の提案
 まず、事業承継予定である長男には、非上場株式の納税猶予の特例を適用し、X社株式を相続させ、自宅土地・建物については、小規模宅地の特例を受けるため、妻に相続させる。
 長女はこれからの生活に不安を感じていることから、賃貸不動産を相続させることで、賃貸収入が得られるようになる。
 また、孫6人に住宅購入予定があれば、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」により、受贈者1人当たり1,000万円まで贈与税が非課税となるため、金融資産の一部を贈与することで、相続財産の評価額を低くすることができる。

7. FPと職業倫理
 FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ
 本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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