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2011年6月5日実技part1

2011年6月5日実技part1

part1 問題文

●設 例●
 Aさん(72歳)は、地元では有名なスーパーマーケットX社(非上場)のオーナー社長であり、地元のライオンズクラブやロータリークラブ等の役職も多く兼任している。
 Aさんは、自分ではいたって健康であると自負しているが、相続を意識してか最近になって子や孫から資金の贈与をせがまれることが多くなった。特に昨年、長女に対して住宅資金の贈与を行ったことから、他の子供や孫たちからも贈与の依頼が殺到している。Aさんは、二女へは長女と同じく住宅資金を、長男の子(Aさんの孫)には外国車の購入資金をそれぞれ贈与したいと思っているが、税務上の優遇措置があるのであれば、できるだけ活用したいと考えている。
 また、Aさんが社長を務めるX社の業績は不況にもかかわらず好調であり、Aさんの保有するX社株式の評価額も下記のように高額なものとなっている。このため、X社の専務として実務面を取り仕切っている長男への株式の移転についてもAさんは頭を悩ませているが、相続税の納税猶予制度の存在を知り、この制度を使えないかどうかを検討中である。
 一方、Aさんの妻は現在は孫の世話にかかりきりとなっているが、Aさんは自分の没後も妻には金銭面で余裕のある暮らしができるように配慮するつもりである。
 また、Aさんのところへは、証券会社等から新興国株式に投資する外貨建証券投資信託の案内がよく来ており、Aさんは興味はあるものの、その内容やリスクについてはよくわからない。
 Aさんの財産の概要は次のとおりである。なお、昨年、相続税額の試算をしたところ、総額は一次、二次合わせて342百万円であった。

〈Aさんの家族構成(一部抜粋)〉
  Aさん(72歳):X社社長   妻(72歳)      :専業主婦
  長男(44歳) :X社専務   長女(37歳)    :専業主婦
  二女(30歳) :公務員    長男の子(20歳):学生

〈X社の概要〉
  資本金          :1億円    株主構成            :Aさん 100%
  発行済株式総数  :200万株  株価評価上の会社規模:大会社
  株式の相続税評価額:類似業種比準価額435円/株、純資産価額790円/株

〈Aさんの財産の概要(相続税評価額)〉
 現金・預金            283百万円
 自宅(土地・建物)         46百万円(小規模宅地等の評価減適用後)
 X社株式              870百万円
 Aさんが趣味で集めた骨董品   13百万円
               合計 1,212百万円

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part1 ポイント解説

● 顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
 (1) 株式の公開(上場)
 (2) 生命保険・金庫株の活用
 (3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
 (4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用

2. 遺産分割・事業承継対策
 (1) 遺言の作成
 (2) 遺留分に関する民法の特例の活用
 (3) 代償分割
 (4) 長男へのX社株式の譲渡

3. 二女と長男の子への資金援助方法
 二女に関しては、住宅資金の援助として、直系尊属からの住宅取得等資金贈与に関する贈与税の非課税制度の特例を活用することで、1,000万円まで贈与税が非課税となる。また、相続時精算課税制度と併用することで、さらに2,500万円まで贈与税を非課税とすることができる(合計3,500万円の非課税枠)。
 長男の子に関しては、贈与税について暦年課税による基礎控除110万円まで非課税となるだけである(相続時精算課税は長男が存命中のため適用できない。)。しかし、平成23年度の税制改正大綱では、相続時精算課税制度の適用範囲を孫まで広げる改正が予定されていた(結局棚上げ)ことから、近い将来改正される可能性もある。

4. 非上場株式の相続税の納税猶予制度の活用提案
 非上場株式の相続税の納税猶予制度を活用することで、後継者である長男が先代経営者であるAさんの株式を相続した場合、課税価格の80%に対応する相続税について、長男が死亡するまで納税の猶予を受けることが出来る。
 ただし、経営承継円滑化法に基づき、承継会社が事業承継の計画的な取り組みを行っているかについて、経済産業大臣の確認を受ける必要があり、その他にも適用を受けてから5年間は毎年経済産業大臣への報告書提出義務がある等の厳しい要件がある。
 また、本特例を受けるには、後継者が相続開始から5ヶ月の間に承継会社の代表権を有していることが必要なため、長男に代表権が無ければ代表権を与えておくことが望ましい。

5. Aさん没後の妻への配慮(金銭面で余裕のある暮らし)
 長男にX社株式を相続させ、妻に自宅を相続(小規模宅地の特例)させた上で金銭面で余裕のある暮らしとなるよう配慮した相続(現金・預金等の相続)となると、長女や二女の遺留分を侵害してしまう可能性がある。
 そこで、遺留分に関する民法の特例を活用し、長男が相続した]社の株式について、遺留分算定基礎財産価額に算入しない「除外合意」や算入額を固定する「固定合意」を行なう際に、妻が相続した自宅や現金・預金についても遺留分算定基礎財産から除外することで、遺留分減殺請求を回避することができる。

6. 新興国株式に投資する外貨建証券投資信託に関する説明
 新興国とは中国、インド、ブラジル等の近年成長著しい国家のことで、今後も経済成長の伸びが予測されていることから、新興国の株式への投資も注目されてきている。
 外貨建投資信託は、主に投資先の国の通貨による投信信託で、為替が円安になれば為替差益が発生し、円高になれば為替差損が発生する。
 つまり、外貨建証券投資信託は、通常の株式の価格変動に加え、為替変動によっても差益・差損リスクのある金融商品である。また、新興国の場合には国の体制や政治状況が大きく変動するカントリーリスクもある。
 以上のように、将来の大きな投資利益も見込まれる一方、国内投資に比べて価格変動リスクが高いことを理解した上での投資判断が必要である。

7.FPと職業倫理
 FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
 本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策や遺産分割・事業承継対策、金融商品の特徴をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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