2012年6月9日実技part2
2012年6月9日実技part2
part2 問題文
●設
例●
Aさん(68歳)は、妻が2年前に急死したため、昨年から長男Bさん(40歳)夫婦と同居している。Aさんの長女Cさん(38歳)は、遠く離れて独立した家庭を持っているが、生活資金には余裕がないようで、Aさんはそのことを気にかけている。
妻の急死に直面したこともあって、Aさんは最近、自分の相続のことを漠然と考え始めた。
Aさんの主な資産は下記のとおりである。Aさんは、自宅(土地・建物)は長男Bさんに相続させたいと考えている。貸家(預り保証金はなく、現在は月28万円の家賃収入がある)は、土地・建物とも長女Cさんに相続させたいと考えているが、友人からは、「まず建物を生前贈与したらどうか」との助言を受けている。駐車場の土地については、大部分は長男Bさんに相続させたいが、一部は長女Cさんにも共有で相続させたいと考えている。なお、仮に現時点でAさんの相続が発生した場合の相続税の総額を税理士に尋ねたところ、約8,500万円(小規模宅地等の評価減適用後)とのことであった。
ところで駐車場については、かなり以前から値上げができず賃貸料が低いまま(月額30万円)であるため、この土地を他の方法で有効活用したいと考えていたところ、2社からそれぞれ次の提案があった。
(1)中堅総合不動産会社X社の提案
事業受託方式でAさんが単身者向け賃貸マンションを建築する。X社が企画立案から建築請負までを行う。さらに、X社は居住用として各室の管理も行う。
賃料月額:250万円(当初2年間は賃料月額の90%を保証)、建設費用:2億7,000万円
(2)レストランをチェーン展開しているY社の提案
事業用定期借地権を設定してY社が土地を賃借する。Y社は店舗を建設してレストランを営業する。
契約期間:30年、保証金:5,000万円、賃料月額:100万円、整地工事はY社負担
〈Aさんの相談事項〉
1.貸家の建物を長女Cさんに生前贈与することには、何かメリットがあるのか。
2.事業受託方式と事業用定期借地権とはどういうものか、そのメリット・デメリットを教えてほしい。
3.X社とY社からの提案のいずれかを受け入れるとした場合、どちらを選択すべきか。
〈Aさんの資産内容(土地はすべて自用地としての相続税評価額、建物は固定資産税評価額)〉
part2 ポイント解説
●顧客の抱える問題と解決策
1. 貸家の建物を長女に生前贈与するメリット
通常、親子や親族間で土地を使用貸借している場合、その土地を第三者に貸し付けていても、相続税評価額は自用地として評価されてしまう。
しかし、建物を生前贈与した後に相続が発生し、建物の借主が贈与以前から相続時まで変わっていなければ、使用貸借していても貸家建付地として評価減することが可能。
よって、貸家の建物だけを長女Cさんに贈与し、土地は使用貸借とすれば、生活資金に余裕のない長女Cさんは家賃収入を得られ、相続時まで借主が変わらなければ、相続時の評価額も貸家建付地となる。
※貸家の土地・建物を両方生前贈与すれば、相続時の評価額は当然貸家建付地となるが、贈与税が課されてしまうのに対し、建物だけの贈与であれば相続時精算課税の2,500万円特別控除の範囲内のため、贈与税負担を回避できる。
2. 事業受託方式と事業用定期借地権の概要とメリット・デメリット
事業受託方式
土地の権利者が自分で資金調達し、マンション等の建設・管理・運営といった事業のいっさいをデベロッパーに任せる方法。
権利をそのまま維持でき、業務負担もないというメリットがあるが、資金負担大というデメリットがある。
事業用定期借地権
土地に定期借地権を設定し、他者に土地を貸すことで有効活用する方法。
資金負担無しで権利を維持できるというメリットがあるが、一般に地代収入は他の方式による収益よりも低いというデメリットがある。
3. X社とY社の提案の受け入れの是非
X社の提案の場合、マンションの建設資金は金融機関からの借り入れが必要となると考えられるが、相続の際は借入金も債務として相続することになり、仮に長男が全て債務を相続する遺産分割協議をしたとしても、債権者である金融機関の承諾がなければ、長女も法定相続分の債務を相続したことになる。
また、土地・マンションを長男と長女の共有とした場合、マンションの老朽化等による修繕・建替え時は双方の合意が必要となる。
Y社の提案の場合、地代収入は低くなるものの、債務の相続は発生せず、契約期間終了後は更地で返還されるため、長男と長女の共有とした場合でも、持分に応じて分筆することが容易となる。
長男・長女の希望も確認することは必要だが、共有相続する場合にはY社の提案の方が相続人間の争いを回避しやすいと思われる。
FPと関連法規
不動産取引に係る具体的な税金の質問等に関しては、税理士を紹介すべきです。
また、土地活用等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、不動産業者やデベロッパーを紹介すべきです。
本問では、]社やY社との不動産取引や、相続税負担が大きな焦点であるため、具体的な検討を行う際には、税理士や不動産業者の協力を仰ぐべきと考えます。
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