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2012年6月10日実技part1

2012年6月10日実技part1

part1 問題文

●設 例●
 Aさん(68歳)は、生活雑貨品の製造および販売を営むX社の代表取締役である。Aさんは、20年前に義父から2代目社長としてX社の経営を引き継ぎ、事業を拡大安定させ、健全経営として高い評価を受けるまでに育てあげた。
 Aさんには3人の子がいる。長男は大学卒業後上場企業に勤務しており、現時点では後継者となる意思はない様子であるが、正式に意思確認はできていない。長女は、結婚しAさん自宅近隣の借家に住んでいる。二男は、大学卒業後上場企業に勤務していたが、4年前にAさんの後継者となる意思を固めX社に入社し、すでに3年前からは取締役として活躍中である。
 Aさんは、後継者を二男と定め、X社の株式を二男に譲ることを考えているが、現在の株価が高いこともあり、株式の承継時期はまだ決めていない。Aさんの現在の健康状態には問題はないが、株式を含む資産の承継については、将来の財産分割において問題が起きないように、今のうちから対策を検討したうえ、75歳での承継を目標とした計画の作成に取り組みたいと考えており、そのアドバイスを受けたいと思っている。
 現時点でAさんの相続が発生した場合の相続税の総額は、約223百万円と見積もられている。
 またAさんは、資金運用において外貨預金や外貨建債券での運用を勧められており、そのアドバイスも受けたいと思っている。

〈Aさんの資産(土地については、小規模宅地等の評価減適用後の相続税評価額〉
X社株式       :405百万円    自宅(土地・建物):100百万円
駐車場(X社へ賃貸中):100百万円    金融資産     :50百万円
賃貸物件(土地・建物):150百万円                    
合計  805百万円 

〈X社の概要〉
資本金 :20百万円           発行済株式の総数   : 40万株
株主構成:Aさん90%、Aさんの妻10%  従業員数       :  30人
株式評価上の会社規模:「中会社」     一株当りの株式の評価額:1,125円

〈Aさんの家族構成〉
妻 :65歳、専業主婦          長男:38歳、上場企業社員、妻、子供2人
二男:35歳、X社取締役、妻、子供2人  長女:30歳、専業主婦、夫、子供1人

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part1 ポイント解説

● 顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
 (1) 生命保険・金庫株の活用
 (2) 役員退職金の支給
 (3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
 (4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用

2. 遺産分割・事業承継対策
 (1) 遺言の作成
 (2) 遺留分に関する民法の特例の活用

3. 二男への事業承継対策の詳細
◆非上場株式の贈与税の納税猶予制度の活用
非上場株式の贈与税の納税猶予制度を活用することで、後継者である長男が先代経営者であるAさんから株式を生前贈与された場合、課税価格の100%に対応する贈与税について、Aさんが死亡するまで納税の猶予を受けることが出来る。
ただし、後継者が贈与前から所有していた分を含め、発行済議決権株式等の総数の3分の2までが適用対象であるため、対象外となる分は二男が自己資金で買い取るか、X社が金庫株として買い取り、対価を納税資金とすることもできる。
また、本特例を受けるには、先代経営者は贈与時までに会社の役員を退任し、後継者は役員等に就任して3年以上経過していること等が必要であるが、二男は3年前からは取締役として活躍中であるため、この点については要件を満たしている。

4. 長男・長女に相応の財産を相続させる遺産分割対策
◆遺留分に関する民法の特例の活用
Aさんが二男に贈与した]社の株式について、遺留分算定基礎財産価額に算入しない「除外合意」や算入額を固定する「固定合意」により、]社株式に関わる遺留分減殺請求を回避することができる。
ただし、推定相続人全員の合意が必要なほか、経済産業大臣の確認等、適用を受ける要件がある。

◆小規模宅地の特例の活用
小規模宅地の特例では、特定居住用宅地は240uを上限に、80%減額となる。
ただし、特定居住用宅地は、配偶者以外が取得する場合には、取得する別居親族は、相続開始前3年以内に自宅を所有していないことと、相続開始からの申告期限まで継続保有すること等が必要。
本問では、長男と二男に関する自宅所有の有無の記載はないが、長女は借家に住んでおり、妻や長女が取得する場合には要件を満たすことで特例を受けられる(Aさんの妻との共有相続や同居も検討の価値有り)。
   
以上の特例を活用し、X社が自社株式を金庫株として買い取った対価や役員退職金等も含めて遺産分割を行うことができれば、税負担を抑えつつ、相続人間の争いを回避しながら、長男・長女に相応の財産を相続させることが可能と思われる。

5. 外貨預金や外貨建債券等による資金運用
外貨預金や外貨建債券といった外貨建て金融商品には、為替変動リスクがあるため、基本的に円高外貨安になると、円ベースで評価損が膨らむことになる。特にここ数年は、急激な円高が進んできており、高金利をうたっていても、為替変動による損益が最終的な運用実績を左右しやすい
Aさんの現在の金融資産は、将来のリタイヤ資金かつ相続税の納税資金ともなるものであることから、外貨建て金融商品に投資するとしても、全体の一部に留めておくことを提案する。

 FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、金融商品に対するアドバイスがあるものの、FP自身が商品を販売する設定ではなく、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではありません。また、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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