2013年2月3日実技part1
2013年2月3日実技part1
part1 問題文
●設
例●
Aさん(73歳)は、個人事業で不動産賃貸業を営んでいる。2年前に配偶者(妻)を亡くして以降、自宅に1人暮らしとなってから、急に気力が萎え、自分の相続を心配しはじめた。
Aさんの資産・負債および親族関係は以下のとおりである。アパート甲(築年数15年)とアパート乙(築年数25年)は、築年数は経過しているものの立地がよいため、常に満室が続いている。年間家賃収入は、アパート甲からは10百万円、アパート乙からは8百万円である。なお現時点で、相続税の総額は99百万円と試算されている(小規模宅地等の評価減適用前)。
Aさんは、長女Bさんの家族に家督を継いでほしいと思っている。そして、今年になってとりあえずは遺言を残そうと考え、相続に対する自分の気持ちを自筆で書き、その書面を自己で保管している。内容は、「長女Bには、アパート甲とアパート乙の建物とその敷地を相続させ、アパートローンも承継させる。また、孫E(養子E)には、自宅の土地と建物と有価証券を相続させる。残りの現預金は、相続人4名で均等に相続すること」である。この遺言書をコピーしてすべての推定相続人に渡したところ、その場では遺言の内容について特に異論は出なかった。しかしAさんは、はたしてこの遺言書の内容でよいか不安があり、また、遺言書の有効性についても自信がない。Aさんは、相続税対策全般についてもアドバイスがほしいので、ファイナンシャル・プランナーに相談することにした。
またAさんは、現在所有している上場株式について、仮に今年中に売却した場合の税務上の留意点についてもアドバイスがほしいと思っている。
〈Aさんの資産・負債〉
1.不動産(相続税評価額。土地については小規模宅地等の評価減適用前)
自宅 敷地(240u):
180百万円 建物: 10百万円
アパート甲 敷地(250u): 90百万円 建物: 20百万円
アパート乙
敷地(200u): 50百万円 建物: 20百万円
2.金融資産(現預金は残高、上場株式は時価)
現 預 金:
100百万円
上場株式
W株: 35百万円(平成19年に25百万円で取得。年間配当50万円)
X株:
8百万円(平成3年に40百万円で取得。年間配当30万円)
Y株:
6百万円(昭和60年に30百万円で取得。年間配当20万円)
※上場株式3銘柄とも、特定口座で保管している。
3.負債
アパート甲分のアパートローン残高:10百万円
※アパート乙分のローン返済は終了している。
〈Aさんの親族関係図〉
part1 ポイント解説
顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1) 生命保険の活用
(2) 小規模宅地の特例の活用
(3) 法人の設立(法人税の比例税率と所得分散による所得税低減効果有り)
(4) 法人の設立後の役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
2. 遺産分割対策
(1) 自筆証書遺言の要件確認
(2) 遺留分を考慮した公正証書遺言の作成
3. 小規模宅地の特例適用の詳細
小規模宅地の特例では、特定居住用は240uを上限に80%減額、貸付事業用は200uを上限に50%減額となる(ただし、平成27年1月1日以後は、特定居住用は330uに拡大)。
また、特定事業用は400uを上限に80%減額となる。
なお、小規模宅地の特例を複数の宅地に適用する場合、一定の限度面積の制限があり、どの宅地に適用するかは納税者が選択できる。
<2種類以上の小規模宅地等の特例適用を受ける場合の限度面積>
特定事業用適用面積+特定居住用適用面積×5/3+その他適用面積×2≦400u
※その他:特定事業用・居住用に該当しない小規模宅地(貸付事業用等)
小規模宅地の特例は、基本的に相続税の申告期限まで居住用宅地は居住・所有継続し、事業用・貸付用宅地は事業や貸付を継続することが必要となる。
本問の場合、自宅の評価額が高額なため、自宅に特例適用することが望ましいと思われるが、特定居住用宅地は、配偶者以外が取得する場合には、取得する別居親族は、相続開始前3年以内に自宅を所有していないことが必要なため、相続させる予定の孫E(養子E)が要件を満たすように留意しておく必要がある。
4. 遺産分割対策としての遺言
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付および氏名を自書して印を押すことが必要なため、Aさんが現在保管中の自筆の遺言が、要件を満たしているかどうか、事前に確認しておくことが必要。また、自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所による検認が必要。
遺言に関するトラブルを避けるためには、公証人役場で証人2名以上の立会いのもと、公正証書で遺言を作成する公正証書遺言(検認不要)
とすることを提案する。
5. 円満な財産分割のアドバイス
Aさんの家督を継ぐとはいえ、相続財産の大半を長女Bの家族が相続すると、遺言を作成したとしても、二女Cや三女Dの遺留分を侵害してしまい、将来の紛争のもととなる可能性がある(相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合には、侵害された遺留分については無効となる)。
自宅や賃貸不動産は長女Bの家族に相続させるとしても、金融資産については、遺留分相当額を二女Cや三女Dに相続させることにより、相続発生後の遺留分減殺請求権の行使を抑制
することが可能。
6. 上場株式の売却時の税務
上場株式の譲渡損失は、同一年の株式の譲渡所得や申告分離課税を選択した配当所得と損益通算できる。また、損益通算しても損失が上回る場合は、確定申告することで翌年以降3年間その損失額を繰り越し可能。
よって本問の場合、保有株式を全て譲渡した場合、W株に譲渡所得が発生し、W・X・Y株それぞれから配当所得があるものの、X株とY株で多額の譲渡損失があることから、税負担は発生せず、通算しきれない損失は翌年以降3年間繰り越すこととなる。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
ただし、税負担について多くの論点があることから、具体的な税金の質問等に関しては税理士の協力を仰ぐ
ことが必要と思われます。
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