2013年6月9日実技part1
2013年6月9日実技part1
part1 問題文
●設
例●
Aさん(84歳)は、建設資材の卸売業を営むX社の社長を7年前に長男Bに継承した後、現在は同社の代表取締役会長となっている。X社は、Aさんが地方でも有力な企業へと育て上げた会社で、長男Bが社長になった後も着実に業績を伸ばしてきており、財務面も良好で余剰資金も5億円程度ある。
Aさんの親族関係図等は以下のとおりである。Aさんの二男はX社に入社後、長男BとともにX社の業績向上に多大な貢献をし、長男Bが社長を継承した後は専務取締役として長男Bを補佐していたが、2年前に病気で亡くなっている。孫Eは将来の後継者としてX社に5年前に入社しており、現在は営業を担当している。
Aさんはこれまで会社の業績を向上させることを第一に考え、自分自身の相続についてはあまり関心がなかったが、二男を先に亡くしたこともあり、最近は財産をどのように相続させたらよいか悩んでいる。X社株式については孫EがX社に入社したこともあり、長男Bへ相続させ、二男の残された家族へは金融資産を中心に相続させたいと考えてはいるが、相続税の支払いのことを考えると現状の金融資産で足りるのかどうかが心配である。
また、知人からは、相続対策として孫を養子にすれば税金が安くなるとの助言を得ているが、どれほどの効果があるか疑問に思っている。さらに、相続税の支払いのため現在の金融資産を少しでも増やしたいと思っており、金利が高いといわれている外貨建金融商品に興味をもっているが、投資すべきか迷っている。
なお、現時点での相続税の見積額は小規模宅地等の評価減適用前で約3.7億円である。
〈Aさんの財産〉 〈X社株主構成〉
X社株式 :6億円 Aさん :60%
居宅 :2億円 長男B :20%
会社資材置き場:1億円 二男の妻D :10%
金融資産 :2億円 孫G :5%
合計 11億円 孫H :5%
part1 ポイント解説
● 顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金の支給
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用
(5) 小規模宅地の特例
2. 遺産分割対策
(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度による生前贈与の活用
(4) 孫への住宅資金・教育資金贈与の非課税措置の検討
3. 納税資金・相続税の軽減対策の詳細
非上場株式の贈与税の納税猶予制度を活用することで、後継者である長男が先代経営者であるAさんから株式を生前贈与された場合、課税価格の100%に対応する贈与税について、Aさんが死亡するまで納税の猶予を受けることが出来る。
また、X社の業績が好調で余剰資金もあることから、長男BがAさんから相続した自社株式をX社が買い取り、対価を納税資金とすることも有効と考えられる(金庫株)。
なお、孫を養子にすると、法定相続人が増えるため、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を増やし、相続税負担の軽減につながる。
※相続税の基礎控除は現在は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数だが、平成27年1月1日以降の相続・遺贈より上記金額に縮小される。
4. 円満な財産分割のアドバイス
長男Bが社長となり、将来の後継者として孫Eが入社しているとはいえ、相続財産の大半を長男Bが相続すると、遺言を作成したとしても、孫Gや孫Hの遺留分を侵害してしまい、将来の紛争のもととなる可能性がある(相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合には、侵害された遺留分については無効となる)。
特に、二男がすでに死亡していることから孫G・Hが代襲相続人となるため、法定相続分は孫G・Hを合わせて全体の2分の1と、非常に大きな割合となる(孫E・Fを普通養子とすれば、孫G・Hの法定相続分は4分の1にまで下げることが可能)。
また、二男の家族(妻D・孫G・H)の持ち株比率は合計で20%と、それなりの割合を占めており、将来的には長男Bおよび孫Eに集中させていくことが望ましい。
X社の業績が好調で余剰資金もあることから、余剰資金を自社株購入資金とし、二男家族からの株式買い取りと、長男Bの代償分割の原資とする(長男Bが相続したAさんの株式をX社が買い取り、対価を孫G・Hに交付)ことも提案できる。
5. 外貨建金融商品への投資判断
外貨建金融商品は、その通貨の発行国の金利に基づいて金利や配当が支払われるため、一般に円建金融商品よりも高金利であることが多い。ただし、為替ヘッジのない外貨建金融商品の場合、金利よりも為替変動による損益が最終的な投資損益に影響を与えることが多いため、投資判断の際は為替ヘッジの有無や今後の為替変動の見通しを確認することが必要となる。
基本的に元本保証の商品ではなく、将来の相続税負担に向けた資金運用先としてはややリスクのある投資となるため、まずは事業・資産承継税制の活用を検討した上で、投資判断することを提案する。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
FP対策講座
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