2014年2月8日実技part1
2014年2月8日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(75歳)は中小企業X社の二代目社長である。X社は毎期5億円程度の利益を計上する自他ともに認める優良中小企業である。長男が後継者で専務として活躍している。
X社株式は、Aさんが100%保有している。顧問税理士からは、「X社株式の評価が高く、Aさんに相続が発生したら納税や遺産分割などで大変なことになる」と指摘されている。
X社は2年前に『経営承継円滑化法』に基づく経済産業大臣の確認を受けている。なお、Aさんは、自分の代では株式公開をまったく考えていない。
Aさんは来年長男に代表権を譲ろうと考えているが、退職金を来年とるか、死亡退職金で遺族に支給するか迷っている。
Aさんは妻に先立たれた後も会社名義の本社ビル(土地400u:時価は帳簿価額を2億円下回っている)の最上階に一人で住んでいる。ちょうど本社からAさん宅を事務所として使いたいと打診があり、長女からも「330uの土地を購入して一緒に住まないか」と持ちかけられているのでそれに応じるつもりであるが、自分で買うべきか長女に買わせるべきか迷っている。
Aさんにかけられている生命保険は、個人契約の終身保険(死亡保険金額2,000万円)と法人契約の終身保険(死亡保険金2億円)のみである。Aさんは個人契約の生命保険をもっと増やしたいと思っている。
最近は教育資金贈与に興味があるが、よく理解できていない。
Aさんの財産の概要等は、以下のとおりである。
〈Aさんの財産の概要〉※Aさんの相続税の総額は、7億円超と見積もられている。
X社株式 :10億円(相続税評価:大会社・類似業種比準価額)
金融資産 :3億円
退職金受取予定額:3億円
賃貸不動産 :2億円(年間家賃収入3,000万円)
生命保険 :2,000万円
合計 :18億2,000万円
part1 ポイント解説
顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1)生命保険・金庫株の活用
(2)役員退職金の支給
(3)自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4)非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用
(5)小規模宅地の特例
2.遺産分割対策・事業承継対策
(1)遺言の作成
(2)遺留分に関する民法の特例の活用
(3)相続時精算課税制度による生前贈与の活用
(4)子への住宅資金贈与・孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
3.役員退職金の支給時期
◆生前退職金として自身が受け取る場合
退職金支給により自社株評価額が下がるため、自社株の生前贈与等も検討可能。
ただし、退職金受取時には退職所得として所得税、さらに、相続発生時にも現預金として相続税の対象となる。
◆死亡退職金として遺族が受け取る場合
所得税の課税はなく、相続税の対象となるが、「500万円×法定相続人の数」まで非課税となる。ただし、自身の老後資金としては活用できない。
本問の場合、Aさんには十分な家賃収入があり、また自社株についても、『経営承継円滑化法』に基づく非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度を利用すると思われるため、死亡退職金として遺族が受け取った方が有利と考えられる。
4. 小規模宅地の特例の活用方法
平成25年度税制改正により、小規模宅地の特例は、特定居住用宅地の適用面積が240uから330uに拡大され、居住用宅地と事業用宅地の併用も可能となり、最大730uまで80%減額が可能となった(平成27年1月1日以降の相続・遺贈より)。
本問の場合、自宅としている本社ビルは会社名義のため、このままでは小規模宅地の特例が適用できないが、例えば役員退職金としてAさんに現物支給すること、または融資を得て本社ビルを買い取ること等で、特例適用を狙うことが可能(本社ビルをAさん名義とし、X社に貸し付ける「特定同族会社事業用宅地等」とする)。
なお、本社ビルの時価は帳簿価額を2億円下回っていることから、現在のX社株式評価額は割高評価といえる(類似業種比準方式では資産は帳簿価額で評価する)ため、Aさんに時価で譲渡することで、自社株式の評価減にもつながる。
長女との同居用自宅としての330uの土地については、直系尊属からの住宅資金贈与の非課税措置よりも、小規模宅地の特例による減額幅の方が大きいと思われるため、Aさんが購入することを提案する(長女はAさんと同居のため、長女が相続する場合には、特定居住用宅地として適用可能)。
5. 生命保険の活用方法
生命保険の契約者と被保険者が同じで、保険金受取人が異なり、受取人が相続人となる場合、支払われる死亡保険金は、みなし相続財産として、相続税の課税対象となるが、「500万円×法定相続人の数」までは非課税。
本問の場合、既に2,000万円の個人契約の生命保険に加入済みのため、新たに加入しても税制上のメリットはない。ただし、死亡保険金は相続財産ではなく、保険金受取人の固有の財産とされるため、相続を放棄しても受け取り可能な点や、民法上の相続財産に含まれず、遺産分割協議の対象とならないというメリットもあるため、まずはAさんが保険を増やしたいと考える理由を把握することが必要。
6. 教育資金贈与の非課税措置の説明
教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となる(学校等に直接支払われる入学金や授業料等ついては1,500万円まで、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)。
教育資金として、信託銀行等の取扱い金融機関に預け入れ、教育資金管理契約を締結することが必要なほか、受贈者が30歳になると教育資金管理契約が終了し、終了時に非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額がある場合(非課税口座にお金が残っている場合)には、その残額はその年の贈与税の課税価格に算入(贈与税が課税)される。
資金の使用使途が限定されており、自由度は低くなるが、本問の場合Aさんには8人の孫がいるため、最大で1億2,000万円を無税で贈与可能であることから、他の相続税対策も踏まえつつ、検討に値すると思われる。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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