2014年6月15日実技part1
2014年6月15日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさんは(75歳)は、大都市近郊で先代から鋳物工場(X社。株式はAさんが100%所有)を経営している。無借金だが、近年は売上も先細りとなり赤字と黒字を交互に出す年が続いており、後継者もいないことから事業をやめることを決めている。ただ、取引先や古参の従業員もいることから、X社をスムーズに清算する場合に取引先や従業員に対してどのような点を考慮しなければならないかということや、その他注意すべき点についてアドバイスを受けたいと思っている。
また、開業医をしている長男から、将来のクリニックの用地として、Aさん所有の乙土地を使わせてもらえないかとの相談があった。Aさんとしては、先祖から相続した土地であり、他人の手に渡るならばできれば長男に譲りたいと思っているが、二男や長女とのバランスから問題が生じないか心配している。Aさんは、6人の孫の将来を心配しており、最近、教育資金の贈与に関する制度ができたと聞いて、ぜひ利用したいと思っている。
Aさんは、土地以外にも多額の資産を有しており、将来の相続税を払えるかどうかも心配している。現時点での相続税は1億9,600万円(小規模宅地等の評価減の特例を使わず、法定相続分どおりに相続した場合で、一次相続、二次相続合計)と見積もられている。
長男は評判の良い個人開業医だが、多額の税負担で悩んでいる。
二男は現在勤務医だが、いずれは開業したいと考えている。Aさんは、長男と二男が助け合いながら仲良く一緒にクリニックをやっていってもらいたいと考えており、その方法として、知人から医療法人を共同で設立するという方法があると聞いたが、医療法人のメリット・デメリットについて知りたいと思っている。
長女は専業主婦で賃貸アパートに暮らしているが、子どもが私立の小学校に通っているため、将来の生活や教育資金について不安を感じている。
また、最近友人から外貨建てのREITで資産運用をしているという話を聞いたが、まったく知識がないため具体的に情報を得たいと思っている。
〈Aさんの資産(相続税評価額)〉
銀行預金 5,000万円
上場株式 3,500万円
甲土地 2億円(X社の工場用地)
乙土地 2億円(駐車場として賃貸中)
X社株式 1億円(中会社−純資産価額で評価)
自宅土地・建物 2億2,500万円(小規模宅地等の評価減適用前)
賃貸マンション 3億円
合計 11億1,000万円
〈X社の概要〉 X社の従業員数は15名で、取引先は数社である。
現金預金 8,000万円 買掛金 2,000万円
売掛金 2,000万円 資本金 300万円
固定資産 2,000万円 利益剰余金 9,700万円
計 1億2,000万円 計 1億2,000万円
上記のほか、従業員に対する退職金が3,000万円見込まれている。
〈Aさんの家族構成〉
妻 (70歳) :X社専務 長男(44歳):個人開業医(妻と子2人)
二男(42歳) :勤務医(妻と子2人) 長女(37歳):専業主婦(夫と子2人)
part1 ポイント解説
顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1)生命保険の活用
(2)X社の清算による残余財産の取得
(3)医療法人の設立(法人税の比例税率と所得分散による所得税・相続税低減効果有り)
(5)医療法人の設立後の役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(6)医療法人の設立後の前向きな設備投資(クリニック新設等による法人税の低減効果)
2.遺産分割対策・事業承継対策
(1)遺言の作成
(2)遺留分に関する民法の特例の活用
(3)相続時精算課税制度による生前贈与の活用
(4)子への住宅資金贈与・孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
3.X社の清算における注意点
取引先に対しては、未回収の債権の回収と、債務の弁済が必要となるが、法律に則った公平な弁済手続を進めるためにも、専門の弁護士等に清算業務を依頼することが望ましい。
また、従業員に対しては、清算による解雇となるため、正当性のある解雇となるものの、労働トラブルとなる可能性もある。従って、十分な協議・説明義務を果たすことが重要となるため、前述の清算業務を専門とする弁護士等の協力も交えながら実施することが望ましい。
4.医療法人設立のメリット・デメリット
医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要であるほか、通常の株式会社と異なり、剰余金の配当禁止や都道府県知事への決算等の届出義務があることに注意が必要。
ただし、平成19年4月1日以降に設立許可が下りる医療法人は、全て持分の定めのない(=出資比率による責任・分配の規定がない)医療法人である、基金拠出型医療法となる。
出資するオーナーは、個人資産を基金として医療法人に対する債権(利息なしの貸付金)で保有するため、医療法人の資産が利益の蓄積により増加したとしても、基金の価値は増加せず、相続時は基金のみが相続税の課税対象となる(利益の蓄積(利益剰余金)は相続税の課税対象外)。
○メリット
・医療法人の内部留保が相続税課税の対象外
○デメリット
・都道府県に対する手続きが必要
・解散時の残余財産が国庫等に帰属 等
ただし、医療法人の理事長は原則として医師又は歯科医師である必要があるため、本問では長男か二男が適当と思われる。
5.長女への資金援助方法
(1)将来の生活への不安軽減
直系尊属からの住宅取得資金の贈与の非課税特例や、相続時精算課税による、非課税での生前贈与が提案可能。
また、賃貸マンションを相続させることで将来の生活不安を軽減し、遺産分割トラブルもある程度抑制できる。
(2)教育費負担の軽減
教育資金の非課税特例により、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となる(学校等に直接支払われる入学金や授業料等ついては1,500万円まで、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)。
資金の使用使途が限定されており、自由度は低くなるが、本問の場合Aさんには6人の孫がいるため、最大で9,000万円を無税で贈与可能であることから、他の相続税対策も踏まえつつ、検討に値すると思われる。
6.外貨建てREITの説明
実物不動産とは異なり、少額から購入することもできるが、株式市場に上場されているため、投資法人の投資先の状況とは別に、株式市場の騰落状況の影響を受けるリスクがある。
外貨建てREITの場合、海外の不動産に間接的に投資することになるが、外貨建て金融商品には、為替変動リスクがあるため、基本的に円高外貨安になると、円ベースで評価損が膨らむことになる。急激な円高が進んだ場合には、高利回りをうたっている金融商品であっても、為替変動による損益が最終的な運用実績を左右しやすい。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客への金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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