2015年2月8日実技part1
2015年2月8日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(68歳)は、ゴルフ用品専門販売店を営むX社の創業社長である。X社は、従業員35名、年商18億円、利益は毎期連続して5,000万円程度計上している。X社には、会社設立当初よりAさんと一緒に事業を営んできた番頭格である営業部長のEさん(60歳)がおり、Aさんは全幅の信頼を寄せている。
Aさんの家族構成は、妻Bさん(67歳)、長男Cさん(42歳)、長女Dさん(38歳)である。
妻Bさんは、X社の専務として経理を統括している。長男Cさんは、大学卒業後、証券会社に勤務していたが、Aさんのたっての願いにより4年前にX社に転職し、現在常務を務めている。長女Dさんは、商社勤務の夫に嫁ぎ、13歳と10歳の子がいる。長女Dさんは、子の教育費の負担が重いと話している。
X社は、Aさん所有の7階建ての建物のうち、1階から6階までを近隣相場の月額150万円でAさんから賃借し、店舗および倉庫として使用している。7階は長男Cさん家族が自宅として使用しているが、賃料は取っていない。
X社の株主構成は、Aさんが70%、妻Bさん、長男Cさん、長女Dさんがそれぞれ10%ずつである。Aさんは、X社の将来を長男Cさんに任せたいと思ているが、専門的なゴルフ経験のない長男CさんがX社の従業員になじめていないのが頭痛の種となっている。最近、商店会の会合で、古くからの友人に「番頭格のEさんに任せてもよいのでは」と言われ、迷っている。また、長女Dさん夫婦へ相当の援助をしたいとも考えている。
Aさんは、顧問税理士にAさんの予想相続税額を試算してもらったところ、およそ2億5,000万円(小規模宅地等の評価減適用前・配偶者の税額軽減適用前)であることがわかった。また、最近、銀行等から個人向け国債の購入を勧められているが、その概要等について理解を深めたいと思っている。
Aさんの所有財産の概要は、以下のとおりである。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
X社株式(700株) 1億4,000万円(会社規模は中会社の大)
自宅 敷地(330u) 1億9,800万円
建物(RC造2階建) 1,500万円
X社賃貸ビル 敷地(280u)2億8,000万円
建物(SRC造7階建) 7,000万円
現預金 4,200万円
(合計 7億4,500万円)
終身保険 5,000万円(死亡保険金受取人は妻Bさん)
part1 ポイント解説
顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 相続税の軽減対策
(1)生命保険の活用
(2)役員退職金の支給
(3)自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4)非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用
(5)小規模宅地の特例
2.遺産分割対策・事業承継対策
(1)遺言の作成
(2)遺留分に関する民法の特例の活用
(3)相続時精算課税制度による生前贈与の活用
(4)孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
3.小規模宅地の特例の活用方法
平成25年度税制改正により、小規模宅地の特例は、特定居住用宅地の適用面積が240uから330uに拡大され、居住用宅地と事業用宅地の併用も可能となり、最大730uまで80%減額が可能となった(平成27年1月1日以降の相続・遺贈より)。
本問の場合、自宅330uに特定居住用宅地を適用し、X社賃貸ビルは特定同族会社事業用宅地等として、400uまで小規模宅地の特例の併用が可能。ただし、7階部分については長男Cさん家族が自宅として使用しているため、適用外となる(使用貸借のため自用地評価)。
4.親族外への事業承継の検討
平成25年税制改正により、平成27年1月1日より親族外承継も非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の対象となったため、番頭格Eさんを後継者とする場合でも、要件を満たせば税負担を抑えながら事業承継が可能。
また、後継者に株式を集中させるため、金融機関からの融資によるMBO、親族への議決権のない株式の割り当て、経常利益が順調なX社による金庫株としての買い取り等が考えられる。
長男Cさんの意向も十分に確認する必要があるが、そのまま会社に残らない場合も考えれば、X社賃貸ビルを相続させることで安定的な生活資金を確保し、事業承継に関する争いを回避することも検討に値する。
5.教育資金贈与の非課税措置の説明
教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となる(学校等に直接支払われる入学金や授業料等ついては1,500万円まで、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)。
教育資金として、信託銀行等の取扱い金融機関に預け入れ、教育資金管理契約を締結することが必要なほか、受贈者が30歳になると教育資金管理契約が終了し、終了時に非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額がある場合(非課税口座にお金が残っている場合)には、その残額はその年の贈与税の課税価格に算入(贈与税が課税)される。
資金の使用使途が限定されており、自由度は低くなるが、贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合でも、相続税の課税財産に加算されないため、確実に教育資金として贈与することが可能。
6.個人向け国債の説明
社債や株式同様、国債も金融市場における売買の対象であり、債券の価格は、市場金利が上昇すると下落し、市場金利が低下すると上昇する。ただし、これは銀行等の金融機関が売買する通常の国債に関してであり、個人向け国債は発行から1年経過後には中途換金可能(国が額面金額での買い取りを保証している)であるため、金利が上昇しても、元本割れしない。
個人向け国債は、固定金利の3年物・5年物と、変動金利の10年物があり、金利の見通しや自身の資金需要に応じて検討することを提案する。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、個人向け国債に関しても金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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