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2017年6月11日実技part1

2017年6月11日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(72歳)は、電気機械器具製造業を営む非上場会社X社の代表取締役社長(創業者)である。設立から40年近くが経過するX社は取引先から高い技術評価を受けており、安定した収益を確保してきた。業績は順調であり、余剰資金は5億円程度ある。Aさんは、5年前に妻を亡くし、昨年には自身が体調を崩し、入退院を繰り返したこともあり、専務取締役の長男Bさん(45歳)に事業を承継する予定である(退職金予定額1億円)。Aさんは、事業承継にあたり、X社株式について、どのように移転するのがよいのか悩んでいる。
Aさんには、長男Bさん以外に2人の子がいる。長女Cさん(40歳)は、会社員の夫と結婚後、長男(10歳)を授かったが、1年前に離婚した。現在は長男とともにAさんと同居し、Aさんの身の回りの世話をしている。Aさんは、長女Cさんと孫の今後の生活を心配しており、将来的には相応の金融資産、自宅の土地・建物および賃貸アパートを長女Cさんに譲りたいと思っている。勤務医である二男Dさん(37歳)は、妻との2人家族で、賃貸マンションに暮らしている。Aさんは、子3人の仲は悪くないと感じているものの、いざ相続が起こった際に遺産分割で子ども達がもめることのないようにしたいと思っている。
また、Aさんは、教育資金贈与制度やジュニアNISAを活用し、孫に生前贈与を行うことを検討しているが、各制度の内容等がよくわからない。
なお、Aさんの相続に係る相続税額は、約4億500万円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【Aさんの家族構成】
長男Bさん(45歳):X社専務取締役。妻と子2人で戸建て住宅(持家)に住んでいる。現預金を4,000万円程度保有している。
長女Cさん(40歳):無職。離婚後、長男(10歳)とともに、Aさんと同居している。
二男Dさん(37歳):勤務医。妻と賃貸マンションに住んでいる。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金:2億円(退職金予定額1億円を含む)
自宅 :1億円(土地(300u)8,000万円、建物2,000万円)
X社株式:5億円(※)
X社土地:1億4,000万円(400u)
X社建物:9,000万円(年間家賃840万円)
賃貸アパート:8,000万円(土地(250u)5,000万円、建物3,000万円)
合計:11億1,000万円

※X社株式の評価額は、平成29年度税制改正の内容を反映した金額である。

【X社の概要】
資本金 :2,000万円
株主構成:Aさん100%
従業員数:110人
株式評価上の会社規模:大会社
年商  :30億円
経常利益:2億5,000万円

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用(X社の余剰金は5億円程度)
(2) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(3) 小規模宅地の特例の活用
(4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用

2. 遺産分割対策・事業承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 金庫株を用いた長男Bから長女C・二男Dへの代償分割

3. 納税資金を考慮した相続税対策

Aさん所有の株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用により、税負担を抑えながら移転することが可能。
ただし、適用対象は発行済議決権株式の3分の2までのため、Aさん所有分のうち、適用外の株式は、業績が順調なX社が金庫株として数年間にわたって買い取ることが望ましい(相続開始から3年以内にX社に譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されず、譲渡価額と取得価額の差額が譲渡所得(所得税15%・住民税5%)となり、相続税の取得費加算も適用できるため、X社が相続開始までに取得資金を準備し、相続発生後に金庫株として買い取ることも提案可能)。

なお、平成29年度税制改正では、非上場株式の相続税評価額を算定する際、類似業種の上場会社の株価に、相続開始前前2年間の平均額が追加され、比準要素である配当・利益・簿価純資産の比重が1:3:1から1:1:1になるなど、業績好調な会社には有利な反面、内部留保の多い会社にとっては不利な評価額となっている。

4. 相続人間の平等な相続方法

(1) Bさんの相続分(X社株式と本社土地・建物の相続)
X社株式を後継者であるBさんに集中させるだけでなく、X社本社土地・建物についてもBさんに相続させることが、円滑な事業承継上重要である。
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。
本問の場合、自宅のうち300uまで特定居住用宅地を適用し、X社本社土地は特定同族会社事業用宅地等として、400uまで小規模宅地の特例の併用が可能。

(2) Cさんの相続分(自宅土地・建物、賃貸アパート、教育資金の生前贈与)
今後の生活に不安を感じているため、自宅土地・建物を小規模宅地の特例を適用しながら相続させ、賃貸アパートも相続させることで、相続税負担と今後の生活不安を軽減する。
また、教育資金の生前贈与により、贈与税負担を軽減しながら生前贈与を行う。

(3) Dさんの相続分(金融資産と住宅の生前贈与)
相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度を活用し、贈与税負担を軽減しながら生前贈与を行い、相続時は金融資産を相続させる。

以上の分割では、Bさんの相続分が多くなる可能性が高いため、Bさんを受取人とした生命保険や、X社本社建物の賃料を原資とした代償分割(相続後に分割払い)により、ある程度均等な相続が可能と思われる。

5. 教育資金贈与の非課税措置の説明

教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となる(学校等に直接支払われる入学金や授業料等ついては1,500万円まで、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)。
教育資金として、信託銀行等の取扱い金融機関に預け入れ、教育資金管理契約を締結することが必要なほか、受贈者が30歳になると教育資金管理契約が終了し、終了時に非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額がある場合(非課税口座にお金が残っている場合)には、その残額はその年の贈与税の課税価格に算入(贈与税が課税)される。
資金の使用使途が限定されており、自由度は低くなるが、孫に対して確実に教育資金を無税で贈与可能であることから、他の相続税対策も踏まえつつ、検討に値すると思われる。

6. ジュニアNISAの説明

ジュニアNISAは、未成年者が口座開設者となり、原則として、その親権者等が未成年者を代理して運用管理を行うことで、ジュニアNISA口座内の上場株式や投信等の配当金や譲渡益が非課税になる制度。
ジュニアNISA口座の利用限度額(非課税枠)は、一人年間80万円までで、口座開設者が3月31日時点で18歳となる年の前年の12月31日までは、口座外に払い出すことはできない
なお、親権者の同意のもと親権者代理人に選定されている場合には、祖父母が代理して運用することも可能。
通常のNISA同様、ジュニアNISAの非課税期間は5年間であるため、80万円×5年=400万円が非課税対象となり、教育資金の非課税特例と併せることで、孫が大学進学する頃に多くの財産を遺すことが可能となる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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