2017年6月17日実技part1
2017年6月17日実技part1
part1 問題文
●設 例●
【Aさん(74歳)】
Aさんは、大都市圏にあるH市で電子部品製造業を営む非上場会社X社の代表取締役社長である。X社は、Aさんが35年前に設立して以来、複数の大手企業との取引を拡大させ、安定した業績を残してきた。Aさんの後継者である専務取締役の長男Cさん(42歳)は、自社製品の他業種・他製品への展開を図り、新規取引先の開拓に成功し、平成29年3月期の経常利益は増加した。Aさんは、来期末を目途に社長職を辞し、長男Cさんに事業を承継し、長男Cさんを含む若手社員にX社を託すつもりである。
今後の事業承継や遺産分割については、長男Cさんと相談して実行する予定であるが、所有財産に占めるX社株式の割合が大きいため、その移転について心配している。Aさんの所有財産の概要(相続税評価額、小規模宅地等の評価減適用前)は、以下のとおりであり、Aさんの相続に係る相続税額は、約2億5,000万円(配偶者の税額軽減および小規模宅地等の評価減の適用前)と見積もられている。なお、X社株式の相続税評価額は、平成28年6月に算出したものである。
現預金 :1億円
X社株式:3億5,000万円(平成28年6月時点)
自宅土地(330u):1億円
自宅建物:3,000万円
X社本社土地(400u):1億円
X社本社建物:9,000万円(年間家賃1,000万円)
合計 7億7,000万円
【妻Bさん(67歳)】
専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
【長男Cさん(42歳)】
X社の専務取締役。大手電機メーカー勤務を経て、29歳のときにX社に入社。妻と子2人(13歳・10歳)の4人で戸建て住宅(持家)に住んでいる。
【二男Dさん(36歳)】
上場企業の会社員。妻と子1人(4歳)の3人家族であり、賃貸マンションに住んでいるが、両親との同居を考えている。長男Cさんとの関係は悪くないが、最近、Aさんの相続が発生したら、相当額の財産を取得しないと納得できないと発言しているようである。
【X社の概要】
資本金等の額:5,000万円
株主構成 :Aさん100%
会社規模 :大会社
年商 :30億円
従業員数 :120名
発行済株式総数:10万株
(X社の比準要素の状況は、以下のとおりとする)
※平成28年6月、平成29年6月ともに、類似業種の株価は200円、類似業種の比準要素は、それぞれ配当3.0円/利益10円/純資産200円とする。
part1 ポイント解説
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1) 生命保険の活用
(2) 金庫株の活用
(3) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用
2. 遺産分割対策・事業承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 金庫株を用いた長男Cから二男Dへの代償分割
(4) 二男Dへの相続時精算課税制度による生前贈与・住宅資金贈与、孫への教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与の非課税措置の検討
3. 納税資金を考慮した相続税対策
Aさん所有の株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用により、税負担を抑えながら移転することが可能。
ただし、適用対象は発行済議決権株式の3分の2までのため、Aさん所有分のうち、適用外の株式は、業績が順調なX社が金庫株として数年間にわたって買い取ることが望ましい(相続開始から3年以内にX社に譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されず、譲渡価額と取得価額の差額が譲渡所得(所得税15%・住民税5%)となり、相続税の取得費加算も適用できるため、X社が相続開始までに取得資金を準備し、相続発生後に金庫株として買い取ることも提案可能)。
なお、平成29年度税制改正では、非上場株式の相続税評価額を算定する際、類似業種の上場会社の株価に、相続開始前前2年間の平均額が追加され、比準要素である配当・利益・簿価純資産の比重が1:3:1から1:1:1になるなど、業績好調な会社には有利な反面、内部留保の多い会社にとっては不利な評価額となっている。
本問の場合、1株当たりの利益が30円から40円に増えているものの、利益の比重は3倍から1倍に減少しているため、相続税評価額は大幅に減っているものと推定される。
29年6月時の株価=200円×{(6.0/3.0+40/10+300/200)/3}×0.7×{(5,000万円÷10万株)/50円}
=200円×2.5×0.7×10
=3,500円
よって、Aさん所有のX社株式の評価額は、
3,500円×10万株=3億5,000万円(平成29年6月時点)
4. 二男Dが納得する遺産分割対策
(1) 妻Bさんの相続分(自宅土地・建物、預貯金の一部)
自宅土地・建物を小規模宅地の特例を適用しながら相続させ、預貯金の一部を相続させることで、相続税負担と今後の生活不安を軽減する。
(1) 長男Cの相続分(X社株式と本社土地・建物の相続)
X社株式を後継者であるCさんに集中させるだけでなく、X社本社土地・建物についてもCさんに相続させることが、円滑な事業承継上重要である。
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。
本問の場合、自宅のうち300uまで特定居住用宅地を適用し、X社本社土地は特定同族会社事業用宅地等として、400uまで小規模宅地の特例の併用が可能。
(3) 二男Dさんの相続分(金融資産と住宅取得資金や孫の教育・結婚・子育て資金の生前贈与)
相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度を活用し、贈与税負担を軽減しながら生前贈与を行い、相続時は金融資産を相続させる。
以上の分割では、長男Cさんの相続分が多くなる可能性が高いため、二男Dさんを受取人とした生命保険や、X社本社建物の賃料を原資とした代償分割(相続後に分割払い)により、ある程度均等な相続が可能と思われる。
また、妻Bの相続発生時(二次相続時)に、二男Dにより多くの遺産を相続させることも検討可能(遺産分割協議の中でこれらを記した公正証書遺言や贈与契約書の内容を検討することが望ましい)。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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