2017年6月18日実技part1
2017年6月18日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(73歳)は、個人で賃貸マンションを保有している。毎年の不動産所得の金額は、1,000万円前後で推移しており、年金収入と合わせて生活は安定している。
Aさんは、現在、二世帯住宅の1階に妻Bさん(68歳)と暮らしており、2階には長男Cさん(43歳)家族が住んでいる。長女Dさん(39歳)は会社員の夫、子2人とともに借上げ社宅で暮らしており、そろそろ住宅を購入したいと思っているが、住宅ローンの返済に加え、今後の教育費等の負担を考え、購入をためらっている。長男Cさんと長女Dさんは、日頃から折り合いが悪く、Aさんの悩みの種である。Aさんは、自身の相続が発生した際に遺産分割で家族が争うことがないようにしたいと思っている。
先日、所有財産の概要(後掲のX社株式を除く)から相続税の見込額について税理士に試算してもらったところ、一次・二次ともに法定相続分どおりに相続した場合の相続税の総額は、一次相続では約1億2,700万円(配偶者の税額軽減適用前)、二次相続では約4,700万円であるとのことであった(一次・二次ともに小規模宅地等の評価減適用前の税額であり、妻Bさんに固有の財産はないものとする)。
また、Aさんは過去に付き合いで出資した未上場の株式譲渡制限会社であるX社の株式を所有しており、毎年30万円程度の配当を受け取っている。X社株式を子ども達に相続させる考えはなく、先日、X社の社長(Aさんの知人)に買取りを打診したところ、買取金額として2,000万円を提示された。
【Aさんの家族構成】
妻Bさん(68歳) :専業主婦。Aさんと二世帯住宅の1階で同居している。
長男Cさん(43歳):地方公務員。妻、子2人と二世帯住宅の2階で暮らしている。
長女Dさん(39歳):会社員。夫、子2人と借上げ社宅で暮らしている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 7,000万円
2.上場株式:1億2,000万円
3.賃貸マンション
(1)土地(400u):1億1,000万円
(2)建物:7,000万円
4.自宅(二世帯住宅)
(1)土地(330u):8,000万円
(2)建物:4,000万円
合計 :4億9,000万円
※上記所有財産のほかに、未上場会社のX社株式を所有している。X社はAさんの知人(X社の社長、X社株式の過半を保有している)が経営しており、X社株式は発行済株式総数10万株で、Aさんは6,000株所有している。上記のとおり、買取金額として2,000万円を提示されている。
part1 ポイント解説
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 小規模宅地の特例の活用
2. 遺産分割対策・事業承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
3. 納税資金を考慮した相続税対策
企業が自社株式を相続人から買い取ることにより、相続人はその買い取り額を相続税の納税資金とすることが出来る。ただし、特定の者から買い受ける場合には株主総会の特別決議が必要であり、取得額は分配可能額の範囲内という制限がある。
譲渡価額と資本金等の額の差額についてはみなし配当所得として総合課税で最高43.6%の税負担、資本金等の額と取得価額の差額については譲渡所得として申告分離課税で所得税15%・住民税5%となる。ただし、相続開始から3年以内にX社に譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されず、譲渡価額と取得価額の差額が譲渡所得(所得税15%・住民税5%)となり、相続税の取得費加算も適用できる。
X社の同意が得られれば、相続発生後にX社に譲渡する方が税負担を軽減できると思われる。
4. 相続人間の平等な相続方法
まず、相続税の軽減対策として、自宅土地・建物については、小規模宅地の特例を受けるため、妻に相続させる(賃貸マンションよりも、特例による減額効果が高い)。
また、相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)により、配偶者は1億6千万円または法定相続分までは相続税が非課税となるため、妻に対して法定相続分(2分の1)まで相続させることで、一次相続時の税負担を大幅に減額させることができる。従って、妻には自宅に加えて賃貸マンションも相続させることで、ほぼ全体の半分を相続し、さらにはAさん死亡後も安定した不動産収入を得ることができる(不動産管理については管理会社に委託することも可能)。
X社株式については、Aさん存命中にX社に譲渡した場合、みなし配当として総合課税の対象となり累進税率が適用されるが、相続発生後であれば、譲渡所得として一律20%の分離課税となり、相続税の取得費加算も可能となるため、手取資金の増加が期待できる。従って、X社の経営状態も確認した上で、相続発生時の譲渡も検討に値する。
以上により、一次相続時の納税資金は、上場株式とX社株式の譲渡資金、もしくは生命保険の活用で対応可能と思われる(長男Cと長女Dには預貯金と上場株式を相続させる)。
また、二次相続発生時は自宅は長男Cに、賃貸マンションは長女Dに相続させ、その他の金融資産の分割で平等な相続を目指すことを提案する。
なお、長女Dは住宅取得や教育資金について不安を感じているため、相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度を活用し、贈与税負担を軽減しながら生前贈与を行うことで、早い段階で家族間の相続に関する意識と事実を共有し、相続トラブルを未然に防止する。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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