2018年6月10日実技part2
2018年6月10日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(70歳)は、6年前、夫の相続時に自宅の土地および建物を遠方に暮らす長男Bさん(47歳)とともに、2分の1の共有持分割合で取得した。Aさんには、長男Bさん以外に子はいない。
Aさんは、3年前、自宅の建物の老朽化が激しいこともあり、長男Bさんの承諾を得たうえで、バリアフリーの建物に建て替えた。その建築費用はAさんが全額負担したため、建物はAさん名義とした。土地の固定資産税・都市計画税は持分割合に応じて負担しているが、Aさんから長男Bさんに地代は支払っていない。Aさんの現在の預貯金は3,000万円程度であり、公的年金を収入とした生活を送っている。
先日、Aさんは、長男Bさんから、借入金の返済や生活資金の捻出のために、大変心苦しいが自分の持分を買ってもらえないかとお願いをされた。仮に、Aさんに買ってもらえないのであれば、第三者に売却したいとの意向も聞かされた。第三者に売却する場合は、Bさんの持分をそのまま売却する方法と共有物の分割(右図の網掛部分)をしたうえで売却する方法の2案を考えているようである。Aさんは、自らが購入すれば、預貯金が少なくなり、その後の生活資金に窮するのではないかと心配している。一方で、長男Bさんの持分が第三者に売却されてしまった場合、どのような権利関係になってしまうのか、どのような問題が発生するのか、不安を感じている。Aさんは、長男Bさんに対して、可能な範囲内で何らかの協力をしたいという意向はある。
どのような方法を選択するのが望ましいのか、知人に相談したところ、長男Bさんと共同で土地・建物を売却し、その資金で分譲マンションやサービス付き高齢者向けマンションに入居する案もあるのではないかと助言された。
【Aさんの自宅の状況】
・土地:240u(Aさんと長男Bさんの持分割合は、各2分の1ずつ)
・建物:延床面積70u 木造1階建(Aさんの所有)
・土地の用途地域:第2種低層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率150%)、準防火地域
・前面路線価:150D
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.長男Bさん所有の土地(持分)上にAさん名義の建物がありますが、現在の権利関係はどのようになっていると考えられますか。
3.土地を分割せずに、長男Bさんが持分を第三者に売却した場合、どのような問題が考えられますか。また、長男Bさんの分割案については、どのように思いますか。
4.Aさんが長男Bさんと共同で土地・建物を売却した場合の課税上の取扱いについて教えてください。
5.あなたは、Aさんに対して、どのような提案をしますか。理由も述べてください。
6.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【Aさん・長男Bさん所有の土地および建物の概要】
※網掛部分の土地(120u)は、Aさんがガーデニングを楽しむ庭として利用している。
長男Bさんは、持分をそのまま売却する方法と網掛部分の土地を分割(分筆)したうえで売却する方法の2案を考えているようである。
※地域の標準的使用としては土地面積200u程度の住宅地が多く、購入者の選好や、取引される面積も200u程度が多い。
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
長男Bさんは借入金の返済や生活資金の捻出に苦慮しており、またAさんは、長男Bさんに対して、可能な範囲内で何らかの協力をしたいという意向があることから、長男Bさんの借入金や生活収支の状況について確認が必要。
遠方に暮らしているBさんの暮らしぶりを把握することは親族でも難しいと思われるが、Aさんの預貯金も限られており、可能限りBさんの状況を把握した上で、持分の処分方法やAさんからの協力方法を検討していくことが必要。
また、分譲マンションやサービス付き高齢者向けマンションへ入居する案に関し、近所付き合い等を含め、Aさんの希望の確認が必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、持ち分の売却や土地・建物の共同売却、及び周辺の分譲マンションやサービス付き高齢者向けマンションの価格相場を確認するため、周辺の不動産業者等への確認が必要。
2. Aさん・長男Bさん所有の土地および建物の権利関係
本問の土地の権利関係は、Aさんと長男Bさんの共有であり、Aさんはその上にAさん自身で建物を建てて居住しているが、Aさんは長男Bさんに地代を払っていない。従って、Aさんは地代を取らない使用貸借で借り受けた土地に、「自分で」建物を建築し居住していることになり、相続税評価額は、自用地となる。
使用貸借は地代を取らないため、土地の使用権は経済的価値が極めて低いと考えられ、相続税評価上はゼロと考えられるため(借地権の価値ゼロ)。
また、共有持分となっている不動産について、持分だけの売却や抵当権設定は可能。よって、長男Bさんが自身の持分について売却したり、抵当権を設定することについて、Aさんは拒否することは出来ない。
なお、共有不動産の場合、その不動産全体の売却等には共有者全員の合意が必要となる。従って、本問の土地全体を売却する場合には、Aさんと長男Bさんがともに売却に合意することが必要。
3. 土地分割無しの第三者への持分売却と土地分割案の問題点
分割無しの第三者への持分売却の場合、購入する第三者は、土地の利用形態・形質の変更、建築などについて、他の共有者全員の同意を得ることが必要となるため、通常の土地取引と比較して購入しても自由度が低くなる。従って、長男Bさんの持分だけを売却しても、買い手が限られ評価額も下がってしまう可能性がある。
また、Aさんに買い手を選ぶ権利は無いため、購入した第三者とトラブルになる可能性もある。
長男Bさんの分割案では、Aさんが取得する土地は間口が2mと、接道義務は満たすものの狭小な路地状敷地(旗竿地)となってしまうため、公道からのアクセスが不便となってしまい、土地の有効活用がしにくく、売却する際の評価額も下がってしまう可能性がある。
また、周辺地域の標準的使用が土地面積200u程度の住宅地が多く、購入者の選好や、取引される面積も200u程度が多いことから、長男Bさんの持分として120u分だけを売却しても、買い手が限られ評価額も下がってしまう可能性がある。
4. 共同で土地・建物を売却した場合の課税上の取扱い
Aさんが自宅の土地・建物を譲渡した場合、居住用財産の譲渡所得の特例(居住用財産の3,000万円の特別控除・軽減税率の特例・買換え特例)により、税負担を抑えながら売却が可能。
ただし、居住用財産の3,000万円の特別控除と軽減税率の特例は併用可能だが、買換え特例は他の2つの特例との併用はできない。
なお、建物は共有でなく、敷地だけを共有としている場合、建物の所有者以外の者には居住用財産の譲渡所得の特例(居住用財産の3,000万円の特別控除・軽減税率の特例・買換え特例)が適用されない。
よって、長男Bさんの持分譲渡については、長期譲渡所得として課税されることとなると思われる。
5. Aさんに対するFPとしての提案とその理由
土地の持分評価を考えると、土地の分割や長男Bさんによる単独の持分売却は避けたい。分譲マンションやサービス付き高齢者向けマンションへ入居する案に関し、近所付き合い等を含め、Aさんに問題が無いのであれば、土地・建物の共同売却を勧める。
ただし、Aさんは3年前に自宅をバリアフリーの建物に建て替えたばかりであり、近所付き合い等も含めれば、現状のまま自宅に住み続けたいという希望も強いのではないかと思われる。
Aさんは保有資金には手を付けたくなく、また長男Bさんも遠方に住んでおり今後戻る可能性が低いと考えられることから、リバース・モーゲージにより持分の買い取り資金を確保し、長男Bさんから買い取ることを提案する。
リバースモーゲージは、すでに保有している住宅を担保に、一定額の融資を受けるローンであり、返済はせずに借入者の死亡時に住宅を処分して返済資金に充当する(配偶者が遺された場合はそのまま居住可能で、配偶者死亡時に返済)。
リバースモーゲージを利用すると、自宅はあっても金融資産が少ない高齢者が、自宅に住み続けながら自由な資金を借り入れられるため、遺産を残す必要が無い場合に有効。
ただし、リバースモーゲージは年齢制限(申し込み時に60歳〜80歳までが平均的)があり、さらに、想定よりも長生きすることで融資額では不足するリスクがある。
本問の場合、Aさんは公的年金を収入とした生活を送っており、自己資金も3,000万円あることから、融資金は持分の買い取りのみに充当されるため、長生きリスクは公的年金と自己資金でカバーできると思われる。
6. 関与すべき専門職業家
土地・建物を譲渡した場合の譲渡所得税額や、居住用財産の買換え特例が適用できるどうか等については、税理士が適当。 また、リバースモーゲージの利用における、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、融資金の担保設定の登記手続きは司法書士が適当。
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