2018年6月16日実技part2
2018年6月16日実技part2
part2 問題文
●設 例●
大手企業に勤めるAさん(55歳)は、妻(53歳)および長女(27歳)の3人で実家近くの戸建て住宅(持家)に暮らしている。Aさんの実家(甲土地)には、母親が亡くなってから父親Bさん(80歳)が一人で住んでいるが、建物が老朽化し、管理にも手間がかかるため、駅前の新築マンション(2LDK・3,000万円)に移り住むことを検討している。Aさんには他に兄弟姉妹はいない。
Aさんは、自己資金と金融機関から融資を受けて、10年前に建築した賃貸アパート(鉄骨造2階建て・延床面積250u・2DK6戸)を所有している。土地は実家(甲土地)隣接の父親Bさん名義の乙土地(敷地250u)である。賃貸アパートは、Aさんの友人であるMさんが経営するM工務店に総額5,000万円で建ててもらった。アパートは最寄り駅に徒歩5分と近いことから、1室平均9万円(月額)の賃料でおおむね満室が続いている。Aさんは、乙土地については固定資産税・都市計画税のみを負担している。
【Bさんが所有する主な財産】
・自宅の甲土地(500u)、建物(木造2階建て・延床面積150u、昭和50年築)
・乙土地(250u)
・預貯金8,000万円
先日、Aさんは、父親Bさんから、マンションに移り住んだ後の甲土地の有効活用について何かよい方法がないか考えてほしいと頼まれた。AさんがMさんに相談したところ、「Bさんの自宅付近は商業性もあり、自分の取引先だとドラッグストアのX社が借りてくれるだろう。相続税対策を兼ねて、真剣に考えてみてはどうか」とアドバイスを受けた。後日、Aさんは、Mさんから下記のX社の賃借条件を提示された。
【賃借条件】
・店舗は鉄骨造平屋の200u、建設資金は3,000万円かかるが、建設協力金方式で全額X社が負担する。
・賃借期間は20年間の普通借家契約で、賃料は月額100万円
・営業開始後5年間は解約しないが、その後は1年前の解約予告で退去可能
・契約形態は事業用借地権でも構わないが、その場合は手取額が若干少なくなる。
X社は大手企業であり信頼性もあるので、Aさんは前向きに検討したいと思っている。このような状況でFPであるあなたに相談があった。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.現在の状態でBさんについて相続が開始し、Aさんが甲土地および乙土地を相続により取得した場合の相続税評価について教えてください。
3.建設協力金方式と事業用借地権方式の特徴を教えてください。
4.X社の提案内容に基づいて甲土地の有効利用を建設協力金方式で進める場合、契約内容についてどのようなことを確認し、交渉すべきですか。この有効利用をAさん(Bさん)に勧めますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地(実家)および乙土地(賃貸アパート)の概要】
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
今回の不動産投資でAさんが希望する利回りや、引き受け可能なリスクについて、確認することが必要。
また、土地の名義人である父Bさんは80歳と高齢であり、数年〜10年程度で相続が発生する可能性が高いが、使用貸借している土地は小規模宅地の特例の適用対象外のため、多額の相続税負担が予想されるが、それらを見越した対策を講じているか確認が必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することや、X社の財務内容・評判等についても、周辺の不動産業者や官報による確認が必要。
2. 現状で相続が開始した場合の甲土地・乙土地の相続税評価
甲土地は、被相続人である父Bさんが、自分名義の土地に自宅を建てて居住しているため、自用地評価となる。
次に、地代を取らない使用貸借で借り受けた土地に、「自分で」建物を建築し、第三者に賃貸する場合、相続税評価額は自用地となる。
乙土地は、固定資産税・都市計画税のみAさんが負担しているが、地代を払っていても固定資産税程度であれば、土地の使用貸借とみなされるため、本問の場合も自用地評価となる。
相続人であるAさんが別居親族であり、持ち家もあることから、自宅のある甲土地に対して小規模宅地の特例を適用することはできない。
また、乙土地も貸付事業を行っているのは土地の所有者である父Bさんとは別生計のAさんであるため、同様に小規模宅地の特例を適用することはできない。
3. 建設協力金方式と事業用借地権方式の特徴
◆建設協力金方式
建物は土地所有者が建設し、その建物に入居予定のテナント等から貸与された保証金や建設協力金を、建設資金の全部または一部に充当して建物を建設する事業方式(建設協力金方式)。
建設協力金方式の場合、建物は土地所有者が建設・所有することから、土地は貸家建付地、建物は貸家、建設協力金・保証金は債務となるため、相続税負担の軽減が期待できる。
ただし、建設協力金・保証金の返済と所得税・住民税負担により、キャッシュフローがマイナスになる場合もあるため、事前の詳細な検討が必要。
◆事業用借地権方式
事業用定期借地権等(事業用定期借地権、事業用借地権) は、存続期間10年以上50年未満で用途は事業用限定、期間満了で借地関係は終了するため、原則として借地人は建物を取り壊し、更地にして返還する。
(10〜30年:事業用借地権、30〜50年:事業用定期借地権)
メリットとしては、大きな設備投資を必要とせず、長期間安定的な収入が確保でき、契約満了時には更地で返還されること。
デメリットとしては、利用用途が「事業用」に限られるため、汎用性が少ないことと、一般に地代収入は他の方式による収益よりも低いという点がある。
4. 建設協力金方式で進める場合に契約内容について確認・交渉すべき事項
建設協力金方式では、建設協力金としてテナント側から受け取った建設資金が、入居後は保証金となり、テナント側に毎月の賃貸収入から返済していくことが必要となる。従って、契約期間途中でテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残るといったデメリットに加え、残された建物と保証金の処理が複雑になるデメリットがある。
通常、建設協力金方式の契約では、中途解約の場合にテナント側は建設協力金の返済の権利を放棄し、オーナー側は解約後の建設協力金返還が不要となる条項を入れてあるはずであるが、今回の契約でも同様の条項が盛り込まれているか、確認が必要。
また、借地借家法では、借主に不利な特約は、無効とされているため、「家賃を減額しない」という特約があった場合でも、普通借家契約の場合はテナント側からの減額請求が可能となる。
定期借家契約の場合は、建物の賃料の増減に関する特約は、借主に有利・不利に関わらず、有効となるため、テナント側には定期借家契約とし、契約期間中の家賃を減額しない旨の特約を入れることを交渉すべきである。
なお、建設協力金3,000万円を20年で返済する場合、1ヶ月当たりの返済額は12.5万円のため、家賃収入100万円から差し引いた手取りは87.5万円。
隣接した乙土地アパートの家賃収入が1室9万円×6室=54万円で、敷地面積は甲土地の半分であることを考えると、甲土地でアパート経営した場合には単純計算でも100万円程度の家賃収入が期待できる。
建設協力金方式は、郊外のロードサイドの店舗などでよく利用される方式であり、乙土地アパートが満室で居住用建物の賃貸需要が高いと思われる本問の地域では、テナントに賃貸するよりもアパート経営の方が良い可能性もある。
当然、融資でアパート経営する場合には家賃収入から返済が必要であり、建設資金もより多く必要となるが、X社の提案が飛び抜けて好条件とは言えないため、他の活用方法も含めて慎重に検討することを勧める。
5. 関与すべき専門職業家
事業用借地権や建設協力金方式の利用における、測量結果に基づく適正な不動産価格・地代、賃料の算定は、不動産鑑定士が適当。
また、甲土地の相続税評価額や不動産収入に関する課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、事業用借地権の登記や建設協力金方式採用時の建物の所有権保存登記については司法書士が適当。
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