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2019年10月6日実技part1

2019年10月6日実技part1

part1 問題文

●設 例●
日用品・雑貨品を製造する株式会社X社(非上場会社)は、代表取締役社長Aさん(70歳)と専務取締役Fさん(69歳)が30年前に設立した会社である。X社の商品力・技術力には定評があり、大手企業との取引を拡大することで、設立以来、業績は順調に推移してきた。X社の余剰資金は4億円以上あり、経営は安定している。

【X社の事業承継に関して】
Aさんは、自身の年齢のことを考え、X社の事業承継について検討を始めている。Aさんには、長女Cさん(36歳)と二女Dさん(34歳)の2人の子がいるが、妻Bさん(68歳)を含め、X社の経営には関与していない(血縁関係のある者に適任者がいない)。
そこで、Aさんは長女Cさんの夫である婿Eさん(40歳)を後継者にすることを考え、本人に打診したところ、本人から挑戦してみたいとの意向を得られた。Eさんは、2年前に銀行を退職してX社に入社しており、現在は営業部長の職にある。Eさんは、取引先・従業員からの信頼が厚く、Eさんを次期社長とすることにAさんの家族は賛同している。
Aさんは、Eさんに社長の座を譲るつもりであるが、具体的に将来の株主構成をはじめ、事業承継の方法について判断できないでいる。他方、Aさんは、妻Bさん・長女Cさん・二女Dさんには相応の資産を残してあげたいとの思いも強い。
また、Fさんからは「E君が後継者に決まり、安心した。実は、今期をもって役員を退任したい。X社株式についても買い取ってもらいたい」との話があった。

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん :専業主婦。Aさん・二女Dさんと同居している。
長女Cさん:高校教諭。Eさんと子2人で戸建て住宅(持家)に住んでいる。
二女Dさん:出版社勤務。近く会社の同僚と結婚し、県外に転居する予定である。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 :9,000万円
上場株式:4,000万円
X社株式:3億6,000万円
X社本社・工場土地(800u):1億2,000万円(注)
自宅土地(300u):6,000万円
自宅建物:3,000万円

合計:7億円

※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億2,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注):X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

【X社の概要】
資本金 :5,000万円
会社規模:大会社
従業員数:80人
売上高 :18億円
経常利益:6,000万円
年配当 :1株50円(直近3期)
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額9,000円/株
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん90%、Fさん10%
※Aさん・Fさんは、それぞれが特殊の関係にある者(同族関係者)ではない。
※X社株式は譲渡制限株式である。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 金庫株を用いたEから二女Dへの代償分割

3.事業承継の方法(事業承継税制の特例の活用)と株主構成

X社株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、税負担なく移転することが可能。
平成30年度税制改正により、適用対象の株式数の上限が撤廃され全株式が適用対象となっており、また、納税猶予割合も100%に拡大したため、承継時の税負担はゼロになっている。
ただし、贈与の場合は、贈与時において後継者が20歳以上で、3年以上継続して役員であることが必要であるため、株式の贈与を2027年12月31日までに実施する必要がある事業承継税制の特例措置を受けるには、早めに役員に就任することが必要である。

本問の場合、後継者であるEさんは現在営業部長であり、役員ではないと思われるため、まずは退任を希望しているFさんの代わりに専務取締役とし、その後株式の承継処理を進めていくことが望ましいと思われる。

また、現経営者であるAさんが、完全に事業から離れるという意向であれば、贈与税の納税猶予・免除特例、金庫株、後継者の役員給与の増額等による株式譲渡といった対策を組み合わせ、できるだけ後継者に株式を集約させることが望ましい。

ただし、後継者であるEさんの突然の相続発生による株式散逸のリスクに備えるため、該当株式分を金庫株として自社で買い取り可能な余裕資金を用意しておくことも必要である。

4.株式の低額譲渡に関する問題点

個人が非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、買い取ってもらった金額のうち資本金等の額を超える分については、「みなし配当」(配当所得)となるが、会社側は、自己株式を時価より高額または低額で譲渡された場合でも、原則として時価との差額に対する認定課税は行われない(資本等取引)。
ただし、適正な時価よりも低額譲渡を行うと、時価で譲渡したとみなされ、みなし譲渡所得として課税される可能性がある。さらに、低額譲渡により当該株式の評価額が上昇すると、他の株主も株価上昇の恩恵を受けるため、譲渡した株主から他の株主への贈与(跳ね返り贈与)とみなされ、贈与税の課税対象となることがある。

本問では、専務取締役FさんからX社株式の買い取り希望が出ているため、税理士とも相談の上で、適正な時価の範囲内でX社が買い取ることを勧める。

5. 相続人間の平等な相続方法

EさんがX社を承継することにより、妻Bさん・長女Cさん・二女Dさんの遺留分を侵害してしまう可能性が高いため、まずは遺留分に関する民法の特例を活用し、後継者に生前贈与された自社株式について、遺留分算定基礎財産価額に算入する価格を固定する固定合意や、後継者に生前贈与された自社株式を、遺留分算定基礎財産価額に算入しない除外合意を行うことを勧める。

また、妻BさんについてはAさんの相続発生後も確実な住まいと収入源の確保のため、自宅土地・建物とX社本社・工場土地を相続させる。
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地や特定同族会社事業用宅地等で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。
ただし、特定同族会社事業用宅地等は、相続税の申告期限においてその法人の役員であることが必要であるため、妻BさんにはX社の役員に就任させておくことが必要となる。

また、長女Dには、孫への教育資金贈与の非課税特例の活用や、長女Dさんを受取人とした生命保険、X社本社建物の賃料を原資とした代償分割(相続後に分割払い)による、ある程度均等な相続も必要と思われる。

さらに、近く結婚し転居の予定がある二女Dさんには、結婚・子育て資金の非課税特例や、相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用により、積極的な生前贈与も検討できる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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