2020年10月3日実技part1
2020年10月3日実技part1
part1 問題文
●設 例●
大都市圏に所在する株式会社X社(非上場会社・繊維卸売業)は、戦前から続く老舗企業である。戦後の高度経済成長期に業績を大きく伸ばしたが、バブル崩壊後に主力の和装部門の売上が大きく落ち込み、近年ではファストファッションの台頭により、アパレル部門も苦戦を余儀なくされている。他方、過去の利益の蓄積から、本社・営業所・倉庫は自社所有であるほか、収益不動産を2棟所有しており、内部留保は厚い。直近の決算では、本業の不振から営業赤字であるものの、営業外の賃料収入により最終損益は黒字を確保している。
業績の先行きが見通せない状況のなか、2代目社長のAさん(72歳)は、本業の繊維卸売業を廃止のうえ、不動産賃貸業に転換することを決断した。X社の常務取締役である長男Cさん(45歳)も同様の考えから、Aさんの決断に直ちに同意した。
【X社の事業承継に関して】
Aさんは、先代の相続時に相続税の負担で苦労した経験を踏まえ、早くから後継者を長男Cさんと定め、X社株式の生前贈与を少しずつではあるが、着実に進めてきた。Aさんは、不動産賃貸業に転換するにあたり、事業承継対策にどのような影響があるか、従来どおりの生前贈与を進めてよいものか、整理がついていない。また、Aさんは、先日、商工会議所主催のセミナーに参加した際に紹介された「事業承継税制の特例」の活用の可否について、確認したいと思っている。
【Aさん自身の資産承継に関して】
Aさんは、所有財産のうち、長男CさんにX社株式を承継し、妻Bさん(70歳)に自宅を相続させる予定であるが、他の資産をどのように承継するかは検討していない。公務員の二男Dさん(41歳)は、X社の経営に参画する予定はなく、実家のことについて関心が薄い。
Aさんは、二男Dさんには、ある程度の現金を渡してやれば納得するであろうと考えているが、遺産分割が円滑に行えるのか、一抹の不安を感じている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん:X社常務取締役。持家(マンション)で妻と子2人の4人暮らし。
二男Dさん:地方公務員。賃貸マンションで妻と子2人の4人暮らし。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 :1億3,600万円(役員退職金は考慮していない)
X社株式:5,400万円
自宅 :6,000万円(土地(200u)5,000万円、建物1,000万円)
賃貸マンション:1億3,000万円(土地(300u)9,000万円、建物4,000万円)
月極駐車場 :7,000万円(250u)
合計:4億5,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金 :3,000万円
会社規模:大会社
従業員数:30人
業種 :卸売業
売上高 :35億円
経常利益:300万円
純資産 :6億円
配当 :毎期実施なし
株主構成(発行済株式総数6万株):Aさん60%、妻Bさん15%、長男Cさん25%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額1,500円/株、純資産価額1万5,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。
※X社が所有する不動産は、本社ビル(2億円)、営業所・倉庫(1億円)、収益不動産2棟(5億円)の計8億円(相続税評価額)である。
【親族関係図】
part1 ポイント解説
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用
2. 遺産分割対策・事業承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 金庫株を用いた長男から長女への代償分割
(6) 配偶者居住権の設定
3. 不動産賃貸業への転換による事業承継対策の影響と、事業承継税制の活用の可否
不動産賃貸業に転換した場合、必要な従業員数は現状よりも少なくなる可能性が高く、また取引金額も縮小すると思われるため、人員整理や事業整理により会社区分が大会社から中会社となり、株式評価に純資産価額の割合が増えることから、X社株式の評価額が高くなる可能性がある。
非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度は、贈与・相続時点の資産価額総額に対する収益不動産等の特定資産の割合が70%以上となる場合、資産保有会社として特例適用の対象外となる。ただし、贈与時点において常時使用従業員数5人以上で、営業所を構えて3年以上事業を継続していれば、資産保有会社でも特例適用可能である。
本問の場合、本業の繊維卸売業を廃止して不動産賃貸業に転換することを目指しているが、常時使用従業員数や営業所の要件を満たすならば、特例適用が可能と思われる。
4. 相続人間の平等な相続方法
(1) 長男の相続分(X社株式と現預金)
X社株式を後継者である長男に集中させることが、円滑な事業承継上重要である。
また、テナントビルについてもX社へサブリースしていることから、長男が相続する方が望ましい(将来的に長女がテナントビルを第三者に売却する可能性も有り得るため)。
(2) 配偶者の相続分(自宅と月極駐車場と現預金)
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、貸付宅地で200uまで適用可能だが、貸付用宅地との併用では調整計算が必要となる。
本問の場合、まず自宅には特定居住用宅地を適用し、月極駐車場には貸付用宅地として調整計算した割合まで小規模宅地の特例の併用が可能。
(3) 二男の相続分(賃貸マンション)
二男はX社の経営に参画する予定はなく、実家に関心は薄いが、X社が不動産賃貸業に転換すると事業運営は安定しやすく、長男は継続的な収入が期待できるため、二男が現預金のみの相続では不満が出る可能性がある。そのため、長男と同様に不動産収入が得られる賃貸マンションを相続させ、全体の相続分の割合にもバランスをとることを勧める。
ただし、二男は公務員であることから、相続であっても勤務先の副業規程上問題ないか、事前に本人から確認することが必要。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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