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2021年10月2日実技part1

2021年10月2日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(64歳)は、個人で不動産賃貸業を営んでいる。Aさんは、以前、国道沿いで雑貨店(有限会社X社、Aさんが全額出資)も営んでいたが、赤字経営が続いたため、3年前に店を閉じた。しかし、X社についてまだ解散手続はしていない。X社の現在の資産は預金が多少あるだけで、負債はない(税法上の繰越欠損金がある)。Aさんは、現在、家賃収入として年間約2,200万円を得ており、休眠しているX社を所得税や住民税の軽減や将来の相続税の軽減のために利用できないかと考えている。なお、賃貸アパートの取得に要した借入金は数年前に完済している。
また、先日、東京都内の料理屋で10年間腕を磨いてきた長男Dさん(32歳)から、現在使用していない雑貨店の建物を改装して飲食店を開業したいとの相談があった。話合いを重ねた結果、Aさんは賛同し、改装資金や当面の事業資金を支援してあげたいと思っている。Aさんは、長男Dさんの飲食店の経営にX社を利用することはできないかとも考えている。

【Aさんの推定相続人】
妻Bさん(64歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(38歳):パート従業員。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
長男Dさん(32歳):独身。Aさん所有の甲アパートの一室に住んでいる。家賃は支払っていない。

【Aさん自身の資産承継】
長女Cさん(38歳)は、隣県で会社員の夫と子の3人で夫所有の持家で暮らしているが、私立中学に進学した子(13歳)の教育費と住宅ローンの負担が大きく、Aさんに支援を求めている。また、Aさんは、2人の子が遺産分割でもめることはないと思っているが、自筆証書遺言の保管制度があると聞き、念のために遺言書の作成を検討している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金:8,500万円
2.自宅
(1)土地(400u) :8,000万円
(2)建物(築25年):400万円
3.甲アパート
(1)土地(500u) :6,000万円
(2)建物(16室) :1,400万円(年間収入約1,200万円)
4.乙アパート
(1)土地(400u) :4,000万円
(2)建物(12室) :1,500万円(年間収入約1,000万円)
5.旧雑貨店
(1)土地(100u) :5,000万円
(2)建物      :200万円(現在は使用していない)

合計:3億5,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約7,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 所得税・相続税の軽減対策

(1) 生命保険の活用(法人契約だとより軽減効果有り)
(2) 小規模宅地の特例の活用
(3) 長男をX社の代表取締役としX社への不動産の譲渡

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(4) 配偶者居住権の設定

3. 法人化による相続税・所得税の軽減対策

Aさんが現在多額の賃貸収入を得ており、また不動産の評価額も多額であるため、所得税・相続税の負担が大きいと考えられる。よって、不動産賃貸業の個人事業から法人運営の移行による税負担の軽減対策を提案する。

(1)長男を代表取締役とした法人による事業運営
法人運営への移行による所得移転・資産分散効果を最大限に活かすため、出資者・役員は推定被相続人となる親ではなく子を中心とすることが望ましい。
建物の所有権の移転手続きや不動産取得税等の移転コストがかかるが、全ての家賃収入が法人に入るため、所得移転効果が高い。また、法人税の比例税率と所得分散による所得税・相続税低減効果有り。
本問の場合X社は有限会社でAさんが全額出資となっており、Aさんの所有財産にX社株式が記載されていないことから、株式を発行しておらず、Aさんの出資持分100%の有限会社であると思われる。このため、長男への事業承継の際には、出資持分の名義を書き換え、社員総会で取締役に選任することが必要。
なお、繰越欠損金もあるため、事業承継後も当面の間法人税負担も抑えられ、承継後の経営にも資すると思われる。

(2)法人への不動産の譲渡
事業承継した法人に対し、賃貸建物のみを簿価で譲渡することで、譲渡損益を発生させずに不動産を個人から法人に移転させることが可能。
買い取り資金がない法人であっても、利息無しの長期分割払いとすることで対応可能となる。

(3)土地の無償返還に関する届出書の提出
法人側での借地権の認定課税を避けるため、土地の無償返還に関する届出書を提出するか、相当の地代を支払うこととする。

4. 自筆証書遺言の保管制度の説明

自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文、日付および氏名を自書して印を押すものだが、自筆証書遺言の財産目録についてはパソコン作成や代筆、通帳のコピー添付も可能(遺言本文は手書き)となっている。
また、法務局に保管した自筆証書遺言は、公正証書遺言と同様に検認不要

遺言には秘匿性の高い秘密証書遺言や、公証人に口授する公正証書遺言もあるが、前者は家庭裁判所での検認が必要であり、後者は費用と証人2名を要する等の手続が煩雑というデメリットもあるため、自筆証書遺言を選択する場合には、法務局への保管申請を行うことを提案する(ただし、遺言者本人の出頭が必要)。

5. 相続人間の平等な相続方法

(1) 長男の相続分(自宅土地・建物、賃貸不動産物件、旧雑貨店)
法人に対し賃貸建物のみを譲渡した場合、敷地の所有権者と法人の代表者が異なると安定的な法人運営が困難となるリスクがあるため、賃貸不動産物件や旧雑貨店は長男が相続することが望ましい。
また、自宅土地・建物についても、将来的な二次相続も考慮すると、長男が相続する方が望ましい。
なお、旧雑貨店の改装資金や当面の事業資金を支援する方法としては、現預金の場合は贈与税負担が発生する可能性が高いため、X社名義とした賃貸不動産物件の建物のみを担保として金融機関から融資を受ける方法も提案できる。

(2) 配偶者の相続分(配偶者居住権・現預金)
配偶者には配偶者居住権を設定することで、自宅の所有権を長男に相続させた場合でも居住継続できるようにすることを提案する。
また、相続発生後の安定的な生活を維持するため、長男が事業承継したX社で社員として雇用し、給与収入を得られるようにすることを提案する(一族内での所得分散効果も有り)。

(3) 長女の相続分(現預金)
住宅ローンと子の教育費の負担が大きい長女に対しては、現預金を中心として相続させることを提案する。ただし、長女が現預金のみの相続では不満が出る可能性がある。また、事業承継上遺産の大半を長男が相続すると、長女の遺留分を侵害する可能性がある。
そのため、相続時精算課税や孫への教育資金贈与の特例等の生前贈与の活用や、長男から長女への代償分割のほか、長男が事業承継したX社で社員として雇用し、給与収入を得られるようにすることも提案する(一族内での所得分散効果も有り)。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な所得税・相続税の軽減対策や資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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