2021年10月3日実技part1
2021年10月3日実技part1
part1 問題文
●設 例●
大都市圏K市に所在する株式会社X社(非上場会社・精密測定器製造業)は、代表取締役社長のAさん(70歳)が40年前に設立した会社である。近年、市場を拡大しているロボットや自動化された機械などを組み込んだ製品には精密に測定された正確な寸法の部品が必要不可欠であるが、熟練工の高い技能を背景としたX社の技術力は高く評価され、堅調な需要があり、経営状態は良好である。Aさんは、X社が2年前、機械設備の更新にあたって金融機関から設備資金を借り入れた際、経営者保証を提供している。
Aさんの最大の悩みは、X社の事業承継である。Aさんには長男Cさん(45歳)と長女Dさん(43歳)の2人の子がいるが、長男Cさんは、大手出版社で出版部長を務めており、X社の経営に必要な専門知識もなく、以前から父親の事業は継がないと表明している。また、長女Dさんも、X社の経営にはまったく関心がない。Aさんは、X社の財産である従業員の生活を守るため、廃業する事態だけは何としても避けたいと考えている。
そこで、Aさんは、自身の後継者を社内に求め、取締役技術部長のEさん(40歳)に白羽の矢を立てた。3年前に取締役に抜擢したところ、Eさんは臆することなく積極的に意見を述べ、現在に至るまで期待に応える働きを見せている。先日、創業時から支えてくれた専務取締役のFさん(68歳)に打ち明けたところ、Eさんを後継者とすることに賛同してくれた。
Aさんは、近いうちにEさんに打診することとし、それに先立って、どのような手順でEさんへの事業承継を進めればよいか整理することとした。
なお、Fさんは、承継の道筋がついたら、Aさんとともに勇退するつもりとのことである。
【Aさんの家族構成】
妻Bさん(70歳) :専業主婦(X社の役員ではない)。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):出版社勤務。妻と2人の子の4人で持家に住んでいる。
長女Dさん(43歳):パート従業員。会社員の夫と2人の子の4人で持家に住んでいる。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 :8,000万円(役員退職金は考慮していない)
上場株式:3,000万円
X社株式:1億6,000万円
X社本社・工場土地(1,000u):1億8,000万円(注)
自宅土地(300u):8,000万円
自宅建物:3,000万円
合計:5億6,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億6,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金 :5,000万円
会社規模:大会社
従業員数:80人
配当 :実施なし
売上高 :20億円
経常利益:8,000万円
純資産 :10億円
株主構成(発行済株式総数1,000株):Aさん80%、Fさん20%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額20万円/株、純資産価額80万円/株
※Aさん・Eさん・Fさんは、それぞれが特殊の関係にある者(同族関係者)ではない。
※X社株式は譲渡制限株式である。
part1 ポイント解説
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用
2. 遺産分割対策・資産承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 配偶者居住権の設定
3. 事業承継税制の特例の活用の留意点
X社株式については、単純に税負担の軽減のみを考慮すれば、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)。
ただし、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2023年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要(株式の贈与は2027年12月31日までに実施)。
また、先代経営者の親族外であっても適用可能であるが、後継者は贈与時には役員就任期間が3年以上、相続発生時に役員であることが必要。
本問の場合、長男・長女ともに承継の意思は無いと思われるが、仮に承継する場合でも特例適用のためには入社後すぐに役員に就任しておく必要があり、本人や社内に丁寧な説明が必要になることから、特例適用はあまり現実的ではないと思われる。
また、親族外承継として取締役技術部長のEさんに承継する場合でも、多額の株式を親族外に贈与することになる本特例の適用はやはり現実的ではないと思われる。
4.事業承継を考慮した株主構成
親族外承継の場合、後継者に事業の経営のみを承継し、現経営者一族は株主として引き続き残る方法と、経営だけでなく自社株式も承継する方法がある。
後継者に事業の経営のみを承継し、現経営者一族は株主として引き続き残る方法は、将来的に親族内に経営を戻したい場合に、一時的に親族外に経営を任せるために採用されることが多い。
現経営者であるAさんが、創業者一族としても完全に事業から離れるという意向であれば、贈与税の納税猶予特例・金庫株・後継者の役員給与の増額等による株式譲渡といった対策を組み合わせ、できるだけ後継者に株式を集約させることが望ましい。
株式譲渡によるM&Aの場合、親族内承継と異なり、株式譲渡する理由や買い手の資質等について、従業員や取引先に理解を得ることが必要となる。
オーナー経営者(個人)にとっては、株式売却による創業者利益を享受できるメリットが大きいが、買い手は決算書上では認識できない簿外債務も含めたすべての財産を承継するため、専門家による現時点での会社や事業の価値の精査(デューデリジェンス)や適切な売却先の選定など、必要な事務負担・費用負担も多くなる。
長男・長女ともに承継の意思が無さそうであり、取締役技術部長のEさんは資質はあると思われるが株式取得資金が不足している可能性が高いため、現時点では専門家の意見も交えながら、各人の意思確認を進めていくことが必要と思われる。
なお、取締役技術部長のEさんを後継者とする場合、後継者が新会社を設立し、不足する株式取得資金を金融機関からの融資等で調達して対象会社の株式を取得することで事業承継後、対象会社のキャッシュフローで返済する方法も考えられる(Management Buyout=MBO)。
5. 事業承継時の経営者保証解除に向けた取り組み
金融機関による中小企業への事業融資については、経営者による個人保証を求める慣習があったが、個人保証に依存して、借り手と貸し手が情報開示や事業目利き等の機能不全に陥らないよう、経営者による個人保証について日本商工会議所と全国銀行協会により一定のガイドライン(経営者保証に関するガイドライン)が示されている。
事業承継時の経営者保証については、ガイドライン上では原則として前経営者、後継者の双方から二重に保証を求めないこととされ、必要な情報開示を得た上で、対象債権者は、後継者に経営者保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討することが求められる。
本問の場合、現経営者であるAさんが2年前の機械設備の更新にあたって金融機関からの借り入れについて経営者保証を提供しているが、後継者として見込んでいる取締役技術部長のEさんへの事業承継に際して、金融機関や商工会議所等の支援機関と連携して経営者保証の解除に向けて調整を進めていくことが提案できる。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や事業承継方法等に関する顧客の理解度を確認する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、「親族ではないEさんを後継者とすること」といった非常に取扱いに注意を要する顧客の秘密漏洩を防止する「守秘義務」ということになるかと思います。
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