2021年10月3日実技part2
2021年10月3日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(48歳)の母親Bさん(80歳)は、大都市圏近郊のM市内にある自宅に1人で暮らしている。5年前にAさんの父親が死亡し、母親Bさんは自宅(甲土地・甲建物)と隣接する駐車場(乙土地)を相続により取得した。母親Bさんの収入は、公的年金(月額15万円)と駐車場収入(月額15万円)である。
【甲土地・甲建物・乙土地の概要】
・甲土地:地積270u、最寄りのM駅まで徒歩5分
・甲建物:木造2階建て、延べ面積120u、1980年築
・乙土地:地積270u、月極駐車場(12台)として利用、アスファルト舗装敷で車止めがあり周囲はネットフェンスで囲まれている。
母親Bさんは、甲建物の老朽化が激しく、また広い家に1人で暮らし続けるのが心細くなってきたこともあり、子どもと相談のうえ、M市内で間もなく完成予定のサービス付き高齢者向け住宅(月額費用20万円)に移り住むことを決めた。母親Bさんは、自分が転居した後の自宅や駐車場の扱いはAさんに任せ、処分してもらってもかまわないと思っている。
また、母親Bさんは、先日、Aさんの妹Cさん(45歳)から、2人の子の教育費や住宅ローンの負担が大きく、日々の生活が苦しいとの話を聞き、少しでも娘の生活を助けてやりたいと考えている。ただ、母親Bさんには預金が3,000万円程度あるが、これからの老後資金を考えると、預金は大きく取り崩したくないとも思っている。
母親Bさんの考えを聞いたAさんは、母親Bさんのサービス付き高齢者向け住宅の月額費用や妹Cさんの生活支援金を捻出するため、自宅もしくは収益率が高くない駐車場のどちらかの土地に賃貸物件を建築してはどうかと考え、駐車場を管理する不動産会社X社から紹介を受けた地元工務店Y社に相談した。
【Y社の提案内容】
・軽量鉄骨造2階建てのアパート、延べ面積250u、建築費6,000万円(諸経費、消費税込)
・1Kタイプを計10戸、1戸当たり月額7万円で賃貸可能
AさんがX社に自宅か駐車場のどちらかを売却した場合の価格を尋ねたところ、更地前提でともに概算7,000万円とのことであった。AさんはX社に相談した結果、「自宅か駐車場のどちらかを売却すれば、その売却代金でもう一方の土地に賃貸アパートを建築することができる。また、完成後の賃貸アパートの建物所有権2分の1を妹Cさんに持たせれば妹も助かるだろう」と考えるようになった。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.賃貸アパートの建築費に充てるために、自宅を売却した場合と駐車場を売却した場合の課税上の違いを整理して教えてください。
3.完成した賃貸アパートの建物所有権2分の1を妹Cさんに持たせるために、どのような手法の活用が考えられますか。また、そのほかに、妹Cさんへの資金援助の方法として、どのような手法が考えられますか。
4.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地・乙土地の概要】
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物と乙土地は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、転居後の自宅や駐車場の扱いはAさんに任せてもらえるようだが、売却した場合の代金の取扱いや将来の相続発生時の取扱いについても、Aさんを通じて母親や妹ともよく情報共有してもらうことが必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本問の場合、仮に甲・乙土地のいずれかを売却した場合、売却した土地には同じような賃貸不動産が建築される可能性があるため、不動産業者の提案が適正な相場であるかある程度把握しておくことが必要である。
2. 自宅・駐車場を売却した場合におけるそれぞれの課税上の違い
●自宅を売却した場合
本問の場合、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除と軽減税率の特例を適用することで、税負担を軽減可能。
・居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除
自分が住んでいた家屋を売るか、家屋とともに敷地や借地権を売った際、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除可能。
・軽減税率の特例
贈与・相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐため、自宅の所有期間が10年超であれば(譲渡年の1月1日時点で判断)、軽減税率の特例が適用可能。
●駐車場を売却した場合
事業用の土地や建物等を譲度し、一定期間内に特定の資産を取得し事業用とした場合には、事業用資産の買換え特例により譲渡収入の80%について課税を繰り延べられる。
3. 賃貸アパートの建物所有権2分の1を妹に持たせる手法と、その他の妹への資金援助方法
●建物所有権2分の1を妹名義として贈与する方法
贈与契約書を作成した上で、法務局に贈与を原因とする所有権移転登記を申請することで、建物所有権の2分の1を妹名義とすることが可能。ただし、暦年課税の贈与税として基礎控除110万円を超えた部分が課税対象となるため、妹には多額の贈与税負担が発生する可能性が高い。
そのため、相続時精算課税の適用を受けることで、特別控除2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、2,500万円を超える部分については一律20%で課税され、将来の相続発生時まで税負担を繰り延べることが可能。
●その他の妹への資金援助方法
生前贈与の方法としては、暦年贈与信託の利用が挙げられる。
暦年贈与信託は、親や祖父母等の委託者が信託銀行に信託財産を拠出し、毎年一定額を子や孫等の受益者に贈与する信託商品で、毎年贈与契約書を締結することで、贈与税の基礎控除110万円まで非課税で贈与が可能になる。
多くの金融機関で契約当初に500万円程度を預け入れることが必要なため、その後の賃貸収入から随時信託財産を追加預入していくことで、税負担を抑えながら妹への資金援助が可能。ただし、近年税制改正の議論の中で贈与税の基礎控除の廃止・縮小が挙がっているため、今後の改正を注視していくことが必要である。
4. 関与すべき専門職業家
甲土地・建物や乙土地の売却における、土地・建物の所有権移転登記等については司法書士、課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
なお、甲建物を取り壊してから譲渡する場合の建物の滅失登記・表題登記については土地家屋調査士が適当。
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