2021年10月10日実技part1
2021年10月10日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(42歳)は、地方都市X市に本社がある大手メーカーに勤務し、X市内にある借上げ社宅(賃貸マンション)で家族と暮らしている。Aさんは、銀行借入金によって今年購入したX市内の土地の上に念願のマイホームを建築中であり、2022年2月に完成する見込みである。
Aさんの母親は、年金収入と所有する賃貸アパートからの家賃収入で、首都圏にあるY市の実家で1人暮らしをしていたが、2021年8月、病気により死亡した。父親は5年前に他界しており、相続人はAさんとAさんの姉Bさん(48歳)の2人である。Aさんと姉Bさんは、生前、母親から所有する実家はAさんに、賃貸アパートは姉Bさんに相続させると聞かされており、先日、Aさんが実家を整理した際に、その内容が書かれた自筆証書遺言を見つけた。
Aさんは、発見した遺言書についてどのような手続をしたらよいのか、財産の名義変更手続等はどのように進めたらよいのか、法定相続情報証明制度とは何か、相続税の申告が必要なのかどうかなど、わからないことが多く、母親の相続について何から手を付けるべきかを教えてほしいと思っている。
また、Aさんは、今後、Y市に戻る予定はないため、相続する実家について、その土地と建物を売却し、売却資金を銀行借入金の返済に充当したいと考えている。Y市で不動産会社を経営している知人に相談したところ、「ちょうどY市内で土地を探している人がいる。2022年3月までに土地を購入したいと言っており、立地や広さなどの条件も合致しているため、よければ紹介したい」とのことで、売却価格は4,000万円程度が相場とのことである。姉Bさんは、Y市内で夫が所有する自宅で暮らしており、Aさんが実家を処分することに異論はないようである。
【Aさんの母親の相続人】
Aさん(42歳) :X市内の社宅に妻(40歳)と子2人(11歳、8歳)の4人で暮らしている。来年、初めての持家を取得する予定である。
姉Bさん(48歳):Y市内の夫(50歳)が所有する自宅に夫と子2人(20歳、18歳)の4人で暮らしている。
【Aさんの母親の相続財産】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.Aさんが相続する財産
(1)普通預金:500万円
(2)定期預金:1,000万円
(3)実家
土地:3,700万円(300u)
建物:200万円(1980年築、木造2階建て)
2.姉Bさんが相続する財産
(4)定期預金:1,200万円
(5)賃貸アパート
土地:2,600万円(200u)
建物:1,800万円(2000年築、軽量鉄骨造2階建て)
合計:1億1,000万円
part1 ポイント解説
1. 自筆証書遺言書の手続き
(1)偽造・変造防止のため、自筆証書遺言は勝手に開封しない。
(2)検認の申立書、被相続人・相続人全員の戸籍謄本または法定相続情報一覧図の用意
(3)上記(2)を家庭裁判所に提出し、検認の請求
(4)家庭裁判所から検認期日の通知
(5)検認期日に、相続人立会いのもと、遺言書の開封と内容確認、検認調書の作成
Aさんは既に遺言を開封してしまっているが、一般的に開封したこと自体による過料(罰金)が課されることは稀であり、誤って遺言を開封してしまった場合でも、遺言書自体の効力や相続人の資格は有効である
2. 相続財産の名義変更手続き
(1)預金の名義変更手続き(銀行の相談コーナー等)
(2)不動産の名義変更手続き(法務局で相続登記)
上記いずれも、被相続人・相続人全員の戸籍謄本または法定相続情報一覧図や遺言書・遺産分割協議書のほか、不動産については登記簿謄本等が必要。
また、財産の名義変更ではないものの、公的年金については未支給年金の請求届出、クレジットカードの未払い分の支払い手続き等が必要になる。
3. 法定相続情報証明制度の概要
法定相続情報証明制度は、相続発生時に相続人が法定相続情報一覧図を作成して必要書類とともに法務局に提出することで、登記官がその内容を確認し、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しの交付を受けることができる制度。交付された法定相続情報一覧図の写しは、相続人の範囲に関する公的な証明書として、相続登記や預金払戻等の手続で利用可能であるため、相続財産の名義変更手続きの際、その都度戸籍謄本等の相続証明書類一式を用意することなく、相続登記や預金払戻等を申請可能。
また、相続税の申告書の添付書類として、被相続人の全相続人を明らかにする戸籍謄本の代わりに、法定相続情報一覧図の写しも利用可能(子の続柄が実子・養子と明記されたもの)。
4. 相続税の申告手続きの概要
相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に行うことが必要。なお、相続税の申告書の提出先は、財産を取得した相続人の住所地の所轄税務署ではなく、被相続人の住所地の所轄税務署となる。
申告と納税は相続人自身でも可能だが、本問の場合相続人は被相続人の住所地とは離れて暮らしており、手続きにも慣れていないと思われるため、税理士に申告と納税手続きの代行を依頼することを提案する。
5. 小規模宅地の特例の活用方法
小規模宅地の特例は、特定居住用は330uを上限に80%減額、特定事業用は400uを上限に80%減額、貸付事業用は200uを上限に50%減額となり、特定事業用400uと特定居住用330uを併用する際は、それぞれ適用可能であるため、最大730uまで適用可能。
本問の場合、実家土地300uに特定居住用宅地を適用すれば、大幅に相続税負担を軽減することができるが、配偶者以外が取得する場合には、取得する別居親族は、相続開始前3年以内に自宅を所有していないことと、相続開始からの申告期限まで継続保有すること等が必要。
Aさんは実家を売却して銀行借入金の返済に充当したい希望があるが、特例適用には相続税の申告期限まで保有継続が必要となるため、すぐに売却する場合にはアパート敷地に特例適用が可能。
Aさんと姉Eさんは遺言書の内容に納得しているが、本特例適用による相続税負担の差異についても、税理士の協力を得て事前に確認し、場合によっては代償分割等の検討も提案する。
6. 空き家売却時の譲渡所得の特例
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、相続や遺贈で取得した被相続人の居住用住宅を、相続開始日から3年後(その年の12月31日)までに、売却額1億円以下で譲渡すると適用される。
特別控除の対象となる住宅は、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された一戸建てで、被相続人が1人暮らししていた物件。また、相続発生から譲渡まで事業・貸付・居住用に使われておらず、譲渡時に現在の耐震基準に適合していることが必要。
本問の場合、購入希望者は土地の購入を希望しているため、建物を取り壊して敷地を譲渡することで、特例適用により譲渡所得への課税負担を大幅に軽減可能。
なお、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(納付した相続税のうち一定額を取得費に加算)と併用できない。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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