2022年2月19日実技part1
2022年2月19日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(64歳)は、大学卒業後、米国のニューヨーク州に親会社がある外資系企業の日本法人に就職した。その後、20年間の親会社勤務を経て、現在は日本法人の役員を務めており、来年、退任する予定である。Aさんは、役員報酬の一部として、米国親会社株式を対象とするストック・オプション(税制非適格)を付与されているが、その権利を行使したときと取得した株式を売却したときにどのような課税がなされるのか知りたいと思っている。
Aさんには長男Cさん(34歳)と長女Dさん(26歳)の2人の子がいる。長男Cさんは東京都内の大手商社に勤務しており、会社借上げのマンションに妻と子の3人で暮らしている。以前から長男Cさんは、「将来のことを考えると、俺が父さんや母さんのそばで暮らしたほうがよいと思っている」と言っており、Aさんは、妻Bさん(60歳)と暮らしている自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男Cさん家族と同居する方法を検討している。また、自宅の敷地が大きいことから、その敷地内に長男Cさん家族のための新居を建ててあげてもよいとも考えている。Aさんは、建築資金を全額負担するつもりでいるが、二世帯住宅あるいは別棟の新居のどちらが望ましいのか、建物の名義は誰にするのがよいのかなど、判断がつかないでいる。
また、長女Dさんは、3年前に米国に渡り、現地の大学院に通っていたが、先日、現地で就職が決まったとの連絡があった。しばらくは日本に戻る予定はないようである。長女Dさんは、現在、Aさんが親会社勤務時代に購入し、ニューヨーク州に所有している賃貸アパート(一棟)の一室に無償で居住している。
Aさんは、来年の退任を機に、そろそろ将来の相続のことも考えて、遺言書の作成など、できることから準備を始めたいと思っているが、米国に所有している不動産が相続時にどのように取り扱われるのかなど、わからないことも多く、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
【Aさんの推定相続人】
妻Bさん(60歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(34歳):会社員。妻と子の3人で会社借上げのマンションに住んでいる。
長女Dさん(26歳):独身。米国にあるAさん所有の賃貸アパートに住んでいる。家賃は支払っていない。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 :1億円
2.有価証券:2,000万円
3.自宅
(1)土地(400u): 8,000万円
(2)建物(築15年): 2,000万円
4.米国賃貸アパート:6,000万円(年間収入約1,000万円)
合計:2億8,000万円
【親族関係図】
※Aさんの相続に係る相続税額は、約5,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
part1 ポイント解説
1. 相続税の軽減対策
(1) 生命保険の活用
(2) 小規模宅地の特例の活用
2. 遺産分割対策・資産承継対策
(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(3) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(4) 配偶者居住権の設定
3. 海外親会社株式のストックオプション(税制非適格)の権利行使時と売却時における課税
ストックオプションは、企業が役員や従業員に対して、あらかじめ定められた価額(権利行使価格)で自社株式を取得できる権利を付与する報酬制度であり、自社の業績を上げれば権利行使した際の株の市場価格も上昇している可能性が高いことから、役員・従業員へのインセンティブの一環として近年国内でも導入が進められている制度である。
●ストックオプションの権利行使時における課税
役員や従業員に対して、税制非適格のストックオプションが付与される場合、税制上は給与としてみなされるため、(権利行使日の終値−権利行使価格)×株数=株式のみなし益 に対して、所得税と住民税合わせて最大約55%の所得税率で課税されることになる。
ただし、税制適格ストックオプションの場合は、権利行使時には課税されず、売却時に譲渡所得として課税される。
●ストックオプションの売却時における課税
(売却価格−権利行使日の終値)×株数=株式の売却益 に対し、株式等の譲渡所得として税率20.315%の申告分離課税される。
ストックオプションの権利行使時と売却時における課税の取り扱いは、原則として上記の通りだが、ストックオプションの税制適格・非適格の扱いが権利付与時の国と権利行使時の国とで異なる場合や、ストックオプションの所有者が権利行使時や売却時に国内居住者・非居住者であるかどうかにより、国内と発行国とで二重課税される可能性がある。
よって、本問のストックオプション(税制非適格)が、日本においても米国においても税制非適格であるかどうか、また今後Aさんに米国居住予定があるかどうか等について、ストックオプション税制に詳しい税理士やAさんへの確認が必要と思われる。
なお、仮に日米ともに税制非適格で、権利行使時と売却時に国内居住者である場合には、権利行使時は二重課税されるものの、米国での課税分の一部については、日本で外国税額控除を受けることで二重課税を排除可能である。
4. 二世帯住宅と別棟の新居の選択、建物の名義の判断
小規模宅地の特例において、二世帯住宅については、内部が独立していても特定居住用宅地として適用可能であるため、将来Aさんに相続が発生した場合、長男が自宅敷地を相続する際も同居親族として特例適用対象となる。
これに対し、別棟の新居を建築した場合、同じ敷地内の建物であっても、同居親族とはみなされないため、長男が自宅敷地を相続する際は、建物がAさん名義であっても特例の適用対象外となってしまう。また、現在同居の妻が相続する場合には、配偶者として自宅敷地は特例の適用対象となるが、長男の新居については土地の名義は妻となり、将来の二次相続時に、長女との遺産分割におけるトラブルの原因となりかねない。
よって、相続税だけを考慮するならば、二世帯住宅とし、名義はすべてAさん名義としておくことを勧める(1階は父名義で2階は長男名義といった、区分所有登記が設定されていると小規模宅地の特例の適用対象外)。
なお、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度により、建築資金を長男に贈与することで相続税負担の軽減も可能だが、建築資金を全額負担して建築した後に、二世帯住宅の持分や別棟の新居を贈与した場合には、特例適用の対象外であることに注意が必要である。
5. 海外不動産の相続時の取り扱い
海外不動産の場合、国内不動産のように路線価が設定されていないことから、現地の不動産業者や専門家による鑑定評価が必要となるが、原則として時価評価となる。
また、米国の場合、不動産が単独所有の場合は裁判所介入の検認手続きが必要であるため、相続における手続きには大きな負担が発生する。ただし、単独所有ではない場合には、手続きの負担は軽減されるため、相続発生前から、現地専門家と推定相続人を交えて準備を進めておくことが必要である。
なお、小規模宅地の特例は、海外不動産も適用対象であるため、仮に将来自宅敷地に小規模宅地の特例を適用しない場合でも、米国賃貸アパートに適用できる可能性がある。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・事業承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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