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2022年6月5日実技part1

2022年6月5日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(65歳)は、地方中核都市で調剤薬局を営むX株式会社(非上場会社)の創業社長である。医薬分業の波に乗り、病院や診療所の近くでの出店を積極的に展開しながら、規模を拡大してきた。しかし、昨今は薬局の店舗数も飽和状態となり、調剤報酬・薬価の改定や薬剤師獲得競争の激化を受け、業績は伸び悩んでいる。
Aさんは、先行きの事業継続への不安から、事業承継問題の解決も考え、M&AによるX社の売却を決断し、M&A仲介業者に相談した。幸い、大手調剤薬局が市場シェア獲得のため積極的にM&Aを仕掛けているという業界環境も手伝い、すぐに複数社からの引合いがあった。Aさんは、そのなかから上場会社である大手調剤薬局チェーンのY社を譲渡先とし、基本合意書を締結のうえ、会計事務所と法律事務所によるデュー・ディリジェンス(買収監査)に入った。
また、Aさんは、M&Aに伴う自身の退職金とX社株式の譲渡代金の試算に加え、その後の資産承継対策についても、FPであるあなたから事前に概略の説明を受けていた。
ところが、デュー・ディリジェンスも完了する段になって、AさんとY社との間でM&Aに関する大きな見解の相違が生じた。両者の溝は最後まで埋まることはなく、基本合意を解消して破談する事態になってしまった。
X社の事業承継が振出しに戻ってしまい、気落ちしたAさんであったが、自身の年齢を考えると落胆してばかりもいられず、新たなM&Aを含めた事業承継の選択肢から検討し直すこととし、FPであるあなたと協議したいと考えている。
なお、Aさんには、離婚した前妻との間に長男Bさん(40歳)がおり、今でも定期的に交流を続けている。長男Bさんは大手商社に勤務し、子会社の社長として活躍している。また、X社は、地元では名が知られた存在で、毎年有能な人材も入社しており、複数の店舗を任せられる若手も育っている。

【Aさんの家族構成】
長男Bさん(40歳):前妻との間の子。大手商社の子会社で社長として活躍している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額)
1.現預金     : 2億1,000万円
2.有価証券    : 5,000万円
3.X社株式    : 2億2,000万円
4.自宅マンション : 3,000万円

合計 : 5億1,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億円と見積もられている。

【X社の概要】
資本金:2,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:60人
売上高:14億円 経常利益:5,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

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part1 ポイント解説

1. 相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 相続時精算課税制度の活用

3. M&Aの破談の要因として推測されるもの

M&Aにおける基本合意書とは、譲渡対象の範囲や金額等のM&Aの基本条件を合意するものであり、デューデリジェンス(買収監査)とは、会社や事業の価値の精査することである。
AさんはM&Aに伴う自身の退職金とX社株式の譲渡代金の試算について概略の説明を受けており、基本合意書を締結してデューデリジェンスの完了する段になってから破談していることから、破談の要因は企業価値評価や簿外債務の発覚、雇用継続問題に関するものではないと思われる。

一般に、大手企業による市場シェア獲得のためのM&Aでは、雇用は維持しつつも、経営効率化に向けて支店や店舗の統廃合を進めることが多い。X社は出店を積極的に展開しながら規模を拡大してきたが、昨今は薬局店舗の飽和状態により業績が伸び悩んでいることから、Y社が買収した場合、店舗数の整理を進めていく可能性がある。
しかし、Aさんにとっては地域の病院や診療所とともに、地域医療の一端を担ってきた経緯もある以上、買収後のY社の経営方針には同意できなかった可能性が考えられる。

(3)X社株式の相続税評価額とM&Aにおける譲渡価額
M&Aにおける譲渡価額は、将来の収益見込みや信用力等を評価する「のれん(営業権)」が上乗せされるため、一般的に相続税評価額より高くなる
また、相続税評価額については、相続税負担軽減のため、配当・利益・純資産の引下げにより評価額を抑える傾向にあることも多い。

4. M&AによるX社株式の譲渡代金と役員退職金の課税関係

株式譲渡によるM&Aでは、譲渡代金から必要経費を差し引いた額が株主個人の譲渡所得として、税率20.315%の申告分離課税となる。ただし、M&Aにおける譲渡価額は、将来の収益見込みや信用力等を評価する「のれん(営業権)」が上乗せされるため、一般的に相続税評価額より高くなる
また、相続税評価額については、相続税負担軽減のため、配当・利益・純資産の引下げにより評価額を抑える傾向にあることも多い。

また、M&Aに際してAさんが引退して役員退職金を支給する場合、役員退職金は、役員個人の退職所得として、退職所得=(退職収入−退職所得控除)×1/2 で計算され、所得税の超過累進税率に応じた分離課税となる。なお、退職所得控除額は、勤続年数が20年以下の期間は1年当たり40万円(最低80万円)、20年を超える期間は1年当たり70万円となる。

なお、会社が支払う役員退職金は、適正な額であれば、損金算入可能だが、役員退職金としての適正な損金算入額は、功績倍率方式の場合は役員最終給与月額×役員在任年数×功績倍率=役員退職慰労金となる(功績倍率の相場は一般に3.0倍まで)。

5. M&A破談後の事業承継対策

◆親族内承継
仮に長男Cさんが後継者となった場合、相続税対策を考慮すると非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)
ただし、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2023年3月31日まで(2022年4月以降は2024年3月31日まで)に特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要(株式の贈与は2027年12月31日までに実施)。
また、後継者は贈与時には役員就任期間が3年以上、相続発生時に役員であることが必要。
本問の場合、長男Cには承継の意思は薄いと思われるが、仮に承継する場合でも特例適用のために特例承継計画の提出の検討が必要。

◆親族外承継
従業員等への承継は、これまで事業に携わってきた従業員が経営陣の一員として株式を承継するため、先代経営者の引退後の経営体制を強化するメリットがあるが、株式を取得する従業員に資金力が必要となるデメリットがある。
なお、親族外承継の場合、後継者に事業の経営のみを承継し、現経営者一族は株主として引き続き残る方法と、経営だけでなく自社株式も承継する方法がある。
後継者に事業の経営のみを承継し、現経営者一族は株主として引き続き残る方法は、将来的に親族内に経営を戻したい場合に、一時的に親族外に経営を任せるために採用されることが多い。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や事業承継方法等に関する顧客の理解度を確認する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、「他社とのM&Aを検討している」という非常に取扱いに注意を要する事柄であることから、顧客の秘密漏洩を防止する「守秘義務」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】U 【FP1級】実技面接体験記2022.6.5 PART1

【note】MKラン FP1級実技試験 体験記【面接編】2022年6月5日 Part I

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