2022年6月5日実技part2
2022年6月5日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(70歳)は、東京都内の分譲マンションで妻(68歳)と2人で暮らしている。2021年8月にAさんの母親Bさんが死亡した。父親は7年前に死亡しており、相続人はAさんのみである。Aさんは、母親Bさんの自宅であるX建物および空き家であったY建物と、それぞれの敷地である甲土地を相続により取得し、相続税の申告・納税等の手続を完了した。
1人息子である長男Cさん(43歳)は、昨年、海外赴任から帰国し、甲土地のあるS市内の賃貸マンションで妻と子2人との4人で暮らしている。先日、Aさんは、長男Cさんから、S市内で住宅の取得を考えていると聞き、その援助をしてやりたいと思っている。
【Aさんが相続により取得した不動産の概況】
【1】甲土地:地積300u
:甲土地上にX建物とY建物があり、X建物の敷地部分は165u(55%)、Y建物の敷地部分は135u(45%)である。
【2】X建物:木造2階建ての戸建て住宅、延べ面積160u
:父親が1975年に新築した自宅で、7年前の父親の死亡後、母親Bさんが1人で暮らしていたが、母親Bさんは2018年1月から老人ホームに入居し、母親Bさんの相続開始直前において空き家となっていた。
:X建物内には両親の遺品が手付かずのまま残っている。
【3】Y建物:木造2階建ての戸建て住宅、延べ面積120u
:父親が1980年に新築し、当初はAさん家族が居住していたが、Aさんは、仕事の都合で、1998年に現在の分譲マンションを取得し、家族で転居した。
:Aさん家族の転居後、第三者に賃貸していたが、2020年3月に入居者が退去して以降、新たな募集はせず、空き家の状態のまま現在に至っている。
Aさんは、X建物・Y建物とも老朽化が進んでおり、近隣に迷惑をかけることを危惧している。地元の不動産業者に相談したところ、甲土地周辺は良好な住宅地として人気があり、現状有姿で、X建物の敷地部分は5,500万円、Y建物の敷地部分は4,500万円で売却できる見込みとのことである。
Aさんは、自身の年齢も考えて、甲土地に新たに賃貸物件を建築し、有効活用を図るつもりはない。また、長男Cさんが甲土地での新居を望むならば、X建物・Y建物のいずれかの敷地部分を売却し、その売却資金を元手として、もう一方の敷地に住宅を新築し、その敷地については相続で承継してもよいと思っている。なお、長男Cさんが希望する新築住宅の建築資金は3,500万円程度と見込まれる。
Aさんは、甲土地の一部の売却、長男Cさんへの住宅取得資金援助や資産承継の留意点について、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.X建物の敷地部分を売却した場合とY建物の敷地部分を売却した場合の課税関係をそれぞれ教えてください。
3.Aさんが長男Cさんに住宅取得資金を援助する場合、課税関係はどうなりますか。
4.Aさんの相続が開始したとき、長男Cさんの住宅を新築したX建物またはY建物の敷地部分の相続税評価額はどのように評価されますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地の概要】
(注1)甲土地の外周は塀で囲われているが、X建物とY建物の間に塀やネットフェンスはなく、甲土地内の往来は自由である。
(注2)門扉は、X建物とY建物それぞれに設置されている。
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
母親の自宅であったX建物には両親の遺品が手付かずのまま残っているため、特段の思い入れがあるか等、Aさんの希望を確認することが必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本問の場合、X・Y建物のいずれかの敷地を売却する場合を想定し、売却する土地・時期・金額等についてあらかじめ地元の不動産業者と接触して周辺事情を把握しておくことが必要。
2. X建物とY建物それぞれの敷地部分を売却した場合の課税関係
X建物の敷地部分を売却した場合、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用することで、税負担を軽減可能。
●空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除
相続や遺贈で取得した被相続人の居住用住宅を、相続開始日から3年後(その年の12月31日)までに、売却額1億円以下で譲渡すると適用され、特別控除の対象となる住宅は、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された一戸建てで、被相続人が1人暮らししていた物件。
Y建物の敷地部分を売却した場合、賃貸住宅を買い換える予定がないため、事業用資産の買換え特例の対象外であることから、単純売却として所有期間5年超の長期譲渡所得(所得税15.315%・住民税5%)として課税されることになる。
Aさんに特段の思い入れが無いのであれば、X建物敷地部分を売却する方が売却額も高く、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用することで税務上も有利といえる。
3. 長男に住宅取得資金を援助する場合の課税関係
長男に住宅取得資金を援助する場合、暦年贈与・相続時精算課税・直系尊属からの住宅取得資金贈与により資金援助することが可能。
暦年贈与の場合、贈与税の基礎控除額110万円までは贈与税がかからず、20歳以上の子・孫が直系尊属から受けた贈与財産は特例贈与財産として、贈与税の税率と控除が優遇される。
また、相続時精算課税の適用を受けると、特別控除2,500万円までの贈与には贈与税がかからず、2,500万円を超える部分については一律20%で課税される。
ただし、相続時精算課税は、同じ贈与者からの贈与については、贈与税の暦年課税の基礎控除110万円と併用できない。
なお、直系尊属からの住宅取得資金贈与は、父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、取得する住宅が省エネ等住宅の場合は1,000万円、省エネ等住宅以外の場合は500万円まで非課税となる。
4. Aさんの相続開始時における、長男の住宅を新築したX建物またはY建物の敷地部分の相続税評価額
地代を取らない使用貸借や、固定資産税程度の地代で借り受けた土地に、自宅を建築している場合、相続税評価額は、自用地となる。
使用貸借は地代を取らないため、土地の使用権は経済的価値が極めて低いと考えられ、相続税評価上はゼロと考えられるためであり、地代の支払いが固定資産税程度であれば、土地の使用貸借とみなされる(借地権の価値ゼロ)。
なお、相当の地代を支払って自宅を建築する場合には、相続税評価額は貸宅地として借地権分だけ低く評価される。
5. 関与すべき専門職業家
甲土地を分割して売却する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、不動産所得の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、分割後の不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
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