2022年6月11日実技part2
2022年6月11日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(68歳)は、三大都市圏近郊のS市内で代々農業を営み、自宅で妻と長男家族との6人で暮らしている。Aさんは、自宅と農地のほかに、S市内に相続で引き継いだ甲土地(地積1,156u、地目:山林)を所有している。
【甲土地の現況】
甲土地は、S駅から徒歩圏内の住宅街にある平坦な林地(道路と等高)で、雑木がまばらに生えている未利用地である。甲土地の周辺は、敷地130〜150uほどの住宅が立ち並ぶ良好な住宅地であり、近年未利用地が開発され、建売住宅の供給が増えている。
甲土地の北側に位置する乙土地(地積1,343u、地目:山林)は、昨年同じ町内に住むBさんが相続で取得し、納税資金の調達のため売りに出していたが、最近売れたとの噂を聞いた。
先日、Bさんから直接聞いた話では、買手が数社競合し、最も高い価格を提示した市内の建売業者X社に10万円/uで売却したとのことで、周辺の住宅地の相場20万円/uの半値だったとぼやいていた。乙土地はこれまでたびたび切り売りされてきており、土地が虫食い状態であったことが価格に影響したのではないかとのことだった。
【X社からの申出】
その数日後、AさんのもとにX社の社員が来訪し、「弊社は乙土地を建売用の素地として購入しました。ここで建売事業を計画していますが、可能であれば甲土地も一緒に事業化したいと考えています。ぜひ甲土地を譲ってもらえないでしょうか。価格は路線価と同じ16万円/u(乙土地の価格の1.6倍)とさせていただきます」との申出があった。Aさんは、家族と相談し、現時点では売却の意思がない旨を伝え、丁重にお断りした。
しかし、その後、X社の社員が再び来訪し、「それでは甲土地の北側部分344u(5m×68m+隅切り4u)だけでも譲ってもらえないでしょうか。価格は先日と同じく16万円/uとさせていただきます。購入した土地は幅員5mの開発道路として整備し、完了後S市に帰属し、市道になります。甲土地の残る部分は新設道路に全面的に接することになりますので、Aさんにとってもよい話だと思います。いかがでしょうか」との新たな申出があった。
Aさんは、譲った土地が整備された市道になるのであれば、残った甲土地の利用価値が上がり、将来、有効活用を図りやすくなるし、16万円/uという条件面も気に入っている。しかし、なぜX社が整備して結局はS市に帰属することになる道路用地をそのような条件でも購入したいのかがよくわからない。
そこで、Aさんは、今回のX社による開発計画や甲土地の売却について、FPであるあなたにアドバイスを求めることにした。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.X社が、乙土地の購入価格の1.6倍の価格(単価)を提示してまで道路予定地の甲土地の北側部分を購入したい理由として、どのようなことが考えられますか。
3.X社からの申出について、あなたはAさんにどのようなアドバイスをしますか。X社の申出を受ける場合、Aさんにどのようなデメリットがありますか。
4.甲土地の北側部分(道路予定地)を売却した場合の課税関係はどうなりますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【X社による乙土地単独の開発計画】
【X社によるAさんが道路用地を提供した場合の開発計画】
(注1)第一種低層住居専用地域、指定建蔽率50%、指定容積率100%、普通住宅地区
(注2)S市開発指導要綱により、区画街路幅員は5mで可。
(注3)消火栓設置により防火水槽の設置は不要。
(注4)電気、都市ガス、公営水道、公営下水あり。引き込み可。
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、当初甲土地全体の売却を断った理由について、家族との相談内容も踏まえて確認することが必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本件の場合、特に不動産開発業者から提示された売却価格の妥当性について、不動産業者等の協力を仰ぎながら確認することが必要。
2. X社が甲土地の北側部分を購入したい理由
甲土地の周辺地域の宅地開発が、標準面積130u〜150u程度の区画で進められていることから、]社も乙土地を同程度の区画で造成しようとしていると考えられる。
このため、乙土地単独の開発計画では土地の中央部分を道路とすることで、各区画の接道義務と、開発許可基準を満たす必要に迫られていると考えられる。
(市街化区域では、500u以上の土地の場合、都道府県知事による開発許可が必要になるが、政令により前面道路の幅員等に規制が定められている。)
ここで、甲土地の北側部分を道路とすると、各区画の接道義務と開発許可基準を満たしつつ、総区画数を7区画から9区画に増やし、各区画の平均面積も141.57uから148.33uに増やすことが可能。
これにより、S市に帰属することになる道路用地として、甲土地北側を乙土地の1.6倍の価格で購入したとしても、販売区画と面積を増やすことで採算が取れると判断していると思われる。
3. X社からの申出に対するアドバイスとデメリット
◆メリット
X社による道路造成により、Aさんは3つの道路に面した整形地を入手することができるため、今後の土地の有効活用や売却がしやすくなる。
また、土地の評価額についても、3つの道路に面しているため、三方路線影響加算率により交換前よりも増額評価となる可能性がある(売却の際は有利)。
三方路線影響加算率:複数の路線に面している宅地の方が利用しやすいため、評価額を調整するために定められており、側方路線影響加算率と二方路線影響加算率を用いて算定する。
また、周辺と同様の宅地造成をする場合も、12m×12m=144u程度の整形地としての6区画を造成可能であり、今後の土地の有効活用がしやすいと思われる。
◆デメリット
X社による道路造成により、甲土地は地積規模の大きな宅地としての相続税評価からは外れてしまう可能性があり、相続発生の際は、地積規模の大きな宅地としての評価額よりも大幅な増額評価となり相続税の負担が増加する。
地積規模の大きな宅地とは、土地面積が広すぎて道路や公園等の公共公益的施設の設置が必要となる宅地のことで、そのままでは土地活用が難しいことから、三大都市圏では500u以上、三大都市圏以外の地域では1,000u以上の宅地について、規定された規模格差補正率により減額評価される(路線価地域では、普通商業・併用住宅地区と普通住宅地区が適用対象)。
※普通商業・併用住宅地区や普通住宅地区とは、相続税評価における地区区分で、このほかビル街や繁華街といった宅地の目的別の区分により、相続税評価の補正率を定めている。
本問の場合、甲土地は地積1,156uと広大な土地であるため、地積規模の大きな宅地として減額評価を受けられる可能性がある。
◆顧客へのアドバイス
土地活用の面からは、X社の提案はAさんにもメリットの大きいものであると思われ、Aさんもその後の土地活用に意欲的であることから、基本的にはX社の申し出を受けることを提案する。
ただし、X社の申し出を受けるか否かで相続税評価額が大きく異なる可能性があるため、現時点では、他の相続財産の状況や家族の意向も確認し、相続税対策も踏まえて検討していくことを提案する。
4. 甲土地の北側部分(道路予定地)を売却した場合の課税関係
優良住宅地の造成等のための土地等の譲渡所得については、優良住宅用地の特例により、譲渡所得2,000万円以下は所得税10%・住民税4%、2,000万円超は所得税15%・住民税5%の軽減税率が適用される(復興特別所得税を除く)。
※復興特別所得税は、所得税額の2.1%
優良住宅用地の特例の適用対象となる譲渡・資産については複数のパターンがあるが、その中に「都市計画法の開発許可を受けて行う面積が原則として1,000u以上の一団の住宅地造成の用に供するための土地等の譲渡」があるため、本問の乙土地1,343uと甲土地北側部分を含めた宅地造成は、優良住宅用地の特例の適用対象となる可能性がある。
5. 関与すべき専門職業家
甲土地を分割して売却する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、譲渡所得の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、分割後の不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
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