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2022年6月12日実技part1

2022年6月12日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(72歳)は、自動車部品製造業を営むX株式会社の代表取締役社長である。X社は、Aさんが40年前に創業して以来、自動車産業の隆盛とともに成長してきた。X社の余剰資金は5億円以上あり、経営は安定している。しかし、自動車業界がCASEに代表される100年に一度の大変革に直面するなか、Aさんはこれまでどおりの事業を維持していくことができるのか強い危機感を抱いている。

【事業承継について】
Aさんは、自身の年齢のことも考え、そろそろ後進に道を譲るつもりでいる。後継者として5年前にX社に入社した長男Cさん(45歳)は、取締役工場長として懸命に打ち込む姿勢から社内の人望も厚く、次期経営者として申し分ない。ただ、Aさんは、中長期的には事業縮小や業態転換、M&Aなど、あらゆる選択肢を検討すべきと考えている。なお、顧問税理士によれば、Aさんの退任時、2億円程度の役員退職金が支給可能とのことである。
X社株式は、現在、Aさんが90%所有しており、これをどのように長男Cさんに移転させるかが大きな課題となっている。また、Aさんの弟Eさんが残りの10%を所有している。弟Eさんは、X社の取締役管理部長であるが、Aさんの退任とともに自身も身を引くつもりであり、その際には、所有しているX社株式を買い取ってほしいとのことである。

【資産承継について】
Aさんは、自宅兼賃貸ビルを、現在一緒に暮らしている妻Bさん(70歳)に相続させるつもりである。また、長女Dさん(42歳)からは、X社の経営には興味はないが、将来的には現在遊休地となっているX社所有の土地(時価1億5,000万円、含み損5,000万円)をもらいたいと言われており、Aさんはこれに応じるつもりである。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金  : 1億4,000万円(役員退職金は考慮していない)
2.X社株式 : 2億7,000万円
3.自宅兼賃貸ビル
 (1)土地(360u)  : 9,000万円
 (2)建物(3階建て) : 6,000万円(1・2階賃貸、3階住居、各階同一面積)

合計 : 5億6,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億6,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【X社の概要】
資本金:3,000万円 会社規模:大会社 従業員数:90人
売上高:20億円 経常利益:8,000万円 純資産 :6億円
株主構成(発行済株式総数6万株):Aさん90%、弟Eさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

【Aさんの推定相続人】
妻Bさん(70歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):X社の取締役工場長。妻と2人の子の4人で持家に住んでいる。
長女Dさん(42歳):専業主婦。これまでX社の経営に関与したことはない。会社員の夫と2人の子の4人で賃貸マンションに住んでいる。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討

3. 事業承継税制の特例の活用の留意点

X社株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)

ただし、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2024年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要(株式の贈与は2027年12月31日までに実施)。
なお、後継者は贈与時には役員就任期間が3年以上、相続発生時に役員であることが必要。

本問の場合、長男には資質に問題はないことから、早めに特例適用の準備を進めていくことを提案する。

ただし、Aさんは「中長期的には事業縮小や業態転換、M&Aなど、あらゆる選択肢を検討すべき」としており、事業承継税制適用後にM&Aや事業縮小・業態転換等を行った場合には注意が必要。

事業承継税制の特例を活用後、M&A等による納税猶予された株式の譲渡や合併による会社消滅、会社の解散が発生した場合、特例適用後5年以内は一部譲渡でも猶予打ち切り、5年経過後は譲渡分のみ猶予打ち切りとなり、猶予税額の全部または一部と利子税の納付が必要となる。
よって、後継者である長男Cさんは、役員給与や役員退職金の増額を社内規定で定めることで、将来発生する猶予税額の納付に備えておくことが必要である。

また、弟所有分の10%についても、将来弟の相続発生により株式が散逸する可能性があるため、経常利益が順調なX社が金庫株として買い取ることが望ましい。

4. 相続人間の平等な相続方法

長男は遺産の大部分を占めるX社株式を受け取ることになるため、妻と長女の相続配分を検討することが必要になる。

妻Bさんについては、Aさんの相続発生後も確実な住まいと収入源の確保のため、現預金と自宅兼賃貸ビルを相続させる。
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地や特定同族会社事業用宅地等で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。

また、住宅の購入希望がある長女Dさんには、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度や教育資金贈与の非課税制度により計画的に生前贈与を実施し、相続時には現在遊休地となっているX社所有の土地を相続させることで、円滑な資産承継ができるようにする。
なお、遊休地となっているX社所有の土地については、X社が2億円程度の役員退職金を支給可能な財務状態であることから、土地を役員退職金として現物支給することで、X社は含み損を顕在化し類似業種比準価額を引き下げることができる(類似業種比準価額は簿価計算するため)。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

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