2022年9月25日実技part2
2022年9月25日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(77歳)と妻Bさん(80歳)は、大都市圏郊外のK市内にある甲土地(地積約200u)上の甲建物に2人で暮らしている。Aさんは再婚で、妻Bさんとの間に子はいないが、先妻との間に子Cさん(44歳)がいる。甲建物は、Aさんの両親と一緒に暮らすため、1990年にAさんと妻Bさんが各2分の1の共有持分で建築した戸建て住宅(木造2階建て、延べ面積170u、5LDK)である。
妻Bさんは一昨年にがんを患い、手術後、自宅で療養していたが、足腰もだいぶ弱くなり、2階建ての甲建物に住みづらさを感じるようになった。また、Aさんも、庭の手入れや広い建物の管理を負担に感じていた。そこで、Aさんは、自宅を売却し、妻Bさんと有料老人ホームに入居することを考えた。まずK市を中心に建売事業を行っている不動産会社X社の社長に相談したところ、「この辺りは人気の住宅エリアではありますが、甲土地は袋地(旗竿地)ですので、思った値段では売れないかもしれません。ただ、ちょうど弊社では、甲土地の南側にある乙土地を今年度内に購入する予定になっています。乙土地と合わせて事業化できるのであれば、他よりも高く購入できると思います。今年に入ってからさまざまなコストアップ要因が重なって建築費が高騰していますが、弊社は資材を先行して確保してありますので影響は少ないです」とのことであった。
その後、X社から満足のいく価格を提示されたAさんは、自宅をX社に売却することにし、今年度内に契約することを前提に、有料老人ホームの資料を取り寄せ、具体的な検討を始めた。しかし、その矢先、妻Bさんの容体が急変し、寝たきりに近い状態になってしまった。医者の話では、がんの転移が確認され、進行具合から手術はもう無理だとのことである。なお、妻Bさんには2人の姉がおり、妻Bさんの郷里で暮らしているが、ここ数十年交流はなく、疎遠になっている。また、妻Bさんは子Cさんと養子縁組をしていない。
【妻Bさんの所有財産の概要(相続税評価額)】
・金融資産:約2,200万円(現預金、株式、生命保険等)
・甲土地 :約1,800万円(1/2の持分相当)、2015年にAさんから贈与により取得
・甲建物 : 約100万円(1/2の持分相当)、1990年にAさんと共有で建築
Aさんは、X社の社長に事情を説明し、売却の話はいったん白紙にしてもらうようお願いしたところ、「わかりました。それでは来年3月まで様子を見てから決めましょう。ただ、売買に向けては、万一に備えて遺言書を作成しておいたほうがよいのではないでしょうか」と言われた。Aさんは、遺言書がないとどのようなことが問題になるのかよくわからない。
妻Bさんにその話をすると、「あなたに全部相続させる旨の遺言書を書くので準備してください」と気丈に言い出した。しかし、妻Bさんの意識はしっかりしているものの、体の衰弱が激しく、ペンを握ることも難しくなっている。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.遺言書がないと売買契約にあたってどのような問題が生じる可能性がありますか。
3.遺言書にはどのような種類がありますか。妻Bさんは作成可能ですか。
4.建築費に関する最近のコストアップ要因にはどのようなものが考えられますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【Aさんの自宅(甲土地、甲建物)の概要】
【Aさん、妻Bさんの親族関係図】
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物の売却に関し、土地・建物の譲渡所得は、土地や建物を売った金額から、取得費と譲渡費用の合計額を差し引いて計算ことから、当時の取得費の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、当初の予定と異なり、妻Bさんとともに有料老人ホームに入らずに甲土地・建物への居住を継続するとした場合、今後のライフプランやその資金計画等についても確認が必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本問の場合、甲土地・建物を売却する場合を想定し、売却する時期・金額等についてあらかじめ不動産業者Xと接触して周辺事情を把握しておくことが必要。
2. 売買契約にあたって遺言書がないと発生する可能性のある問題
配偶者は常に法定相続人となり、それ以外の親族は、子・直系尊属・兄弟姉妹の順に、先の順位者がいない場合に、法定相続人となる。
また、養子縁組すると、養親と養子、養子と養親の血族の間に法定血族関係が生じるが、本問の場合妻Bさんは子Cさんと養子縁組をしていないため、妻Bさんの法定相続人は、Aさんと2人の姉の計3人となる。
従って遺言が無い状態で妻Bさんの相続が発生した場合、妻Bさんの甲土地・建物の持分については、Aさんと2人の姉の共有不動産となってしまう。
共有持分となっている不動産について、持分だけの売却や抵当権設定は可能であるが、購入側としては土地・建物の持分の一部だけを取得しても、土地開発には支障があるため、納得できる売却額とならないか、もしくは売買自体が成立しない可能性が高くなる。
従って、妻Bさんの甲土地・建物の持分について、全てAさんに相続させる旨の遺言書を作成しておくことや、子Cさんとの養子縁組をしておくことが必要となる。
3. 遺言書の種類と妻Bさんによる作成可否
普通方式による遺言は、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類がある。
なお、普通方式の他には特別方式の遺言があり、遭難や死に瀕しているときなど、普通方式での遺言が難しい場合に認められ、口頭でも認められる場合がある。
自筆証書遺言の成立要件は、遺言者が、遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印することだが、自筆証書遺言書の保管者や、発見した相続人は、遺言者の死亡後、遅滞なく家庭裁判所に提出して、検認を請求する必要がある。
なお、自筆証書遺言の財産目録についてはパソコン作成や代筆、通帳のコピー添付も可能(遺言本文は手書き)だが、偽造・変造の可能性が高くなるため、目録のページごとに遺言者の署名と押印が必要。
また、法務局に保管した自筆証書遺言は、公正証書遺言と同様に検認不要となる。
公正証書遺言とは、公証人役場で証人2名以上の立会いのもと、公正証書で遺言を作成することで、変造・偽造の恐れがないことから、家庭裁判所での検認が不要。また、公証人は、遺言者の口述を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせて作成する。
秘密証書遺言とは、遺言者がその証書に署名・押印し、これを封じて作成する(公証役場で2以上の証人の立会いのもと、記録を残すことが必要)ものだが、遺言者の相続開始後に家庭裁判所での検認が必要。なお、秘密証書遺言は遺言全文を自筆で書く必要がなく、パソコンで遺言書を作成することや、他の人による代筆も可能である。
本問の場合、妻Bさんの意識はしっかりしているものの、体の衰弱が激しく、ペンを握ることも難しくなっていることから、遺言内容を公証人に口授するだけでよい公正証書遺言が適切と思われる。なお、公正証書遺言の作成の際、公証人に自宅や病院などに出張してもらうことも可能。
4. 建築費に関する最近のコストアップ要因
昨今の建築費のコストアップについては、複数の要因が考えられる。
●コロナ禍からの需要回復に伴う需給の逼迫
新型コロナウィルスの感染拡大により、リモートワークが普及した結果、郊外で新築住宅を購入する動きが加速し、建築資材の需要が急増している。
半面、コロナ禍による労働者の減少から、木材の伐採が進まず、供給が需要に追い付いていないことも要因の一つといえる。
●ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油等の資源価格の高騰
ロシアのウクライナ侵攻に伴う欧米の経済制裁により、原油やガスをロシア産から他国産に切り替える動きが活発となった結果、それらの資源需要が急増し、価格が高騰している。その結果、建築資材の輸送コストにも反映されるため、コストアップ要因となっている。
●急激な円安の進行
コロナ禍における財政出動により急激なインフレを抑えるため、欧米の中央銀行による金利引き上げが続いた結果、金融緩和を継続していた日本円の為替レートが急激に円安方向に振れたため、海外からの建築資材の輸入価格が高騰している。
5. 関与すべき専門職業家
甲土地・建物を売却する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、不動産所得の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
また、本問では遺言と養子縁組が重要な要素であるため、相続に係る遺言や養子縁組については弁護士が適当。
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