2022年10月1日実技part2
2022年10月1日実技part2
part2 問題文
●設 例●
都内の会社に勤務しているAさん(56歳)は、首都圏近郊のK市内にある甲土地上の戸建て住宅に妻Dさん(55歳)と母親Bさん(84歳)との3人で暮らしている。1人息子である長男Eさん(30歳)は、都内の賃貸マンションに暮らし、都内で居酒屋を経営している。
Aさんの家は代々農家であったが、父親が亡くなった10年前に農業を廃業し、乙土地以外の農地はすべて処分した。この際、Aさんの家は農業委員会が管理する農地基本台帳(現農地台帳)から削除され、農地を取得できる、いわゆる農家資格を喪失している。
甲土地(地積1,152u、地目:宅地)と乙土地(地積960u、地目:畑)は、現在、Aさん、母親Bさん、姉Cさん(58歳)の3人で所有している(<資料1>参照)。なお、もともと甲−2部分(地積576u)には実家があったが、父親の死亡後に取り壊し、Aさんが甲−1部分(地積288u)に、姉Cさんが甲−3部分(地積288u)にそれぞれ自宅を建てて居住している。また、乙土地では、母親Bさんが野菜を栽培しており、Aさん、姉Cさんも休みを利用して野菜作りを手伝っているが、自家用であり、いずれもいわゆる農業従事者ではない。
先日、Aさんのもとに、M銀行から、8年前にAさんと締結している債務保証契約に基づき、現在債務不履行となっている長男Eさんの会社の借入金残額および未払利息等の合計4,000万円を早急に支払うようにという債務履行請求が届いた。驚いたAさんが長男Eさんに連絡したところ、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて会社の経営が破綻し、会社・個人ともに返済が不可能となり、会社の破産および長男Eさん自身の自己破産を考えてい
るとのことである。事情を理解したAさんは、保証債務を履行して借入金を肩代わりするつもりだが、手元資金が少ないため、土地の一部を売却して返済資金を捻出することにした。
母親Bさん、姉Cさんとの相談の結果、共有物の分割によって乙土地の共有関係を解消し、<資料2>のように、Aさんが乙−2部分(地積240u)を、母親Bさんが乙−1部分(地積720u)を、姉Cさんが甲−5部分(地積240u)をそれぞれ単独所有とし、Aさんが乙−2部分を売却することで合意した。乙−2部分について地元の不動産業者に尋ねたところ、「今は建売業者が仕入れを強化しており、4,300万円程度で売却できると思います。ただ、地目が畑になっているので、現状のままでは農地法第3条の許可が必要となる共有物の分割は難しいと思います」とのことである。
なお、母親Bさんは、3年前に転倒して大腿骨を骨折して以来、野菜作りの作業に負担を感じており、これを機に乙土地での野菜作りをやめようかと考えている。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.現時点で乙−2部分をAさんの単独所有とするには、どのような方法がありますか。
3.現時点で甲−5部分を姉Cさんの単独所有とするには、どのような方法がありますか。
4.Aさんが乙−2部分を売却した場合の課税関係はどうなりますか。
5.Aさんの意向を踏まえ、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。
6.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
<資料1>甲土地・乙土地の現況図
<資料2>Aさん、母親Bさん、姉Cさんの分割希望図
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、長男Eさんの会社と締結している債務保証契約や、会社の経営・財務状況についても、長男Eさんに詳細を確認してもらうことが必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本件の場合、特に地元の不動産業者から提示された売却価格の妥当性について、不動産業者等の協力を仰ぎながら確認することが必要。
2. 現時点で乙−2部分をAさんの単独所有とする方法
共有している農地を持分割合に応じて分筆すれば、共有名義を解消可能だが、共有農地の分割は農地としての権利移動のみであり、農地法第3条の許可が必要(分筆後も農地のまま利用、権利取得者は農業従事者)。
本問の場合、母親Bさんも農家資格を喪失しており、Aさんや姉Cさんも農業従事者ではないことから、農地法第3条の許可を得て乙土地を分筆することが難しく、このままでは乙−2部分の単独所有は難しい。
農地を農地以外(建物敷地、駐車場、資材置場等)に転用する場合は、面積の大小にかかわらず、事前に農地法第4条(自ら転用)または第5条(他者への売買・賃貸等)の規定による農地転用の許可や届出が必要。
農地が市街化調整区域等にある場合は農業委員会や国・都道府県の許可となり、市街化区域にある場合は農業委員会への届出となる。
本問の場合、乙部分は市街化区域にあるため、農地法第4条における農業委員会への届出により、農地以外への転用が可能。
3. 現時点で甲−5部分を姉Cさんの単独所有とする方法
姉Cさんは、乙土地の持分1/4の代わりに、甲−5を取得することになるため、固定資産の交換の特例を適用することで、譲渡所得の負担を抑えながら甲−5を単独所有することが可能。
固定資産の交換の特例は、土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときは、譲渡がなかったものとする特例(土地と借地権の交換も適用対象)。
固定資産の交換の特例では、交換で譲渡する資産と取得する資産は、いずれも1年以上保有していたものであることが必要。
また、固定資産の交換の特例では、互いの交換する固定資産の差額が、時価の高い方の固定資産の20%以内であることが必要。
なお、固定資産の交換の特例では、資産の一部分は交換・他の部分は売買とした場合、実態としてはその資産全体を売買代金とともに交換していることになるため、売買代金を交換差金等として、交換の特例の適否を判定する(高い方の20%以内か)。
本問の場合、乙土地の持分1/4の評価額と甲−5の評価額は以下の通り。
乙土地の持分1/4:150千円/u×960u×1/4=3,600万円
甲−5:150千円/u×240u=3,600万円
よって時価評価での算定ではないものの、同額の評価額の固定資産の交換となるため、固定資産の交換の特例により譲渡所得税負担無しで甲−5を単独所有することが可能と思われる。
4. Aさんが乙−2部分を売却した場合の課税関係
土地・建物の譲渡所得は、所有期間5年以内の短期譲渡所得(所得税30.63%・住民税9%)と、所有期間5年超の長期譲渡所得(所得税15.315%・住民税5%)の2種類があり、税額は各課税所得にそれぞれの税率を乗じて求める(復興特別所得税を含む)。
また、贈与・相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐため、所有期間を判定する際の取得日は、被相続人が取得した日となる。
ただし、保証債務の履行に伴う譲渡所得の特例を適用することで、譲渡所得税負担を抑えることが可能。
保証債務の履行に伴う譲渡所得の特例は、保証人や連帯保証人等として債務を弁済するために土地・建物等を譲渡した場合、譲渡所得がなかったものとする特例(本来の債務者に弁済能力がある場合は適用対象外)。
本問の場合、本来の債務者である長男Eさんの会社・個人ともに破産を検討している段階であるため、Aさんが保証債務を履行するために乙−2部分を売却した場合、特例適用により譲渡所得がなかったものとすることが可能と思われる。
5. Aさんの意向を踏まえたアドバイス
乙土地の現況による地目は「畑」となっているが、農地以外への転用の届出後は農地法の規制対象外となるため、分筆手続きにより乙−2部分をAさん単独所有とすることが可能と思われる。
母親Bさんは野菜作りの作業に負担を感じており、乙土地での野菜作りをやめようかと考えていることから、乙土地全体の農地の転用続きをすることで、乙土地の共有名義の解消が図れる。
なお、乙土地を農地以外に転用する場合、乙−2部分は今後建売業者が購入して宅地とする可能性が高いが、乙−1部分は引き続き母Bさんが所有継続することから、転用を届け出る際は地目を「雑種地」(駐車場、資材置き場等が該当)に変更しておくことが必要となる。
6. 関与すべき専門職業家
乙土地を分割して売却する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、譲渡所得の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、分割後の不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
◆この試験問題の公開体験談
ささくれモンブランの保険とか雑記とか 【FP1級実技面接体験記Part2】農地は予想してたの。でもあなたじゃないの。
FP対策講座
<FP対策通信講座>
●LECのFP講座(キーワード検索欄で「1級」と検索) ⇒ FP(ファイナンシャル・プランナー)サイトはこちら
●1級FP技能士(学科試験対策)のWEB講座 ⇒ 1級FP技能士資格対策講座(資格対策ドットコム)
●通勤中に音声学習するなら ⇒ FP 通勤講座
●社労士・宅建・中小企業診断士等も受けるなら ⇒ 月額定額サービス【ウケホーダイ】