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2023年2月11日実技part1

2023年2月11日実技part1

part1 問題文

●設 例●
Aさん(72歳)は、祖父が創業したX株式会社(非上場会社・電気機械器具製造業)の3代目社長であったが、7年前の2016年4月、社長職を長男Cさん(47歳)に譲り、現在は相談役としてX社に在籍している。Aさんが100%所有していたX社株式のうち、80%を長男Cさんに事業承継税制(一般措置、暦年課税)を活用して贈与し、贈与したX社株式の価額は6,000万円、納税猶予された贈与税額は約2,000万円であった。
X社の業績は低調に推移していたが、近年、主力商品である業務用空気清浄機がコロナ禍を背景に受注量を伸ばし、業績は急拡大した。X社株式の価額も、7年前の価額の6倍近くに達している。
そのような折、X社を買い取りたいという会社が現れたとの話が取引先金融機関から持ち込まれた。長男Cさんは、現在の好調な業績は一時のことであって、会社を売却するなら今がいいタイミングかもしれないと感じている。ただ、X社株式を売却した場合、納税が猶予されている税額はどのようになるのか気になっている。

【資産承継について】
Aさんの推定相続人は、妻Bさん(72歳)、長男Cさん、長女Dさん(42歳)の3人である。
Aさんは、父親の相続により取得した自宅で妻Bさん、長男Cさん家族と同居しているが、自宅は築50年を経過して老朽化が進んでいることから、近いうちに二世帯住宅に建て替える計画がある。Aさんは、二世帯住宅の建築資金の全額(5,000万円)を負担するつもりでいるが、将来の相続を踏まえ、建替え後の建物名義の一部を長男Cさん名義にするためにはどのようにすればよいのか知りたいと思っている。
長女Dさんは、10年前に米国人と結婚し、米国籍を取得して米国で暮らしている。日本に戻ってくる予定はない。Aさんは、子2人の仲は悪くないと感じているものの、相続が起こった際に遺産分割でもめることのないように、何らかの準備はしておきたいと思っている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 9,000万円
2.X社株式 : 9,000万円
3.自宅
 (1)土地(400u) : 4,000万円
 (2)建物(築50年) : 300万円
4.賃貸物件
 (1)土地(200u) : 8,000万円
 (2)建物(築15年) : 1,200万円(年間収入約720万円)

合計 : 3億1,500万円
※Aさんの相続に係る相続税額(3億1,500万円に基づいて計算)は、約6,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
※賃貸物件は、父親から相続した都内にある物件で、味の良さとアンティックな雰囲気で人気のあるレストランに父親の代から賃貸している。
※Aさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者をAさん、死亡保険金受取人を妻Bさんとする生命保険(死亡保険金額3,000万円)に加入している。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の確保、相続税の軽減対策

(1) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(2) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(3) 小規模宅地の特例の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度の活用・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 生命保険を用いた長女への代償分割

3. 事業承継税制の特例(一般措置)の特徴と留意点

事業承継税制の特例(一般措置)では、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、後継者が贈与・相続前から保有していたものを含めて発行済議決権株式の3分の2までを上限に、贈与税は全額・相続税は80%まで納税猶予される。

ただし、特例適用後の5年間は、贈与・相続時の雇用(役員を除いた健保・厚生年金加入対象者)を8割以上維持する必要がある。

また、納税猶予の適用を受けた自社株式をM&Aにより売却した場合、納税猶予を受けた贈与税・相続税全額と利子税を併せて納付することが必要となる。

4. 二世帯住宅の建物名義の一部を長男Cさん名義にする方法

直系尊属からの住宅取得資金の贈与の非課税限度額は、受贈者ごとに、取得する住宅が省エネ等住宅の場合は1,000万円、省エネ等住宅以外の場合は500万円となる。また、直系尊属からの住宅取得資金の贈与の非課税は、贈与税の暦年課税の基礎控除110万円、相続時精算課税に係る贈与税の特別控除2,500万円のいずれとも併用可能。
また、二世帯住宅を親と子の共有登記とする場合、取得する住宅に親の持分が含まれていたとしても、贈与を受ける子の居住部分が全体の床面積の2分の1以上であれば、直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税の適用対象となる。
これに対し、親と子の区分登記とした場合には、子の取得部分のみ直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税の適用対象となる。

従って、二世帯住宅の建築資金5,000万円のうち半分以上を非課税制度や相続時精算課税を適用しながら、長男名義にすることが可能と思われる。

なお、小規模宅地の特例は、二世帯住宅については内部が独立していても適用可能であり、またそれぞれの持分を共有登記した場合には、敷地全てに適用されるが、それぞれの居住部分を区分建物所有登記し、親子が別生計の場合には、敷地全てについて特例が適用されないため、二世帯住宅建築後の登記時には注意が必要。

また、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度により、建築資金を長男に贈与することで相続税負担の軽減も可能だが、建築資金を全額負担して建築した後に、二世帯住宅の持分を贈与した場合には、特例適用の対象外であることに注意が必要である。

5. 米国籍の長女Dさんに配慮した遺産分割対策

相続開始時までに日本国内に10年以内に住所がある人から、相続・遺贈によって財産を取得した場合は、相続人の国籍・住所や、相続した財産の国内外を問わず、取得した財産はすべて相続税の課税対象となり、納税義務が発生する(財産取得時において相続人に日本国内の住所があれば居住無制限納税義務者、住所がなければ非居住無制限納税義務者)。

米国在住で非居住者である長女Dさんが、国内在住のAさんから相続で財産を取得した場合、非居住無制限納税義務者として全て相続税の課税対象となる。

なお、米国在住の長女Dさんに対しては、現預金を中心に相続させ、自宅や賃貸物件に関しては国内在住の妻Bさんや長男Cさんに相続させることを提案する。ただし、それだけでは既にX社株式の贈与を受けている長男Cに大きく分割割合が偏ってしまうため、生命保険を活用した長男から長女への代償分割や、賃貸物件の賃料収入を原資とした長女への生前贈与も活用していくことも提案できる。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】みずき 2023年2月11日面接試験体験談Part1

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