2023年2月11日実技part2
2023年2月11日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(65歳)は、22年前、大学卒業後に勤務していた会社から、友人が経営するベンチャー企業に役員として転職した。その会社が7年後に上場し、付与されていたストックオプションを行使し、在職中に1億円以上の金融資産を得た。65歳を区切りに先月退職し、現在は妻Bさん(65歳)と都内の分譲マンションで暮らしている。1人息子の長男Cさん(38歳)は、大学院卒業後、外資系IT企業に勤務して高い収入を得ている。
Aさんの実家は、自宅から車で約90分の距離にある地方都市N市内にある。9年前に父親が、8年前に母親が相次いで亡くなり、父親の相続時には実家の近所にある旧街道沿いの甲土地を、母親の相続時には実家(土地建物)を、それぞれ姉と各2分の1の共有持分で相続した。また、3年前、その姉が病気で亡くなり、姉の唯一の相続人であった姪Dさん(42歳)が甲土地および実家の持分を相続した。
甲土地は、地元の不動産会社X社の社長の勧めで7年前にAさんが自己資金で甲建物(店舗)を建て、X社の仲介で飲食チェーン店Y社に賃貸している。実家については、空家になってから時折Aさんが行って管理していたが、退職したのを機にこれからは自宅と実家を交互に行き来し、畑仕事をしながら二拠点生活を楽しむつもりでいる。
【甲土地・甲建物の概要】
・土地:地積300u、Aさんと姪Dさんが共有(持分各2分の1)、時価評価額2,000万円
・建物:鉄骨造平屋建て、築7年、延べ面積100u、Aさんが単独所有
固定資産税評価額700万円、税務申告上の償却後簿価1,000万円(推定時価評価額)
月額賃料16万5,000円(消費税込)、敷金90万円
【実家の概要】
・土地:地積400u、非線引都市計画区域、時価評価額1,200万円
・建物:木造平屋建て、築30年、延べ面積80u、固定資産税評価額240万円
・土地建物のいずれもAさんと姪Dさんが共有(持分各2分の1)
姪Dさんは、2年前に離婚し、1人息子(12歳)と2人で暮らしているが、生活は苦しい状況である。Aさん家族は姪Dさんが小さい頃からよく一緒に旅行に行き、今でも長男Cさんは姪Dさんを姉のように慕っている。Aさんは、姪Dさんを支援してあげたいと思い、妻Bさん、長男Cさんに相談したところ、2人とも賛同してくれた。
Aさんのプランは、姪Dさんが安定した収入を得られるように甲建物を姪Dさんに贈与することである。店舗の賃貸借に係る敷金返還債務については、姪Dさんに引き継いでもらえればと考えている。また、将来の自身の相続時にもめ事が起きないように、甲土地も姪Dさんの単独所有とし、その代わりに実家の土地建物をAさんの単独所有にしたほうが良いと思っている。ただ、どのようにすればよいのか考えがまとまっていない。
Aさんは、姪Dさんへの贈与や共有状態の解消方法について、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.姪DさんがAさんから甲建物の贈与を受けた場合、贈与税はどの程度と考えられますか。贈与税の計算の仕組みを教えてください。
3.甲土地を姪Dさんの単独所有とし、実家の土地建物をAさんの単独所有にするためには、どのような方法が考えられますか。
4.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地・甲建物の概要】
<資料> 贈与税の速算表(一部抜粋)
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地と実家は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、Y社と締結している店舗の賃貸借に係る敷金返還債務や、Y社の経営・財務状況についても、Aさんに詳細を確認してもらうことが必要。
なお、Aさんは今後自宅と実家の2拠点生活を楽しむつもりでいるが、都内の分譲で暮らしている妻Bさんの意向についても確認しておいてもらう方が良いと思われる。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本件の場合、特に甲土地の今後の開発予定・環境変化について、不動産業者等の協力を仰ぎながら確認することが必要。
2. 甲建物の贈与を受けた場合の贈与税
暦年課税の贈与税は、贈与された財産の合計額から基礎控除110万円を控除した残額を課税価格として、課税価格に応じた10%〜55%の8段階の税率を乗じて計算する。ただし、18歳以上の子・孫が直系尊属から受けた贈与財産は特例贈与財産として、税率と控除が優遇される(それ以外の贈与財産は一般贈与財産として課税)。
※成人年齢の引き上げに伴い、2022年4月以降の贈与では、特例贈与財産の対象となる受贈者の年齢が18歳以上となった。
本問の場合、Aさんは姪Dさんの直系尊属(両親・祖父母)ではないため、一般贈与財産として課税される。
また、贈与の際に預かっている敷金を引き継がない場合、土地や建物の所有権者が敷金を返還する債務を負う負担付き贈与とみなされる。
さらに、負担付贈与により土地や建物等の贈与を受けた場合、贈与税の計算上、土地・建物の評価額は「通常の取引価格」(時価)となり、その評価額から負担額を控除した額を取得したものとみなされる。
よって本問の場合、Aさんは敷金返還債務についても姪Dさんに引き継がせたいという希望があるため、債務とともに預かっている敷金も引き継がせることで、負担付贈与として贈与税評価額が時価評価となって税負担が増すことを回避する。
貸家評価額=固定資産税評価額700万円×(1−借家権割合30%×賃貸割合100%)=490万円
評価額490万円−基礎控除110万円=380万円
よって、贈与税額=380万円×20%−25万円=51万円 となる。
また、甲建物を姪Dさんに贈与する場合、生活が苦しい状況では贈与税の支払い原資が無いと思われる。そのため、ストックオプションにより多額の金融資産を保有しているであろうAさんが、贈与税分の現預金も贈与してあげることを提案する。
3. 甲土地を姪Dさんの単独所有とし、実家の土地建物をAさんの単独所有にする方法
不動産の共有状態を解消する方法として、最初に検討できる方法として、固定資産の交換の特例の活用がある。固定資産の交換の特例は、土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときは、譲渡がなかったものとする特例で、交換する資産は土地と土地、建物と建物のように互いに同じ種類の資産であることが必要。
また、固定資産の交換の特例は、交換する譲渡資産と取得資産の差額が、高い方の資産の時価の20%以内であることが必要。
本問の場合、甲土地のAさんの持分が2,000万円×1/2=1,000万円で、甲建物の評価額が1,000万円である。
これに対し、実家の姪Dさんの持分が土地:1,200万円×1/2=600万円で、建物240万円×1/2=120万円である。
よって差額はそれぞれ土地400万円、建物880万円であり、土地同士・建物同士いずれの交換も特例の対象外となる。
よって、まずは甲建物を姪Dさんに贈与して賃貸収入を蓄積してもらいつつ、数年後に甲土地の持分と実家の土地建物の持分とをお互いに譲渡する方法を提案する。この場合、固定資産の交換の特例は適用されないが、生活に苦労している姪Dさんであっても、甲建物の賃貸収入を原資として、甲土地の持分の購入代金と実家の持分の売却益に対する譲渡所得税を負担することが可能と思われる。
4. 関与すべき専門職業家
甲土地と実家の権利関係を整理する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、不動産取引上の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、権利整理後の不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
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