2023年9月23日実技part2
2023年9月23日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(65歳)は、首都圏近郊のX市内にある自宅で妻Bさん(60歳)と暮らしている。1人息子の長男Cさん(35歳)は、東京都Y区内の賃貸マンションで妻と2人の子との4人で暮らしているが、子の成長とともに家が手狭になり、ひと回り大きな住宅への住替えを考えている。
2022年10月、Aさんの父親が死亡し、AさんはY区内にある甲土地(借地権)と甲建物を相続により取得した。甲土地は、1966年にAさんの父親が地主Dさん(72歳)の父親から借り受けたもので、甲建物は、Aさんの父親が同年に甲土地上に建築した戸建て住宅である。
甲建物は、5年前に母親が他界した後、父親が1人で暮らしていたが、現在は空き家となっており、老朽化による損傷が目立っている。
【甲土地・甲建物の概要】
・甲土地:借地面積300u(登記面積と同じ)
・甲建物:木造2階建て、延べ面積150u、築57年、固定資産税評価額300万円
・1966年にAさんの父親が地主Dさんの父親から旧借地法による期間20年、非堅固建物の所有を目的とする借地契約により、権利金1,800万円を支払って借り受けた。
・Aさんの父親は、更新料支払特約により、1986年と2006年にそれぞれ500万円の更新料を支払って同じ目的・借地期間で更新している。次回の更新時期は2026年である。
・地代は月額7万円である。なお、Aさんは5,000万円の金融資産を所有している。
Aさんは、今後、甲建物で暮らすつもりはなく、地代を負担し、空き家となっている甲建物を維持管理する状態は早急に解消したいと考え、地元の不動産業者に相談したところ、「甲土地は、最寄駅から徒歩15分圏の閑静な住宅街にあり、借地権付建物の取引も多く見られるエリアです。甲土地は、建売業者に現状有姿で9,000万円での売却が見込めますが、地主Dさんの承諾と借地期間の更新が条件になります」との説明を受けた。
また、長男Cさんに甲土地について聞いたところ、「甲土地は、住み替える場所としては申し分ない。ただ、今の甲土地は自分たちには広すぎるし、甲建物は建替えが必要なため、半分くらいの広さの土地に戸建て住宅を新築したい。また、地代や更新料の支払は負担なので、できれば土地を所有したい」とのことであった。
そこで、Aさんは、甲土地・甲建物を売却するプランと、地主Dさんと協議して借地権と底地を交換し、長男Cさん家族が暮らす戸建て住宅を建築するプランを比較検討したいと思い、FPであるあなたに相談することにした。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.Aさんが甲土地(借地権)・甲建物を9,000万円(現状有姿)で売却する場合、地主Dさんからどのような承諾を得る必要がありますか。また、売却した場合の課税関係を教えてください。
3.Aさんが地主Dさんとの交換により取得した土地に長男Cさんの自宅を建てる場合、どのような方法が考えられますか。また、その場合、Aさんの相続時にどのように評価されますか。
4.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地・甲建物の概要】
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地(借地)・建物は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、地主との交渉はAさんが主体的に行うことが必要であるため、地主との関係とこれまでのトラブルの有無の確認が必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、地主や第三者への売却時の参考情報として、不動産会社の協力を仰いで、売却代金や取壊費用等の相場を確認しておくことも必要。
なお、長男Cさん家族が暮らすことを想定した場合、将来的に甲土地周辺の環境に大きな変化が無いか、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
2. 甲土地(借地権)・建物を売却する場合に地主から承諾を得るべき内容と課税関係
◇借地を第三者に売却する際に地主に承諾を得るべき内容
借地権を譲渡する場合には、地主の承諾が必要であり、その際に借地人から地主に対して譲渡承諾料として借地権価格の10%程度が支払われることがある。
なお、譲渡承諾料は、名義書換料・名義変更料と呼ばれることもある。
ただし、借地権の相続は譲渡に該当しないため、地主への名義書換料や譲渡承諾料の支払いは不要。
なお、地主の承諾が得られない場合や、譲渡承諾料が過大である場合には、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可の裁判(代諾許可の裁判)を申し立て、許可を得ることが必要となる。
◇借地権付き建物売却時の課税関係
土地や建物の譲渡所得は、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えると長期譲渡所得となり、課税長期譲渡所得=譲渡収入金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除 となる。
本問の場合、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除と軽減税率の特例を適用することで、税負担を軽減可能。
●空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除
相続や遺贈で取得した被相続人の居住用住宅を、相続開始日から3年後(その年の12月31日)までに、売却額1億円以下で譲渡すると譲渡所得から最高3,000万円まで控除可能。ただし、相続発生から譲渡まで事業・貸付・居住用に使われておらず、譲渡時に現在の耐震基準に適合していることが必要。
●軽減税率の特例
贈与・相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐため、自宅の所有期間が10年超であれば(譲渡年の1月1日時点で判断)、軽減税率の特例が適用可能。
3. 地主との交換により取得した土地に自宅を建てる方法と相続税評価
? 甲土地の底地と借地を交換した場合の課税関係
底地と借地権を交換した場合、固定資産の交換の特例を適用することができれば、譲渡がなかったものとすることができる。
(固定資産の交換の特例では、交換する資産は土地と土地、建物と建物のように互いに同じ種類の資産であることが必要となるが、借地権は土地の種類に含まれる。)
? 交換比率の決定方法
固定資産の交換の特例では、互いの交換する固定資産の差額が、時価の高い方の固定資産の20%以内であることが必要。
ただし、土地の通常の取引価格と、当事者間の合意した価格が異なっていたとしても、交換をするに至った事情等に照らし合理的に算定されたものであれば、当事者間の合意価格が認められる。
よって、基本的には特例適用を前提に、価格差20%相当額以内での交換比率とすることを提案する。
? 交換後の相続税評価
地代を取らない使用貸借で借り受けた土地に、自宅を建築し、居住する場合の相続税評価額は、自用地となる。
使用貸借は地代を取らないため、土地の使用権は経済的価値が極めて低いと考えられ、相続税評価上はゼロと考えられるため(借地権の価値ゼロ)。
交換後の土地の地代は、「地代や更新料の支払は負担」と感じてる息子CさんからはAさんは徴収しないと思われるが、地代を払っていても固定資産税程度であれば、土地の使用貸借とみなされるため、本問の場合も自用地評価となる。
なお、Aさんの相続発生時に息子Cさんは別居親族であり、持ち家もあることから、交換後の甲土地に対して小規模宅地の特例を適用することはできない。ただし、妻Bさんが相続する場合には適用される。
4. 関与すべき専門職業家
甲物件の売却における、土地・建物の所有権移転登記等については司法書士、課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
なお、甲物件の測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、建物の修繕状況に関する建物状況調査(インスペクション)については建築士が適当。
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