2023年9月24日実技part1
2023年9月24日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさんは、専門工事業を営むX株式会社(非上場会社・取締役会設置会社)の代表取締役社長であったが、先月、病気により70歳で急逝した。地方都市に所在するX社は、Aさんが45年前に設立した会社である。バブル崩壊後は経営状況の厳しい時期もあったが、2000年以降、業績は堅調に推移している。X社の余剰資金は3億円以上あり、経営は安定している。
【事業承継について】
長男Cさん(42歳)は、1年前にX社の取締役に就任し、実質的に経営を担ってきた。その経営能力は高く、後継者としての資質に問題はない。X社の設立以来、Aさんを支えてきた取締役工事部長のEさん(68歳)も、次期社長として長男Cさんに太鼓判を押している。また、妻Bさん(68歳)は、長年、取締役として人事・総務の管理部門を担当し、Aさんを補佐してきたが、引き続き、取締役として長男Cさんをサポートしていきたいと考えている。
妻Bさんおよび長男Cさんは、Aさんの相続開始が突然であったため、早々に代表者を選任する必要があるが、その方法がわからない。また、AさんはX社株式の移転を進めておらず、自社株式の各種対策を行っていなかったため、X社株式をどのように承継(遺産分割)するべきか頭を悩ませている。
【資産承継について】
Aさんは遺言書を準備していなかった。妻Bさんが東京都内に暮らす公務員の二男Dさん(38歳)に意向を聞いたところ、二男Dさんから「親父が急死して、母さんや兄貴が大変なことは理解している。俺はX社の経営に関わるつもりはないし、不動産を欲しいとも思わない。
ただ、息子として親父の財産の一部をもらう権利はあると思っている」と言われた。長男Cさんと二男Dさんの関係は良好であるものの、妻Bさんは、兄弟間で相続財産の偏りが生じることに一抹の不安を感じている。
また、Aさんは生前、2人の孫(14歳、10歳)に教育資金贈与信託を利用して教育資金を一括贈与していた。これについて、長男Cさんは、信託銀行の担当者から残余財産が相続財産に含まれる可能性があると聞き、その概要を確認したいと思っている。
【Aさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億円
2.死亡退職金 : 7,000万円(妻Bさんに支給)
3.X社株式 : 4億円
4.自宅
(1)土地(300u): 6,000万円
(2)建物(築20年): 1,500万円
5.X社本社土地(500u) : 8,000万円(注)
6.月極駐車場(400u) : 5,000万円
合計 : 7億7,500万円
※Aさんの相続に係る相続税額(7億7,500万円に基づいて計算)は、約2億4,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と試算されている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金 :1,000万円
会社規模 :大会社
従業員数 :50人
完成工事高:22億円
経常利益 :5,000万円
純資産 :10億円
決算期 :10月
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん80%、妻Bさん10%、長男Cさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額7,000円/株
【Aさんの家族構成(法定相続人)】
妻Bさん(68歳) :X社の取締役。長男Cさん家族と同居している。
長男Cさん(42歳):X社の取締役。妻と子の3人で、母Bさんと同居している。
二男Dさん(38歳):公務員。妻と子の3人で官舎に住んでいる。
【親族関係図】
part1 ポイント解説
1. 納税資金の確保、相続税の軽減対策
(1) 金庫株の活用
(2) 小規模宅地の特例の活用
(3) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用
2. 遺産分割対策・資産承継対策
(1) 遺言分割協議書の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
3. 事業承継税制の特例の活用の留意点
Aさんが所有するX社株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)。
ただし、非上場株式等についての相続税の納税猶予・免除を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2024年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要(認定の申請は相続開始後8ヶ月以内)。
ただし、非上場株式の相続税の納税猶予・免除を受ける後継者は、相続開始日の翌日から5ヶ月経過時点で会社の代表権を有し、相続開始時に後継者と同族関係者等で総議決権数の50%超であることが必要。
本問の場合X社は取締役会設置会社であるが、取締役会設置会社では、取締役会や代表取締役の決定のみで機動的な事業運営が可能で、株主総会での決議は法定事項・定款で定めた事項のみとなる。よって取締役会で後継者である長男Cさんを代表取締役とする決議をすることが必要となる。
4. 相続人間の平等な相続方法
(1) 妻Bさんの相続分(自宅土地・建物、預貯金の一部)
自宅土地・建物を小規模宅地の特例を適用しながら相続させ、預貯金の一部を相続させることで、相続税負担と今後の生活不安を軽減する。
(2) 長男Cの相続分(X社株式と本社土地の相続)
X社株式を後継者であるCさんに集中させるだけでなく、X社本社土地についてもCさんに相続させることが、円滑な事業承継上重要である。
小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。
本問の場合、自宅のうち300uまで特定居住用宅地を適用し、X社本社土地は特定同族会社事業用宅地等として、400uまで小規模宅地の特例の併用が可能。
(3) 二男Dさんの相続分(金融資産と月極駐車場)
金融資産と月極駐車場を中心に相続させるが、それだけでは割合が少ないため、妻Bからの相続時精算課税制度・直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度を活用し、贈与税負担を軽減しながら生前贈与を行うことも検討できる。
以上の分割では、長男Cさんの相続分が多くなる可能性が高いため、金庫株やX社本社建物の賃料を原資とした代償分割(相続後に分割払い)により、ある程度均等な相続が可能と思われる。
また、妻Bの相続発生時(二次相続時)に、二男Dにより多くの遺産を相続させることも検討可能(遺産分割協議の中でこれらを記した公正証書遺言や贈与契約書の内容を検討することが望ましい)。
5. 教育資金贈与信託の残余財産の取り扱い
教育資金贈与信託は、いわゆる教育資金の非課税特例を利用するための金融商品で、非課税特例を受けるために、教育資金として信託銀行等の取扱い金融機関に預け入れ、教育資金管理契約を締結することが必要となる。
教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となるが、贈与者の死亡時期にかかわらず、贈与者が死亡した場合には、残額が相続税の課税価格に加算される。ただし、相続開始時に23歳未満の受贈者や、在学中・教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講中の受贈者は、生前贈与加算の対象外となる。
さらに、税制改正により2024年以降の贈与からは、贈与者の死亡時点で贈与者の相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても残額が相続税の課税価格に加算される。
Aさんの場合、現時点で所有財産が5億円を超えているものの、贈与は生前に実施したものであったため、10代の孫への教育資金贈与の残額は生前贈与加算の対象外となる可能性が高い。
●FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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