2023年9月24日実技part2
2023年9月24日実技part2
part2 問題文
●設 例●
都内で暮らすAさん(55歳)は、6カ月前に死亡した父親の相続における遺産分割協議の結果、実家である三大都市圏のK市内にある甲土地と甲建物(甲建物i:母屋、甲建物ii:離れ)を単独で相続することになった。実家には、5年前の母親の死亡後、父親が1人で住んでいたが、父親が1年前に要介護認定を受けて特別養護老人ホームに入所して以来、空き家となっていた。
Aさんは、今後実家に戻るつもりがないため、甲土地と甲建物を処分したいと思い、K市内の不動産業者X社に相談したところ、「この場所は、住宅地として人気の高いエリアです。甲土地は地積が大きく、建売に向いているため、おそらく買い手はすぐに見つかるでしょう」との説明があった。また、売却にあたっては実測が必要とのことで、Aさんは早速、X社から紹介された筆界調査委員を務める土地家屋調査士のYさんに実測図の作成を依頼した。
すると、数週間後、Yさんから思いがけない話があった。甲土地とその南側に隣接する乙土地の境界に問題があり、乙土地の所有者であるBさん(65歳)から承諾が得られず、実測図の作成ができないとのことである。ただ、登記所に図面があり、公簿面積と照らしても容易に確認することができるため、甲土地と乙土地の筆界については、仮に訴訟になっても勝算があるとのことであった。
この筆界が【甲土地の概況図】のa線である。一方、現状、a線の北側にあるb線上にAさんの祖父が築造した堅固なブロック塀があり、甲土地は分断され、南側の丙部分はBさんが乙土地と一体使用している。Bさんは、このブロック塀が建っているb線が境界(所有権界)であると主張している。Yさんによれば、かつてこの辺りは一部窪地になっていたため、Aさんの祖父が甲建物@を建てる際、斜面の下の境界ではなく斜面の上にブロック塀を建て
たが、その後、乙土地側が埋め立てられ、平坦になった時点で気が付かずにそのままになってしまったのではないかとのことである。Aさんは、実家に住んでいるころもブロック塀の内側が敷地と思い込んでおり、父親からもその外側(丙部分)の話は聞いたことがなかった。父親も知らなかったものと思われる。
このたび筆界が判明したことから、AさんはBさんに丙部分の返還を申し入れた。しかし、Bさんは、「22年前、乙土地は平坦に造成されており、ブロック塀までが乙土地と言われて購入したものであり、丙部分は自分の土地である。突然、自分たちの土地なので返還しろと言われても意味が分からず承服できない」と主張している。Aさんは、この問題をどのように解決したらよいか頭を悩ませている。
なお、先日、売却を相談したX社から、甲土地を購入したいという建売業者がいるので検討してもらいたいとの連絡があった。購入価格は、仕入価格なので相場よりも少し安いが、建物解体後の更地として路線価と同額の25万円/uとし、甲土地(450u)を総額1億1,250万円で購入したいとのことである。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.土地の境界には「筆界」と「所有権界」という2つの概念がありますが、どのような違いがありますか。また、AさんはBさんが占有する丙部分を返してもらうことはできますか。
3.Aさんが甲土地を建売業者の提示価格で売却した場合、譲渡所得の金額の計算上、「相続空き家を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用を受けることはできますか。
4.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地の概況図】
※第一種低層住居専用地域、指定建蔽率50%、指定容積率100%、普通住宅地区
※乙土地および丙部分の宅盤は平坦である。また、乙土地および丙部分の宅盤は甲土地(丙部分を除く)よりも低く、その高低差は約50pである。
【甲建物の概要】
・甲建物i(母屋):木造2階建て、築51年(1972年3月建築)、延べ面積150u
・甲建物ii(離れ):木造平屋建て、築42年(1981年3月建築)、延べ面積50u
・甲建物ii(離れ)は、Aさんの母親が行っていた茶道教室用の茶室として建てられたが、母親の死亡後は子や孫たちが訪れた際の客間として使用されていた。
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地・建物は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、乙土地所有者であるBさんとの交渉が必要となってくるため、隣接する土地所有者との関係とこれまでのトラブルの有無の確認が必要。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本問の場合、甲土地・建物を売却する場合を想定し、売却する時期・金額等についてあらかじめ不動産業者Xと接触して周辺事情を把握しておくことが必要。
2. 筆界と所有権界の違いとBさんが占有する丙部分の返還可否
「筆界」とは、土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとして定められた線であり、所有者同士が合意しても変更できず、変更するには分筆・登記が必要となる。
これに対し「所有権界」は土地の所有権の及ぶ範囲の境界線として、隣接地の所有権者との合意により自由に設定可能。所有権界は、筆界のままでは土地の使い勝手が悪いような場合に、隣接地の所有者とお互いに使いやすいように境界を設定しなおす際に設定されるため、「筆界」と「所有権界」が一致していない状態のまま放置すると、第三者への売買時や相続発生時に境界紛争に発展することがある。
なお、民法上、他人の物であっても10年または20年以上所有する意思をもって占有した場合には、所有権を取得することになる(取得時効:善意無過失なら10年、20年以上なら無条件)ため、22年間所有していたと主張するBさんには取得時効が成立(時効の援用)している可能性が高い。このため、丙部分の返還は相当Bさんと交渉して納得してもらわない限り難しいと思われる。
3. 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用可否
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、相続や遺贈で取得した被相続人の居住用住宅を、相続開始日から3年後(その年の12月31日)までに、売却額1億円以下で譲渡すると譲渡所得から最高3,000万円まで控除可能。ただし、相続発生から譲渡まで事業・貸付・居住用に使われておらず、譲渡時に現在の耐震基準に適合していることが必要。
本問の場合、単純に甲土地を売却するだけでは売却額が1億円超であるため、適用対象外となる。
また、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は「居住用住宅」が対象であるため、別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫等の部分は対象外となる。
よって本問の場合、甲土地のうち母屋部分が建築されている部分の土地のみが特別控除の対象となることから、母屋と離れ部分を分筆してから譲渡することで、母屋部分のみ売却額1億円以下を満たし特別控除の対象とすることが可能。
4. 関与すべき専門職業家
甲土地・建物を売却する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、不動産所得の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
なお、甲土地・乙土地の権利範囲を裁判で確定することになる場合には、弁護士が適当となる。
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